ただならぬ状況を察して、ラウラはジェイクとエルウッドの間に入った。
「待って、エルウッド! ジェイクがシオンを殺したって言うの?」
「そうだ。こいつが殺したんだ!」
ジェイクは尻もちをついたまま、エルウッドを鼻で笑う。
「なにトチ狂ったこと言ってやがる。なんで俺がシオンを殺すんだよ」
内心では緊張が走るが、そう見せぬよう強気に返す。
「理由なんかどうでもいい。いいか、ラウラ。【クラフト】はな、使い手が作れる物しか作れなかったんだ。もし本当にシオンがオレたちに遺したんなら——『
ラウラは一瞬で青ざめて、ジェイクから一歩引く。
「ジェイク……。嘘でしょ? シオンは、他にはなにも遺してなかったって……」
「大方、本人と一緒に崖から落ちちまったんだろうよ……」
エルウッドが睨みつけてくる。
「お前が
「しつけえな。証拠でもあるのかよ」
「シオンが本当に死に備えて準備してたんなら、簡単に無くすわけがない」
「シオンシオンうるせえな! 死んだやつのことなんて、誰もわかねえだろう!」
「そうかよ! じゃあもういい!」
エルウッドはジェイクに背中を向け、奥に引っ込んだ。
ラウラが追いかけていく。
「エルウッド、どうする気?」
「シオンを殺したやつと一緒にやっていられるか!」
エルウッドは私物や本を乱暴に詰め込んだ鞄を背負って出てきた。
ラウラは困ったように後ろについて来ている。
ジェイクはしめたものだと心中で笑う。
これ以上、シオン殺しを追求されなくて済む。
「ああ、そうかよ! こっちも濡れ衣着せられたままじゃ気分悪いからなぁ! エルウッド、お前はパーティ追放だ! どこへでも行っちまいな!」
エルウッドは怒りの表情のまま、ジェイクを睨みつけてくる。
それから店頭に飾ってあった斧と盾を手に取る。
シオンが遺したエルウッドの装備だ。文字通り鋼鉄をも断ち切る
「おい待て! そいつらは置いていきな!」
「なんだと?」
「お前の私物じゃねえ。パーティの所有物だ。追放されたてめえが触るんじゃねえ!」
「ジェイク、それはあんまりじゃない!」
ラウラが抗議するが、エルウッドはさして気にした様子もなく鼻を鳴らした。
「じゃあいいよ。いらねえ」
エルウッドは
「そいつをじっくり見て思い知れ。シオンの偉大さをな」
それからラウラを一瞥する。
「悪いな。ラウラ、色々教えてくれたこと、恩に着る」
エルウッドはそのまま店を出ていった。せいせいする。
「待って! 待ってよ、エルウッド! ジェイク、あなたもなにやってるのよ! 謝って! ここで別れちゃったら、あたしたち一生バラバラよ!」
「騒ぐなよ、それのなにが悪いってんだ」
ラウラは泣きそうな顔をする。
「だって、だってあたしたちずっと一緒にやってきたじゃない。シオンがいなくなって、あれだけ悲しかったのに、また誰かがいなくなるなんて嫌よ……!」
「俺とお前だけでいいじゃねえかよ。どうせ、仕事はほとんど俺ひとりでやってたんだ。あんな木偶の坊、必要ねえんだよ!」
「あんたひとりで……ね。そうね、そうかもね……」
ラウラは沈んだ表情のまま、ジェイクを見下ろした。
「そうよね、あんたは……あたしたちを必要としてないのよね……」
ジェイクはラウラの瞳から涙が流れ出すのが見えた。その意味は、わからない。
「あたしも抜ける。『フライヤーズ』は、これで解散よ……」
ラウラが背中を向けて奥に行こうとする。
ジェイクは慌てて立ち上がり、ラウラの肩を掴んだ。
「ダメだ! お前は行くなよ!」
ラウラはその手を振りほどく。
「なんでよ! あたしだってエルウッドと同じよ! 役立たずの木偶の坊じゃない!」
「わからねえのかよ! 俺がなんのために冒険者辞めて、こんな商売してんのか!」
「はあ? なんのためよ!?」
「お前を幸せにしてえからだよ!」
ジェイクは振りほどかれたその手で、ラウラの手を掴みにいく。
拒絶するように、ラウラは体ごと大きく退いた。
「俺の気持ちはとっくに知ってるだろう! ガキの頃からずっと、お前だけを見てた! 好きなんだよ! 愛してるんだよ! だから行くなよ! 行かないでくれよ!」
ラウラはおぞましいものでも見たかのように、ぶるりと体を震わせた。
「ふざけてんの、あんた……」
その冷たすぎる視線は、ジェイクを凍りつかせるのに充分だった。
「お前……まだシオンのこと引きずってるのかよ。死んだやつのこと、まだ好きなのかよ」
「勘違いしないで。そりゃ一度は惹かれたけど、シオンが誰彼構わず褒めるやつだってことは知ってるでしょう。あんたこそ、どうしてあたしが、バカで短気なあんたに今までついてきて、庇ったり、みんなとの仲を取り持ってやってたと思ってるの?」
「まさか……」
「でもそれも終わり。シオンが死んでから、あんたは本当にクズになったわ」
ラウラの言葉に、ジェイクは膝から崩れ落ちる。
ラウラは多くの私物はそのままに、手荷物だけを簡単にまとめた。そして、さようならの一言も無く、出ていってしまった。
ジェイクは呆然と、それを見送るしかなかった。
やがて、誰にともなく呟く。
「ふざけんなよ……。俺がお前らを必要としなかったんじゃない……。お前らが、俺を必要としてなかったんじゃねえか。いつもいつもシオンシオンってよぉ……」