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第3話 やっぱり、ざまあみろ、です



「S級冒険者パーティと言っても、『フライヤーズ』の実力は大したことなくてね。並の武具を装備してたなら、せいぜいB級上位がいいところだったかな——」


 S級になれたのは、自分で言うのもなんだけど、おれの作った装備のお陰だと思う。いい武器や防具で、実力を大きく底上げしてたんだ。


 おれは物を作るのが好きだったし、仲間の役にも立ちたかったから、駆け出しの頃から夢中で【クラフト】を使ってたよ。上手く作れるようにって勉強もした。だいぶお金を使ったよ。本は高いからね、全部合わせたら家が一軒くらい買えてたかもしれない。


 お陰で、気付いたらS級【クラフト】なんて言われててさ、材料さえあればなんでも作れるって扱いになってたんだ。


 竜の鱗も切り裂く剣とか、毒竜アシッドドラゴンの強酸を受けても無傷の盾なんてのも作ったよ。


「それは、凄いです。竜鱗は生物の持つ装甲としては最強だと聞いています。その強度はあの伝説のオリハルコンにも勝るとも劣らないとか。それを切り裂けるなんて、おとぎ話の中でしか見たことがありません」


 ソフィアは目をキラキラさせて、前のめりになる。


「毒竜の強酸のブレスは、その竜鱗さえ溶かしてしまうと聞いています。それを防ぐ盾なんて、想像するだけでどきどきしてしまいます」


 その様子になんだか少し嬉しくなるが、話の続きを思うと苦しくもある。


「けれど、どんなに凄い武具を作れても、良好な人間関係は作れなかったみたいだ——」


 あるいは、強すぎる技能スキルが招いたことなのかもしれない。


 材料さえあれば伝説級の武具も作り放題なんだ。奪いたくなっても不思議じゃない。


 最高の素材を探して、この山の頂上でキャンプしたときだよ。


 リーダーのジェイクが、ふたりきりで話があるって言うから付いていったら、刺されたんだ。


 あいつが持ってたのは『技盗みの短剣スキルドレイン』だった。刺した相手の技能スキルを奪う魔法道具マジックアイテムだよ。


 倒れたおれを、あいつは口汚く罵ってた。


 前から気に入らなかったとか。読書ばかりでつまらないとか。戦闘じゃ役立たずだとか。他にも色々とぶちまけていたけど、もう、あまり思い出したくない。


「——それで最後に、追放だ、ってさ。パーティからだけじゃなく、この世からも……」


 そこまで話して、おれは大きくため息をついた。


「おれはどこで間違ったんだろうな……。君のお陰で命は助かったけど、技能スキルも仲間も失って……目的もなくて……なにをして生きていけばいいんだろうな……」


「それは……わたしにはなにも言えません。けれど、ひとつお聞きしてもいいでしょうか?」


 ソフィアが小さく片手を上げるので、「どうぞ」と質問を促す。


「奪われたのは、シオンさんの技能スキルのどこまでなのでしょう?」


「どこまでもなにも、手をかざすだけで材料から物を作り出す能力そのものだよ」


 おれの返答にしっくり来ていないのか、ソフィアは小首を傾げる。


「えぇと、ソフィアは、先天的超常技能プリビアス・スキルについて詳しくないみたいだね。説明するよ」


「すみません、お願いします」


 先天的超常技能プリビアス・スキルが、生まれついて超常現象を起こせる能力だってことは知ってるね?


 発生はごく稀で、一説ではその人が前世で培った技術が、転生したときに昇華された能力だとか言われているけど、本当のところはわからない。ただ超常的な才能として、実際に存在してる。


 例えば【ソードマスター】という技能スキルなら、生まれつき剣の才能がずば抜けてる。


【フライト】なら、魔法の修行もしないうちから自然に空が飛べる。


 おれが持ってた【クラフト】なら、材料さえあれば、手をかざすだけで物が作れる。


 とはいえ、技能スキルがあれば、その分野ですぐ最強になれるわけじゃない。【ソードマスター】だってちゃんと修行をしなければ一定以上強くはなれないし、【フライト】も空をよく知らなければ簡単に墜落事故を起こしてしまう。


【クラフト】の場合は、明確な製造方法と完成イメージが必要になる。


 剣を作るとすれば、材料の金属をどうやって鍛えて、どんな風に剣の形に整えて、どれくらい刃を研ぐのか。最初から最後までイメージできなきゃならないんだ。


 言ってしまえば、自分の腕で作る手間と時間を省いてるだけ。


 イメージできなければ——つまり、材料や製法の知識が足りなければ、ろくな物は作れない。


 だから材料知識や製造技術を学ぶ必要があった。「なんでも作れる」なんて言われてたのは、おれが「なにに対しても、どう作ればいいかイメージできる」ようになれていたからなんだ。


「——あの、それはつまり」


 そこでソフィアが再び小さく手を上げる。


「シオンさんの知識は、先天的超常技能プリビアス・スキルには含まれないという認識で合っていますか?」


「うん、そういうことになるね」


 するとソフィアは微笑んだ。


 今までと違い、誰が見ても笑ったとわかる表情だ。普通の女の子なら、満面の笑みと言ってもいい顔だったに違いない。


「それなら良かったです。やっぱり、ざまあみろ、です」


 言って、山頂のほうへ顔を向ける。


 おれが刺され、技能スキルを奪われた場所……。


 ハッとする。


 ソフィアの言わんとすることを理解する。


「……は、ははっ」


 心の底から笑いが込み上げてくる。


「あはははははっ!」


 ソフィアの言うとおりだ。


 奪われた事実は変わらないけれど、考え方次第でこんなにも愉快になれる。


「ざまあみろ! 無知なお前に、おれの技能スキルは使いこなせない!」


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