「コテージが汚い!」
私は開口一番、声を張る。
もうとにかく汚い。私も毎日掃除をしているが、それを遥かに超えるペースで部屋が汚されていく。汚染されていく(ちょっと言いすぎたかも)。汚れだけではなく、クマさん達はとにかく物を出しっぱなし、やりっぱなし、食べっぱなし。
意外にも、うーさんまでもがそんな具合だったことに、些か以上に驚いている。驚いているというよりも、ショックだった。
最近ではしょっちゅうやってくるきーさんも、ガンガンに部屋を荒らす。
クマさんにうーさんにきーさん……思春期の子ども三人の面倒を見ているような気分になる。お母さんって大変だったんだな~なんて思うこの頃。
「掃除します!」
そんな訳で私は、朝っぱらからどんちゃん騒ぎをしていた三人を呼び付け、こう宣言したのだ。
「え~結構綺麗じゃん~」
「私もどこが散らかってるのかサッパリ?」
「うっす! 超綺麗っす!」
私のお掃除宣言に、直接では無いが三者三様の言い回しで反対してくる。一体何処が綺麗だと言うのか?
部屋の床という床には、乱雑に転がっているうーさんお手製の形状記憶クッションが転がり、テーブルの上には昨晩のディナーの残りと、朝っぱらから飲み明かしているシャンパン瓶が所狭しと置かれ、キッチンには大量の使用済みの鍋やらフライパンやらが並ぶ。
さらには何かをこぼしたのか、跳ねさせたのか分からないが、壁のあっちこっちに得体の知れない汚れがこびりついている。
これの何処が綺麗だと? ふざけてるのかな? それとも目がついていないのかな?
「良いから! 掃除!」
「「はい!!」」
私がどうやら本気だと分かったのか、ブーブー言っていた三人は、一斉にシャキッとした。
「じゃあ早速始めるよ!」
私は三人にそれぞれ掃除道具を渡して、指示を出した。皆が部屋の中や壁やらを掃除している最中、私は山積みになった食器やら鍋やらの洗い物を始末することに。しかし一向に減る気配がない。一体昨晩だけでどれだけ使ったのだろう?
「文香~もう無理だよ~落ちないよ」
必死に鍋と格闘している私の隣に、クマさんがしょんぼりしながらやってきた。
そう言われても、じゃあどうするのよ? って話になる。このままではコテージの査定額が落ちてしまう。私はそんな無駄な不安を感じつつ、一体どうしようかと考えだす。
「何か汚れが取れるような、文字の木とかって無いの?」
「う~ん……無いことはないけど、今は無いかな~輸入すればなんとかだけど……」
輸入? 今輸入って仰いました?
「輸入ってなに? どこと貿易してんの?」
ここ最近で一番驚いたかもしれない。いやいや輸入って。まさかね……。
「他のこういう場所とだよ? それぞれの付近に生えてる木と、交換したりして便利な生活を……」
「え!? 他にも文字の森ってあるの!?」
そうそうこんな秘境があるはずがない。というより、あってたまるか!
「そりゃあるよ~人間はしょっちゅう自殺するからね~」
クマさんは当たり前でしょ? とでも言いたげにサラッと暴露する。まあ当たり前と言ったら当たり前か。
「それじゃあその貿易でどうにか掃除道具を?」
「まあ~それもありだけど、貿易を管理しているあーさんにお願いした方が早いと思う」
クマさんの口から新しい名前が飛び出てきた。
あーさん……貿易を管理しているとなると、この森にいる住人の中でも飛びぬけて優秀そうだけど……。それにしてもあーさんか。どういう人物だろう? というより人物なのだろうか? 今までの経験上、この森には人間はおろか、動物でさえいない。いるのは元ぬいぐるみ達だけだ。
「そのあーさんってどんな人?」
「う~ん……」
またまたクマさんが長考し始めてしまった。こうなると長いのがたまにキズだが、クマさんだし仕方ない。むしろクマさんがこうなることを知っていたのに、答えにくい質問をしてしまった私に非がある。最近そう思うようにしている。うんうん、きっと間違ってない。
「きれい好きだよ~」
数分間の沈黙ののち、クマさんの口から発せられたのはそんな回答だった。
確かに私が悪いと思うようにし始めたとはいえ、やはり納得できない面がある。いつもいつも長考した後の回答が、短いし浅いのだ。この子は考えるフリをしながら、その実、何も考えていないのではないかという疑念が去来する。でも私は気にしない。気にしたら負けぐらいに思っている。
「その綺麗好きなあーさんが掃除してくれるってこと?」
「そうそう。あーさんは掃除のプロフェッショナルなんだ~」
クマさんはそんなことを口にしながら掃除道具を片付け始める。もう自分には掃除は必要ないと言わんばかりの態度である。クマさんを見習ってか、うーさんときーさんも道具を片付ける。疲れたのか、二人はそのままソファーに寝転んでしまった。
「それじゃあ早速行こうか!」
「いきなり行くの?」
「そうだよ? だってコテージが汚いと、文香は居心地が悪いんでしょ?」
なんか微妙に、私のせいみたいな感じになっているような気がしないでもないけれど、それはこの際置いといて、クマさんは早速あーさんに会いに行くようだ。
「文香も行くよ~」
「はいはい、分かったからちょっと待って!」
相変わらずクマさんはマイペースだ。