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第5話 もし、復讐を決意出来たら

 入ってきたのはもちろん俺の可愛い彼女(予定)、らいら。

 その姿は、あの白さの眩しいお嬢様の制服じゃなくて当然私服なんだが、これもまた似合っている。白いワンピースタイプのブラウスに、紺色のスカート。


 思わず見惚れてしまって、俺は彼女に駆け寄った。


「大丈夫、全然待ってなんかいなかったよ。それよりその格好……」


「えぇ、これが私の普段の格好の一つなのですが。あなたのお目に映っても差し支えないものと思います。あなたの目には綺麗なわたしだけを入れて欲しいので」


 いじらしく、知性のある言葉遣いだ。この時点であのクソ女の完敗だろう。思えば何であんなのを好きになっていたのか。

 ダメだな。新しい彼女になるはずの女の子の前で、以前付き合っていた汚物の事を考えるなんて。こんな失礼なことはない。


「とっても綺麗で可愛い。これからもっといろんならいらが見てみたいな」


「ありがとうございます、心から嬉しい。それとご安心を、そのような機会はいくらでも差し上げますから。もっとたくさんのらいらを愛でてくださいな」


 女神のような母性を感じる。それでいて天使のような容姿と声。

 生き地獄から天国になってしまったな。

 こんな気分を味わえるなんて、これで死んだら地獄行きだろう。けどそれも悪くないかもしれない。今なら死んでもいいかも。


「さあ、お座りください。紅茶を用意しますね。お菓子もありますので、ぜひ召し上がってください」


「ああ、ありがとう。いただきます」


 アーリさんがそう言って、俺は今までソファに座ってないことに気付いた。

 待ちわびていたのか? そうかも。


「はい、お待たせいたしました。アールグレイでよかったでしょうか?」


「うん、大丈夫です。というかすごいなこれ。カップ一つでウン十万とかするんじゃないか?」


「ふふ、お上手ですね。ですがお察しの通り、こちらは一セット数百万はくだらないものです」


「は、はは。やっぱりそうですよね。……あ、おいしい」


 痛めているはずの胃に優しく溶けていく、そんな感覚を味わった。


「それはようございました。お嬢様も喜びます」


「えぇ、甲斗さまが喜んでくれてわたしも大変喜ばしい限りです。彼氏の楽しんでいる姿というものは、自然と口元がゆるむものなんですね。ふふ」


 自分の口元に柔らかく小さな指をあてて、上品に微笑む。

 まるで生きた芸術だ。これほど絵になる人物もいないんじゃないか?

 そんな彼女の横顔を見ていると、アーリさんが話を切り出した。


「お二人ともとても仲睦まじい様子。この分だと正式な婚約はすぐに決まりそうですね」


「はい、そうですね。甲斗さまさえよろしければすぐにでも。どうでしょう考えてくださる?」


「いやいや、気が早すぎるよ! 出会って数時間じゃもっとお互いの事を知るには短いと思う。それに恋人の期間にしか出来ないことってたくさんあると思うし」


「勿論冗談ですわ甲斗さん。でも、お二人がこれから先も一緒におられるなら考えてもよろしいかと」


 くすりと笑うアーリさん、思わず可愛いと思ってしまった。いや、何もしなくても可愛いんだけど。

 しかし、意外と冗談とか言う人なんだな。それに付き合うらいらも。

 でも、こういうところを知れてラッキーな気分だな。


「甲斗さま、あなたがそう言ってくれるなら、私も心から嬉しい。これからずっと一緒にいられること、とても幸せです」


「俺もそう思うよ。らいらと出会えて本当に幸せだし、一緒にいる時間が楽しみだ」


 お互いの手を取り合い、笑顔で見つめ合う。

 この瞬間、彼女との絆がより深まった気がした。


「では、お二人。お飲み物とお菓子はお楽しみくださいませ。私は用事がありますので、お部屋を後にさせていただきます」


 アーリさんがそう言って一礼し、部屋を去っていく。


「らいら、これからのことを考えるとワクワクするな。一緒に過ごす時間が増えていくんだ」


「はい、甲斗さま。私も同じです。いっぱい思い出を作りましょうね」


 彼女との未来を想像しながら、おいしい紅茶を飲みながら過ごす時間は特別なものだった。




 そうだ俺の時間はもうここにあるんだ。

 だからきっちり終わらせなきゃならない、せめて最後は俺が捨ててやる。

 そうして新しく始めるんだ。


 そのためには復讐だ。徹底的にやり切って終わらせるんだ。


 完全に未練を殺してやる。

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