「ねえねえ、ショウってさ、なんかすっごく頼りになる感じね」
ショウに言われたとおりソフィアが休んでいると、ノエルが楽しげに話しかけてきた。
「はい、とても頼りになる方です。いつも助けられています」
声が自然と明るく出てしまう。ショウのことを褒められると自分も嬉しくなる。
「ふぅん、いいなぁ。アタシもそういう恋人が欲しいなぁ。あんなストーカーじゃなくてさぁ」
どきん、と心臓が高鳴る。
「恋人……。わたしとショウさんは恋人に見えるのでしょうか」
「え、違うの? 恋人じゃないの?」
「……はい。恋人では、ありません」
事実を口にしただけなのに、ソフィアはなんだか寂しい気持ちになる。
「ふたりきりで旅してて、お互い凄く信頼してるっぽいのに? 気がついたらいつも隣にいたりするから、てっきりそういう関係だと思ってたんだけど」
他者からそう言われると、また嬉しくなる。
「むしろなんで付き合ってないのか不思議。ショウからアプローチとかなかったの?」
聞かれてすぐ思い出すのは、ラスティンの町での出来事だ。
顔が熱くなって、胸がドキドキしてくる。心地のいい焦燥感。
「アプローチとは違うと思いますが、可愛いとか綺麗とか魅力的と熱心に言われたことはあります」
「いやいや、それアプローチ。口説いてるからそれ!」
「はい、その前日には惚れたとも言っていましたので、わたしもそう思いました。今思うと、早とちりで恥ずかしいです」
「待って。どこ? 早とちり要素どこ?」
「惚れたというのは、いわゆる腕前や心意気に惚れたというものだったそうです。その他のことは、わたしの自虐を否定するための言葉だったと……」
「えー……たとえそうでも、なんとも思ってない女の子にそうは言わないでしょー?」
「それが……言うのです、ショウさんは」
ソフィアは小さくため息をついた。
ノエルは「へっ?」と目を丸くする。
「言うの?」
「言います」
ラスティンの町を旅立つ前日にバネッサがショウに呆れていた理由が、あとでわかった。
「ショウさんは、素直な方なのです。特に相手を褒めるときは」
「それは誰彼構わずってこと?」
「はい。他の女性に言っていたときはとても驚いて、わたしも少し不機嫌になってしまいましたが……男性にも同じように言っていたときにはもっと驚きました。諍いになってしまったときに相手を褒め始めたときは、逆に凄みを感じました」
「それは確かに凄いわ……」
「だから……本当に、ショウさんはわたしにアプローチしたわけではないと思うのです」
しかし自分に向かって言っていたときのショウは、他とは熱意が違っていた気がする。
自惚れだと思うので、それは口に出さない。
「そうなんだ……。じゃあソフィアは? ショウのこと、ソフィアはどう思ってるの?」
「それは……よくわかりません」
そこは本当に、よくわからなくなっている。
ショウに口説かれたと思ったときは、嬉しくて舞い上がり、ふわふわしてしまっていた。
しかしそれが好意からの言葉でなかったのなら、自分のあの気持ちは早とちり。ただの勘違いではないのだろうか。
「ただ、物を作るときに気持ちが熱くなるのと違って、胸がぽかぽかして、一緒にいられて心地よく感じています」
ノエルは満足そうににんまりと笑う。
「んー、いいなぁ。学院は恋愛禁止だったから、恋バナ聞けるの新鮮〜♪」
ソフィアはますます顔が熱くなる。
「恋愛かどうかは未確認です。もう、話題を変えましょう」
「はいはい。可愛いなぁ、ソフィアは♪ なになに、何の話をするの〜?」
「では、ノエルさんが普段食べている物を教えてください」
「食べてる物?」
「はい、大変興味があります。主に発育の面で。やはり牛乳は欠かせませんか?」
ソフィアはノエルの豊かな胸を凝視する。
「牛乳、好きだけど……え? 本当に何の話?」
そんなこんなで女子ふたりのトークはのんびりと続いたが——。
「ふたりとも、ただい、ま——ぐえっ」
——樽を背負って帰ってきたショウがぶっ倒れて中断された。