昨日は羽目を外し過ぎたな。
先輩達も盛り上げる為にどんどん音頭を取っていくもんだから、すっかり全員ノせられてしまった。
ああ、のどが痛い……。滝もパソコン部やロボット部や演劇部の連中もノリ良く歌ってさ。
ちなみに演劇部の連中は、ボイスレコーダーを貸してくれただけじゃなくて、先輩達が喧嘩のフリをしている時に木山を急かしてたんだと。
それにしても野郎だけの華のないどんちゃん騒ぎだが、楽しかったなぁ。
……結局騒ぎ過ぎて、裕が呼び出し食らってたのは流石に悪かったな。
芽亜里は、多分もう学校に出て来れないだろう。
あれだけ無様を晒して親友にも嫌われてしまったからな。流石にこれで出て来れる程図太い女じゃない。
木山の奴も同じだが、あいつの場合は問題を起こし過ぎたから。
女教師の件は、あいつがまだ未成年って事で相手の女教師の方に責任がいくんだろう。旦那さんがどうするか知らんが、腹にいるのが自分の子供じゃないんだ。間違いなく離婚だろうな。
それ以外だと、単に騙されていただけの女達から慰謝料でも請求されるんじゃないか? 払うのはあいつの親になるんだろうが。
しかし、もしそうならバカ息子のせいで数十人分の慰謝料を払わされる羽目になるなんてたまったもんじゃないだろうな。もしかしたら勘当かもな?
親戚はおろか知り合い連中にも片っ端から悪行の証拠を送り付けたんだ。あいつの知り合い全員にバレてしまったわけだから、家を追い出されてもどこも頼れないだろうな。
ま、自業自得だけど。
そのうち寝取った女の元カレ達から報復を受けるかも知れないな。同情はまったくするつもりはないが。
「さて、と……」
既に連絡は取り付けてる。
ケリはつけた。今の俺なら堂々と、大手を振って……。
◇◇◇
やって来たのは、本来俺には縁の無かったはずの豪邸だ。
相変わらずデカい。でもこんな事で気後れしていられない。
インターホンを鳴らす。
『はい、お待ちしておりました。甲斗さん、お嬢様は今か今かとソワソワしていらっしゃいますよ』
カメラ越し俺の姿を確認したアーリさん。
その顔は、こちらからは見えないがきっと微笑んでいるんだろう。声が弾んでいるのがはっきりと分かる。
そうか。らいらも楽しみにしているのか。
『分かりました。俺も覚悟が出来ていますので、楽しみにしておいてくれと伝えておいて下さい』
『ふふっ分かりました。では、今から門を開きますね』
その声が終わると同時に、門のロックが外れて自動で開かれる。
そこから玄関まで続く道は長いが、俺は迷わず進む。一秒でも早く会いたいからだ。
そして、遂にたどり着いた。
『ようこそいらっしゃいました。さあ、どうぞ』
扉が開かれ、俺は一歩を踏み出した。
「こんにちは甲斗さま。このらいら、存分に待ちわびておりました」
「ああ、待たせたな」
玄関をくぐり抜けて待っていたのは、可愛いらしい俺のらいら。
そう、もう俺のと言っていいんだ。過去の清算はついたんだから。
「詳しくは話せないけど、今日から正式に俺の彼女になってくれないか?」
「はい! 喜んで!」
満面の笑顔だなぁ。俺もつられて笑ってしまう。
やっと取り戻したんだ、俺の大切な恋を。
飛び込んで来たらいらを抱き上げ、その顎を指で優しく持ち上げる。
「恋人になって早々悪いけど、一つ頼みがあるんだ。聞いてくれるか?」
「何なりと、どのような頼みもあなたの救いとなるのなら。喜んで叶えさせていただきます」
この幼い少女の体に、溢れんばかりの母性。俺はこれに救われたんだ。
もう抑えが利きそうにないな……。
「その唇を、俺だけのものにしたい」
「! …………はい。このようなものでよければ――らいらをどうぞ、頂いて下さいまし」
俺の願いを聞き入れてくれた彼女は、ゆっくりと目を閉じていく。
その愛くるしい顔を、これからは俺だけが見つめられる。
「…………」
「…………」
俺達はしばらくの間、互いの感触を確かめるようなキスを。
それはほんの一瞬の触れ合いだった。それでも、お互いの気持ちを交換し合うには十分過ぎた。
「まぁ! お嬢様ったら、いつの間にあれほど大胆になったのやら」
離れたところでアーリさんの呟きが聞こえたが、今はそんな事はどうだっていい。
これからはずっと一緒なんだ。これからもっと色々な事を二人で経験していくんだ。
だから、これからよろしく。本当に始まるんだから、俺とらいらの幸せが。
fin……?