ある民家の部屋の片隅で、うずくまる少女がいた。

　カーテンを締め切り、薄暗くなったその部屋で少女は一日中塞ぎ込んでいた。

　少女の名前は、海城芽亜里。

　ある高校で問題を起こし、親友や好きだった男にも見放されてしまい、登校拒否を続けていた。

　ある日、そんな彼女のスマホへとメールが届いた。

　差出人は不明で本文も無い。あるデータが添付されたそれを、不思議に思いながらも彼女は開いた。

　それは動画のデータであり、画面に映し出されていたものは――。

「ッ！！！！！？」

　芽亜里は目を見開き、驚愕の顔を浮かべる。

　画面に映っているのは、一人の裸の少年を取り囲む大勢の男達。

　彼らもまた裸であり、その中心にいるのは紛れもなく彼女にとって愛しくて、しかしとても憎い存在、木山宗太であった。

「あ、あああ……！？」

　声にならない悲鳴を上げる芽亜里。

　彼は男達に隅々まで蹂躙されており、始めは苦悶の声を上げていながらも、段々とその顔と声に色を帯びていった。

『ぅあ、あ……』

　画面の中のその瞳は、すっかりと蕩けきっている。

「いやあああああ！！！！」

　思わず絶叫する。現実に耐えられなかった彼女は、そのまま気を堕としていき……。

　◇◇◇

　あの復讐から二年が経った、早いもんだな。

　俺も十九歳だ。今は裕と専門学校に通っている。あの時協力してくれたメンバーは、滝を筆頭に今も交流があり、その内の誰かとは月に何度か遊んでいる。

　芽亜里とはあれから一度も会って無いが、どうにも自律神経が完全に駄目になったらしい。

　俺自身はらいらと順調で、彼女が出来ないと嘆いていた裕にアーリさんを会わせてあげたら、意外と意気投合して付き合う事になった時は驚いた。

　なんだかんだ周りの人間も良い感じに幸せを掴んでいて、俺も嬉しい限りだ。

「そう言えば知ってるかお前。木山の奴がさ……」

　夕方の街中を歩く俺と裕。

　学校も終わってぶらぶら歩いて回ってるそんな時、裕が話しかけて来た。

「木山？　まさかお前の口からあいつの名前を聞く事になるとはな。俺もお前に言われて二年ぶりに思い出したな。で、その木山がどうしたんだ？」

　木山といえば、二年前に復讐した相手だ。

　その復讐も終わった後、性格の更生の為にショッキングな目に合わせたのを覚えてる。

　あれ以来会ってないが、それが今さら何だって言うんだ？

「いや、つい最近あいつのことを思い出したんだけどな。そういえばどうしてるかなーって。で、気になって色々と調べたんだよ。そしたらな……」

　裕が言うには、女と縁をすっぱりと切ったらしい。

　今はヒモになるのを止めて自立して金を稼いでいるんだと。

　さすがに調べ切れたのはここ半年ぐらいの事らしいのだが、少なくとも彼女は出来て無いとのこと。

　成程、俺達が骨を折って更生させた甲斐があったって訳だ。

「ふぅん良かったんじゃないか？　誰も被害に遭わなくなったって言うならさ。それで、木山は今何やってんだ？」

　話を聞かされて俺も少し気になってきた、今となって恨みも何もないが、あの時の事を思い出すと多少は胸が空いた気分だ。

「う～ん、結果的には良かったのかもしれないけど……。ま、あいつの人生だから、他人を食い物にしない限りはどうでもいいんだけでも」

「なんだ？　そんなに言いにくいことか？」

　歯に物が挟まったかのような物言いに、俺は首を傾げる。

「いやまあ、実はな……。うん？」

　話を続けようとした裕は何かに気づいたようで、道路を挟んだ道の向こう側を見ていた。

　気になって俺もそっちの方に目をやると、そこには意外な者が居た。

「あれ？　あいつ木山じゃないか？」

　そこに居たのは二年ぶりに見た木山だった。

　その顔はあの頃と何一つ変わっていない、たった二年しか経ってないんだから当たり前か。まさかこんなところで見かけるとは思わなかったな。

　あの頃と違うところがあるとすれば、最後に見かけた時のような卑屈な表情をしていないって事くらいか。どこか生き生きとしているように見えた。

　誰かと待ち合わせでもしてんのか？

　そう思ったすぐ後、知らない男が木山に話しかけていた。

　そいつは縦にも横にもデカい大男で、落ち着くが無くそれでいて粘っこく、どこか油めいた童貞臭さを感じさせる。

「まさか、こんな所で見る事になるとはなぁ」

　裕がボソッと呟く。やっぱりこいつ何か知ってるな。

　男と少し話した後、木山はそいつに――キスを交わして二人してどこかに去って行った。

　思わず驚いてしまったが、よーく観察してみると、二人の後をカメラで撮りながらついていく男達を発見する。

　その一団が去った後に、裕は口を開いた。

「つまるところだな……木山の奴は”ソッチ”方面の映像に出るようになったみたいなんだよ。今のはきっと撮影だろうな」

「…………はぁん、そっか」

　互いに肩をすくめた後、また再び談笑をしながら歩き始める。

　俺達は滝と待ち合わせをしているんだ、場所は勿論あの時と同じラーメン屋だ。

　今日はあいつの彼女との惚気話でも聞かせて貰うとするか。

　fin.