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第37話 たった今、失恋したんだけど





「及ばずながら、私も助力する。メイクリエの人間が、やつらのような者ばかりではないと証明しよう。なんでも言ってくれ。鍛冶仕事は素人だが、教えてくれれば一から覚えてみせる」


「ありがとう。それならちょうど良かった。これから、例の魔物の巣の対処をしようと思っていたんだ。一緒に来てくれないか」


「それはいいが……私は負傷で騎士職を追われた者だぞ? 日常生活に問題はないが、剣を長く握っていられない。盾役くらいしかできないが」


 アリシアは自分の右腕をさする。


「それで充分だよ。戦闘が目的じゃないからね」


「わかった。準備しよう」


 おれは頷いて、強く拳を握りしめる。


 よし、やるぞ!


 好きな女の子を幸せにする。


 そのために、かつて無いほどにやる気が満ち溢れている。


 今なら、なんだってやれそうな気持ちだった。



   ◇



 ——その頃、ソフィアとノエルはアリシアの屋敷の一室で休憩していた。


「えー! なんでそこまで言ってるのに気づかないの、ショウは!?」


「それがショウさんらしいところです」


 ソフィアは先日、恋についてショウと話したことを、ノエルに伝えていた。


「はー。まー、そうだけどさー。でも今回の仕事が終わってからって、ちょっと期間長くない? いい雰囲気だったんなら、そのとき告白しちゃっても良かったんじゃないの?」


「それは、その……わたしの勇気では、それが精一杯でした……。それにノエルさんにも、ちゃんと話しておかないとフェアではないと思いましたから」


「ア、アタシは関係ないじゃん?」


 ノエルはわずかに頬を染め、視線を逸らして前髪をいじる。


「べ、べつにショウのことなんて、好きじゃないんだからね」


「……ノエルさん」


 ソフィアはノエルを見つめる。根負けして、ノエルは儚げに笑う。


「ごめん、嘘。さすがにわかっちゃうよね……」


「はい。わかります」


「でもアタシには脈なさそうだけどねぇー。ソフィアに他に好きな人がいるって思っちゃってるわけでしょ? そのせいで最近ショウの様子が変だったのなら、もう勝負は見えてるっていうか……」


 はぁ〜、と大きくため息をつく。


「それはわかりません。相手はあのショウさんですから、わたしも不安です……」


「それは言えてるけど……」


 そこに足音が近づいてくる。歩き方で誰だかわかる。


 ショウはノックのあとで、決意に満ちた顔を見せる。


 妙な予感がした。


 かつて、ソフィアを誘ってくれたときの表情に似ている。


「ソフィア、おれは君が好きだ!」


「!?!?」


 ソフィアとノエルは、息が止まった。


「他の誰かを好きでいてもいい。ただ、おれは君を幸せにする! 必ずだ!」


「は、はい……」


「それじゃ、ちょっと魔物の巣に行ってくるよ」


 それだけ残して行ってしまう。


「待ってくれ、ショウ。そう慌てなくてもいいだろう」


 扉の向こう側で、アリシアの声が追いかけてきた。


 今度はアリシアが扉を開けて顔を出す。


「すまない。ショウが、なにかおかしな感じでやる気になっているんだ。変なことを言っていなかったか?」


「あー、いや……その、さ」


 声の出せないソフィアの代わりに、ノエルが答えてくれる。


「アタシ、たった今、失恋したんだけど……」


「え、あ……そ、そうか……」


 困ったように眉をひそめ、ソフィアとノエルに交互に視線を巡らせる。


「で、では今晩は飲もう。私たちだけで」


「うん、ありがと……」


 ノエルは大きく息を吐きながら、テーブルに突っ伏した。


「おめでと、ソフィア」


 言われてソフィアは時間差で顔が熱くなっていくのを感じた。胸のドキドキが激しくなっていく。


 ソフィアは熱くなりすぎた顔を両手で覆い、いつまでも身動きが取れなかった。

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