「シオンが……死んだ」
パーティリーダーのジェイクの言葉を、女魔法使いラウラは信じられなかった。
シオンはS級冒険者パーティ『フライヤーズ』の一員として、数々の冒険を共に乗り越え、いつだってパーティを支え、何度も窮地を救ってくれた。その彼が、こんなところで死ぬわけがない。
「嘘よ、そんなの……」
「そうだ。だってあいつは……あいつはシオンなんだぜ」
盾役の戦士エルウッドも、唇を震わせ、首を横に振る。
そんなふたりに対し、ジェイクは表情を固くして俯いた。
「俺だって、嘘だったらいいと思ってるさ……。でもこれが現実なんだよ。あいつは俺の目の前で死んだ。殺されたんだ。あいつの相談に乗ってたら、急に魔物が——」
「じゃああんたは見殺しにしたっていうの!? 助けなかったの!? なんであたしたちを呼ばなかったの!?」
「呼べなかったんだ。敵は魔法で俺たちの声を、そっちまで届かないようにしやがったんだ」
「
「いたんだろ……。偶然、通りがかったのか、この山の主だったのかは知らねえよ。けど急に襲われて、シオンは俺を庇って……」
ジェイクはつらそうに目を背ける。
エルウッドが呟くように問う。
「その魔物は、どうなったんだ?」
「シオンが殺ったよ。あいつ、もう重傷で……助からないって覚悟したんだろうな。魔物を道連れして、崖を……飛び降りた」
「そんな……」
ラウラは力なくその場を離れる。シオンが飛び降りたという崖のほうへ、ふらふらと歩いていく。
そこには確かに誰かの——きっとシオンの血の痕があった。彼の持ち物が散乱している。
下を覗き込めば、シオンの装備がいくつか、崖の中腹の岩に引っかかったままになっている。
シオンが落ちたというのは、きっと間違いない。
そして、崖の高さは絶望的。崖下には滝のような激流の川があったはずだが、その姿が雲に隠れるほどの標高であり、激流の音もここには届かない。
ここから落ちたというのなら、シオンは……確実に……。
ラウラは膝から崩れ落ちる。
「う、うぅうっ、シオン……。シオン……う、うあっ、うあああん」
「シオン、お前、本当に死んじまったのかよぉ……!」
追ってきたエルウッドも、シオンの死を確信して、歯を食いしばりながら涙を流した。
ふたりは、その背後でジェイクがどんな顔をしていたのか知らない。