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第14話 なんちゃって、です



 やっちまったあぁああ!


 翌日の昼、宿で目を覚ましたおれは頭を抱えた。


 なにが「君に惚れた」だよ! 言葉が足りないにもほどがある! あれじゃ告白してるだけじゃないか! 情熱と腕前に惚れたって言いたかったのに!


 しかもそのあとの「君と一緒に歩んでいきたい」ってなんだよ! どう聞いてもプロポーズじゃないか!


 しかもしかも、なんでソフィアはそれを受けちゃったんだ! まだ出会ったばかりなのに!


 やっぱり一緒に仕事をやろうって言ったから? 断ったらそっちの話も無しになると思われた?


 だとしたらこれ、無職の女の子に、就職を条件に結婚を迫ったみたいだぞ!


 誤解を解こう。そうしよう。それしかない。


 まず反省だ。


 おれは感情的になりすぎていたんだ。ソフィアには、それだけおれの心を動かすものがあったからだけど、これからは冷静に対応しよう。


 冷静さだ、冷静さ。大丈夫、冷静さがあれば、なんでもできる。


「よし!」


 気合を入れて部屋を出ると、ちょうどソフィアが通りがかったところだった。


 お互い見つめ合って、立ち止まってしまう。


 ソフィアは恥ずかしそうに口元に手をやり、少しばかり俯く。


「おはよう、ございます……」


「ああ、お、おはよう!」


 つい声が上擦ってしまう。


 ダメだ。初手でミスった。


 冷静さはどうした! お互い意識しちゃってるじゃないか!


 誤解を解くんだ。会話のテーブルにつかせるんだ!


「い、い、一緒に食事でもどうかな」


「……はい」


 うわああ、おれのバカヤロウ! デートに誘ってるみたいになってるじゃないか!


 とはいえ話はしなくちゃならない。ここは流れに身を任せよう。


 宿の一階の酒場で、ふたりでテーブルに付き、遅めの昼食を注文する。


 宿代や食事代は、昨夜のうちにバネッサから借りている。依頼解決の手続きが済めば、報酬が出るので、すぐ返せるはずだ。


 注文の品が来るまでの間、下手に落ち着いてしまったせいで勢いがなくなり、話が切り出しにくくなってしまった。


 見れば、ソフィアもどこかそわそわしている様子。


 普段の表情からさほど変化はないが、よく見ればそれくらいはわかるようになった。


 しかし、こうして改めて見ると本当に美少女だ。


 やっぱり綺麗な瞳をしている。まつ毛も長い。鼻筋はすっと通っていて、形のいい唇は上品に閉じられている。


 って、見惚れてる場合じゃない。


 おれは深呼吸してから、やっとのことで切り出した。


「その、昨日話したことなんだけど……」


「はい。すみません、男性にああいったことを言われたのは初めてで、少し、ふわふわしています。舞い上がってしまってお恥ずかしい限りです」


「ああいや、言いづらいんだけど、それは……」


「わかっています。一晩考えましたが……ショウさんは、わたしの腕のほうを買ってくれたのだと思います。わたしの魅力なんて、せいぜいそれくらいでしょうから」


「いや! そんなことはない!」


 おれはテーブルに乗り出した。


「君はとても可愛いよ! こうして話していても知的な感じで落ち着くし、時々言う冗談には驚かされるけど楽しいし、たまに笑ってくれたときなんかすごく魅力的だ。それに物作りに真剣に打ち込む姿は、目が離せなくなるくらい綺麗だった」


「ご注文の品をお持ちしましたよ〜」


「あ、ども」


 聞かれた……!


 恥ずかしいセリフをめちゃくちゃ聞かれた!


 というか、なんでおれはこんなこと話してるんだ。


 冷静に対応するつもりだったのに。


「ごゆっくり〜。頑張ってくださいねー」


 料理を置いて、ウェイトレスは立ち去った。が、カウンターで店主と一緒にニヤニヤしながらこちらを観ている。


 無視するしかない。


 こほん、と咳払い。


「とにかく君は、君が思ってるより、ずっと魅力的な女の子だよ」


 ソフィアは瞳を下に向け、顔を真っ赤にする。


「ありがとう、ございます……。やはり、そういう意味でしたのなら……はい、ご期待に添えるよう頑張ります」


「いや、ごめん……そういう意味でもなくて」


 おれは運ばれてきた水を一口飲んでから、仕切り直す。


「今のは女の子として魅力がないってことに対する否定なわけで……。なんでか口説き文句みたいになっちゃってるけど、昨日から話してるのは、男女の仲になって欲しいって意味じゃなくて、一緒に仕事をしようって誘ってるつもりだったんだ」


「そういう、ことでしたか……」


「仕事を餌に交際を迫ったりはしないよ。君にだって、選ぶ権利がある」


「わたしは……お付き合いしても良いと思っていました。ショウさんも、素敵な方ですから」


 見つめられて、胸がドキリと高鳴る。


 けれどおれはすぐ気付いて、小さく笑う。


「またまた。真面目な顔して冗談言うんだもんな」


「…………」


 ソフィアはなぜだか小さなため息をついた。


 それから儚げに微笑む。


「はい。なんちゃって、です」


 とにかく誤解は解けた。これでやっと仕事の話ができそうだ。


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