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第27話 深くお詫びいたします




「なんで良かった話みたいな雰囲気出してるのよ! あなたのせいで、どれだけ悔しい思いをしたか……どれだけ困ってた人を助けられなかったか、わかるでしょう!」


「まあ、それはそうだ」


「因果応報、です」


 ノエルの怒りに、おれとソフィアは頷き合う。


「だ、だからそれは謝るから! これまで立ち寄った場所全部で罪滅ぼしする!」


「しつこい! そんなに言うなら諦めさせてあげる。アタシね、もう婚約してるの。わかる? あなたの手の届かないところへ行くのよ!」


「!!!???」


 ボロミアはあまりの驚きに声も出せずに固まった。


 ノエルが婚約したというのは明らかに嘘だろうが、諦めさせるための手段としては、悪くはない。


「……だ、誰だ? そんな……僕のノエルを……誰が……」


「誰って、それは……」


 そこまで考えてなかったらしく、ノエルは言い淀む。


 その瞬間、なぜか勝手に納得したらしく、ボロミアはもの凄い形相をおれに向けた。


「お、お、おおお前かぁあ!」


「え、ちが——」


「そうよ! そう、アタシの婚約者はショウよ!」


 えええ!?


 今度はおれが声が出なくなる番だった。


 ソフィアまで驚愕して硬直してしまっている。


 ノエルはおれの腕に自分の腕を絡ませ、大きく柔らかい胸を押し付けてくる。


 そして小声でささやく。


(なにかつてない顔で驚いてるのよ、ここは合わせてよ!)


 仕方ない、演技しておこう。


「そ、そうだー。おれがー、ノエルのー、婚約者だー」


「く、く、くそぉお! こうなったら……!」


 暴れるか?


 おれはいつでも対応できるように拳を握り、重心を落としておく。


「僕はお前に挑戦するぞ、ショウ! お前を超える男になって、ノエルを取り戻してやる!」


「ん? お、おお! いつでも来るといい! 相手になってやる!」


「首を洗って待っていろぉおお!」


 ボロミアは号泣しながら全速力で走り去っていった。


「……面白いやつだなぁ」


「アタシは面白くない。って、なにソフィア、なんで引っ張るの」


 ソフィアがぐいぐいと引っ張って、おれからノエルを引き剥がす。


 それからおれとノエルの間に入り、唇を尖らせる。


「ショウさんは、ノエルさんと婚約しません」


「そりゃあその場しのぎの演技だからね」


 くすり、とノエルが笑う。


「あー、でもわかんないなぁ。さっきたくさん褒めてもらっちゃったし、ショウのお陰で色々変わりそうだし、アタシ結構ショウにときめいてるかも〜♪」


「……ノエルさん」


「冗談よ、冗談♪」


 少しばかり頬を染めつつ、ノエルは笑って一歩引く。


 それからおれは、黙ってボロミアを見送った護衛に声をかける。


「主人を追わなくていいのかい?」


「追いますが、その前に一言、謝罪申し上げます」


「謝罪?」


「どうせ失敗すると侮辱した件、深くお詫びいたします。海水淡水化装置、見事な出来でした」


「ありがとう」


 護衛は懐からなにか紙片を取り出して、こちらに差し出した。


「私はアランと申します。こちらのカードには、ボロミア様および私への連絡先が記載されております」


「ボロミアくんに連絡するつもりはないけど……」


「利用するとお考えください。ロハンドール帝国魔法学院とのコネとして、役に立つこともありましょう」


「なぜそうしてくれる?」


「ひとつはボロミア様の罪滅ぼしのため。もうひとつは、あなた方のような優れた方とは、繋がりを残しておきたいからです」


「お互いに価値があるから、お互い利用し合おうってことかな?」


「仰るとおりです」


「そういうことなら、受け取っておく」


「ありがとうございます。では失礼いたします」


 アランは深々と丁寧に礼をしたあと、ボロミアを追って走り去った。


 おれは「ふう」と一息つく。


 みんなのほうへ振り返って、表情を崩す。


「なんだか騒がしかったけど、無事に終わったね。みんなお疲れ様」

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