『…………っ! ぅぁぁア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!』
「おい木山の奴、キレやがったぜ」
「流石に化けの皮が剝がれたか。予想以上に煽られてたからな」
「ちょっとやばいかも。このままじゃ暴れちゃうよ!」
「いや、会議には体育の教員だって参加してるはずだ。直ぐに取り押さえられる。……と思う」
余裕の無くなった木山の行動に、パソコン室に動揺が広がった。
実際に現場にいる訳じゃない俺達だが、この後どうなるのか気が気じゃない。
怪我人が出るんじゃないか?
と、心配していたんだけれども……。
『見苦しいな! いい加減にしないかい!!』
滝がそう叫んだと思えば、次の瞬間には何かが地面に叩きつけられるような大きな音が響いた。
『! ……ぅぅ』
木山の呻き声が聞こえる。これは一体?
「あ、そういえば……」
「急にどうした、裕?」
「いやな。確か滝の奴さ、ストレス発散目的で柔術を習ってるって言ってたなって。通信教育、だっけか? まあ、そんな感じの」
「……って、まさか!?」
「そのまさかだよ。……あいつ多分、木山を投げ飛ばしたぜ」
マジかよ……。
おそらくこの場にいた全員が思った事だ。先輩達も含めて口をポカンと開けている人間が何人もいる。
まさか滝がそういうキャラだったとはな。あの大人しそうな顔でなぁ……。
その後、木山が一言も喋る声が聞こえなかった為、恐らく気絶したんだろう。
滝に対してやり過ぎだと先生達に叱られる様子を伺えたが、それも直ぐに終わって会議室から退室するように言われている声が聞こえてきた。
『では、これで失礼します』
滝は会議室から出たみたいだな。
俺は用の済んだ無線の電源を落とした。
「いやぁ面白かった! わざわざ集まった甲斐があったぜ」
先輩の一人が楽しそうな声で言う。他の人達も概ね満足しているようだ。
その後はパソコン室に滝が無線を戻しに来て、それをロボット部の奴が受け取って。
まあそんなやり取りの中、誰もが滝の事を一目置いていた。
先輩達だって、すげえなお前と何度も滝の背中を叩いて褒め称えていた。
俺としても、今回の事で滝がただの優男ではないという事が分かったのは収穫だと思う。
「さてと。今日の放課後裕のバイト先でカラオケパーティーだ。みんな、今日は俺が全部奢るから楽しんでくれよ! 滝、特にお前には感謝してもしきれないくらいだ。すっかり主役の座を取られた気分だな。だからお前には一番楽しんで欲しい」
「いや僕は、ただ自分の好きにやっただけだから。大層な事なんて何も……」
はは、さっきまでと打って変わって謙虚だ。
でもそういう所が気に入ってしまった。今回のMVPなんだからしっかり楽しませてやらないとな。
「あんまり騒ぐと俺が店長からドヤされるんだからな。その点だけは、俺の事をちゃんと思って欲しいっていうかさ」
「分かってるよ、裕。……お前がいたから俺達は集まれたし、木山の野郎に目にもの見せる事が出来た。本当に、お前のダチで良かった」
「! …………ふっ。ふっふっふ、ははははは! だろ?! やっぱ俺っていい奴だよな。……これからもよろしくやって行こうぜ、相棒」
ああ、本当に。長い付き合いになりそうだ。
久しぶりの清々しい気分に、俺は思わず笑みを浮かべてしまった。
――そう、心からの笑みだ。本当の喜びって奴だ……!