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第20話 どうせ失敗するなどと、二度と侮辱するな



「ノエル、君は三日しかないと言うけれど、おれたちからすれば三日もあるんだ」


 ソフィアに目を向ければ、力強く頷き返してくれる。


「はい。本体は三日もあれば充分すぎるくらいですが、ノエルさんのほうはいかがでしょうか。魔力回路の書き込みには相応の時間がかかるとお見受けしますが」


「回路の構築自体は一度やってるから、まあ一日あればできると思うわ」


「わかった。なら今日中に材料を揃えて明日で形にしよう。どこかで工房を借りられるよう鍛冶屋に話をしてみるよ」


「うん、ありがとう〜、あなたたちに会えて良かったぁ」


「ノエルさん、お礼を言うのはまだ早いです」


 こうしておれたちは、町の鍛冶屋を訪ねることにしたのだが……。


「売れない? 工房を貸せないのはまだわかるが、材料ひとつも譲ってもらえないのか?」


「ああ、ダメだね」


「なぜでしょう? 貴重な材料なら譲って頂けないのはわかりますが、これは——」


「理由なんぞ、なんであんたらに言う必要がある。仕事の邪魔だ、とっとと帰んな!」


 取り付く島もなく、追い返されてしまう。


 他の鍛冶屋を訪ねても、同じく門前払いを食らってしまった。


 これは弱った。さすがに材料がなければ作れる物も作れない。


 ノエルは肩を落として、大きくため息をついた。


「どうしてこうなっちゃうのかしら……」


「落ち込まないでください、ノエルさん。こうなったら他の手段を考えるまでです」


「うん……。でも、なんかごめんね。アタシ、ちょっと先に戻ってる」


 ノエルは力なく、ふらふらと歩き去ってしまう。


「ノエルさんが謝ることではないでしょうに……」


 ノエルの後ろ姿にソフィアは呟く。


 一方、おれはべつの方向を見ていた。


「謝るような事態が進行してるのかもしれない」


 おれは一言ソフィアに言うと、商店の物陰からこちらを覗く人影に近づいた。


「さっきからおれたちを尾けているようだが、なんの用だい?」


 小綺麗な身なりをしたその男は、「ほう」と声を上げてからにやりと笑った。


「気づかれておりましたか。思ったより高ランクの冒険者様のようですな」


「社交辞令はいい。なんの用だ?」


「率直に申し上げる。この件から手を引いていただきたい」


「断る」


「相応の謝礼金をご用意いたしますが」


「お金の問題じゃない」


「ではなにをお求めでしょう? こちらには交渉の用意がございます」


「まずは事情を聞かせて欲しい」


「それはお話しできません」


「なら交渉には乗れない。二度と顔を見せないでくれ」


「そう仰っしゃられては仕方ありません。簡潔にご説明いたしましょう」


 男はノエルが去っていったほうへ瞳を向ける。


「ノエル嬢には、より相応しい場所あります。しかしそれをお認めになりませんので、少々卑怯な手段を取らせていただいております」


「つまり今回の仕事を失敗させて、借金のカタにノエルの自由を奪うつもりなのか?」


 男は肯定も否定もしなかった。


「あなた方は、ノエル嬢とは先ほど知り合ったばかり。縁もゆかりもないでしょう。ただ手を引くだけで大金を得られるのです。なにを迷うことがありましょう」


「確かに迷いはない」


 おれは男を睨みつける。


「おれは信用できない相手とは取引しない」


「そうですか。後悔いたしますよ。どちらにせよ、材料も工房もなければ装置は完成させられない。どうせ失敗するのなら、金を受け取っておくのが賢い選択です」


「帰ってくれ。いや、帰る前に一言だけ言わせてくれ」


「どうぞ」


「どうせ失敗するなどと、二度と侮辱するな」


 男は鼻で笑った。


「心得ておきますよ」


 男が立ち去ってから、おれはソフィアのもとへ戻る。


「ショウさん、今の方はどなたでしょうか?」


「どうやらノエルの関係者らしい。金をやるから仕事を放棄しろと言われたよ。鍛冶屋にも手を回して妨害してるらしい」


「どうして、そのようなことを……」


「詳しくはわからない。けど、ノエルなら心当たりがあるはずだ」

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