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第二十話 封印は出来てたの? 出来てなかったの? 3

 私はクマさんと話しているうーさんの隙をついて、うーさん邸の探索を開始する。なにせ部屋が何処までも続いているような、そんな造りなのだ。几帳面なうーさんのことだから、部屋ごとに役割があるに違いない。


 部屋は今いる玄関部屋から縦に三部屋、横に三部屋続いている。普通に考えればその間にも部屋はあるわけで、おそらく四×四の十六部屋存在することになる。


「一体何に使ってるんだろう?」


 私はその疑問を解消するために、玄関部屋からこっそり奥の部屋へ。次の部屋はリビングなのか、木製の可愛らしい円テーブルの上に数多の大根が転がっている。大根以外も食べるはずだけれど、何故か大根ばかりゴロゴロと。


 テーブルの背後には小さなキッチンが設置されていて、調理器具は全部が木製のアットホームな雰囲気となっている。


 さらにその奥に進むと、うーさんのサイズピッタリのベッドが置かれ、ベッドにはシルクのシーツがかけられている。この部屋は見たまんま寝室だが、あまりにも殺風景過ぎてさらに奥の部屋へ。


「何ここ……?」


 私がリビングと寝室を越えた一番奥の部屋へ入った時、言葉を失った。あまりにもうーさんのキャラとは程遠い部屋だった。部屋の壁紙が全てカラフルな七色で、ピンクのソファーの真ん前に一本足の長方形のテーブルが置かれ、その上にはミシンが置かれている。


 その隣のハンガーラックにはフリルの付いたワンピースが何着も……うん? 凄く見覚えがある。なんでだろう?


 私は壁に立てかけられた姿見に映った自分を眺める。うん。私の服がどうして何着もあるのか不思議だったけど、制作者が判明した。まさかうーさんに服飾の趣味があったとは。


 なんか見てはいけないものを見てしまった気分だ……。


「うーさんになんて言おう?」


「私に何か?」


 ビクッとして後ろを振り向くと、そこには仁王立ちしたうーさんがいた。そのさらに後ろには、こちらをそっと覗くクマさんの姿が。


「い、意外な趣味をお持ちですね」


 私はどことなく片言になる。だってしょうがないでしょ? まさかあのうーさんがだよ? クマさんならともかく、うーさんだよ? 一切想像してなかった。不意打ちで頭を殴られた気分。


「私の趣味はこの際おいといて。なんで勝手に家の中漁ってるんですか?」


 うーさんはうーさんで、見られたことがショックだったのか、勝手に家を荒らされた怒りからなのか敬語になっている。礼節を重んじるうーさんのことだから、きっと後者だな。


「あの……ごめんなさい」


 私は素直に謝った。うーさんの趣味はどうあれ、勝手に荒らすのは流石にマナー違反だ。


 謝りながら、まだ行っていない部屋の方角に視線を向けると、うーさんは驚くべきスピードで回り込み、私の視線を遮断した。


「うーさん?」


「うん?」


 うーさんはにっこり作り笑顔を貼り付けながらも、これ以上は行かせないという固い意志を示してきた。


「それで今日は何をしに来たのかな?」


「ちょっと家を見てみたくて……」


 私は素直に、特に用事が無いことを白状した。


「それにしても私の服をうーさんが作ってたなんて思わなかった」


「クマの奴に頼まれたんだよ。仕方なくだ仕方なく」


 うーさんはやれやれと言いたげに首を横に振る。だけど私は知っている。ハンガーラックにかけられている服の中には、確実に私用じゃない女性用の服が何着かかけられている。


「ねえうーさん。この服は~?」


 私は弄らないのは勿体ないと思って、この服の所有者について尋ねた。


「え、この服? これは~練習だよ練習! なあクマ!」


「そうだね~その服は一年くらい前からあったよね~」


 クマさんは天然でうーさんの逃げ道をぶち壊す。急に孤立したうーさんは信じられない者を見るような目で、クマさんを数秒間見つめた後、軽くため息をついてこっちを向く。


 たぶん心の中でクマだからな、とか思って諦めてそう。


「私の趣味はおいといて」


 うーさんはさっきと同じ台詞で逃げようとする。あからさまに逃げられないのは分かってそうなのに、それでも貫くということは、それだけ切羽詰まってるということだ。でもうーさんには色々お世話になってるから、ここまでにしとこう。


「でもうーさん。こんなに大きな家必要? というかなんでこんな構造?」


 そうこのうーさん邸は、何故か広さの割りに部屋数が多すぎる。しかも全部同じサイズのドーム状。器用というかなんというか、どうしてこんな構造に?


「だって私の特有の能力は繰り返し使える爆弾しかないから……」


 そういえば前に聞いた時、大岩を爆破してそこに住んでるって言ってたけど、まさか本当だったとは……。


「じゃあつまり?」


「はい。十六回爆破して家を造りました」


 うーさんは白状する。


 文字の森の住人の中で一番常識的なうーさんが、一番非常識な家の作り方をしていた。本当に冗談みたいな大岩に、冗談みたいな作成方法だった。


「それはそうと二人に話がある」


 うーさんはさっきまでとは違って、キリっとした表情でそう告げる。


「なんのことかな?」


 クマさんは不思議そうな顔をしている。おそらくうーさんが、クマさんと真面目な話をすることなど、ほとんど無かったのだろう。


「この間の悪い者についてだ」


 悪い者という単語に、クマさんは珍しく表情を固くした。

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