『木山、包み隠さず正直に全て話せ』
この声は学年主任か? 今まさに問いただしてる所だな。
「おいおい始まったぜ、一体どんな醜態を晒すんだ!」
「馬鹿っ静かにしてろ。向こうに声が届いちまうだろうが」
俺の後ろで先輩達が少し騒いでいたが、流石に直ぐに収まったようだ。
そんな事はどうでもいい、とにかく木山の反応だ。
『ええ、ですからその、何かの間違いであるとしか……』
『しかしだな。我々の携帯に送られてきた画像や動画に映っている男は、どうみても君にしか見えないが?』
『これが本当ならお前は、この学校はおろか、他校の女生徒ととも不純な関係を結んでいる事になるな』
『いえですので、それは……』
『他にも教員にまで手を出しているようだ。先月退職された先生のお腹には君の子供がいると思われるが?』
『女性関係ばかりで無く、自らの評判を高める為に賄賂を不特定多数に渡していたそうじゃないか。これもお前は他人の空似と言うんだな?』
これは……凄いな。木山の奴完全にしどろもどろになってやがる。
これで言い逃れしようものなら、こいつはもう救いようが無いな。
『い、いい加減な事を言わないで下さい。僕は潔白ですよ!』
木山の奴まだシラを切るつもりか?
「おもしれぇ! 優秀な頭脳をお持ちの木山君がどうやってこの場を切り抜けるのか、是非拝見させて貰おうじゃいか!」
「おい、声がデケぇぞ」
「おっとすまねぇ」
裕の奴、興奮して声が弾んでやがる。俺自身諫めはしたが、内心は同じ気持ちだけどな。
『……滝。木山はこう言っているが、同じ生徒会の人間として彼は日頃どのような人間か教えて貰えるかな?』
俺達の期待の星、潜入工作員となった滝が発言するぞ。
頼むぜ滝……!
『はい。まず木山君という人物に関して言えば、先生方もご存じの通りに品行方正であり同学年は勿論の事、他学年でも人気が伺える好人物でして。生徒会の仕事も真面目にこなしていました』
「滝の奴、中々にたぬきだな。本当は木山の事が嫌いなのに」
「飽くまでも冷静に客観的に、ここで声を荒げるのはマイナスになりかねんからな」
思った以上の演技派な滝の声に、俺達は思わず感心してしまった。
そして滝は続ける。
『また、彼はご両親の期待に応える為にと勉学にも励んでおりまして、成績は常にトップクラス。特に英語に関しては、ネイティブスピーカーすら凌駕すると噂される程の腕前です。更に―――』
「あいつ、よくこんなにスラスラ出てくるな」
「それだけ気を張って臨んでるって事だろ? なにせ俺達のスパイだからな」
滝はそれからも撤退的に木山を持ち上げる発言を続ける。
無線だから顔は見えないが、きっと木山の奴も頼もしい味方にほっとしている事だろう。……それがこれから始まる執行の前準備とも知らず。
『滝、つまり君は木山は他人を貶めたり公序良俗に反する行為を行うような輩では無いと言うだな?』
『滝君、君はそうまで僕の事を……』
「おうおう、木山の野郎涙ぐんでるぜ。こいつぁ傑作だ!」
「裕、黙ってろって」
裕が茶化してくる。
しかし、木山が滝の言葉に感動してるのは確かだ。
だが、その言葉が木山にとって死刑宣告となる。
『はい。少なくともそれが僕が今まで見て来た木山君の人物像です。――表向きの顔としては、ですが』
『……何?』
『え?』
始まるぞ……!