入ってきたのはもちろん俺の可愛い彼女(予定)、らいら。
その姿は、あの白さの眩しいお嬢様の制服じゃなくて当然私服なんだが、これもまた似合っている。白いワンピースタイプのブラウスに、紺色のスカート。
思わず見惚れてしまって、俺は彼女に駆け寄った。
「大丈夫、全然待ってなんかいなかったよ。それよりその格好……」
「えぇ、これが私の普段の格好の一つなのですが。あなたのお目に映っても差し支えないものと思います。あなたの目には綺麗なわたしだけを入れて欲しいので」
いじらしく、知性のある言葉遣いだ。この時点であのクソ女の完敗だろう。思えば何であんなのを好きになっていたのか。
ダメだな。新しい彼女になるはずの女の子の前で、以前付き合っていた汚物の事を考えるなんて。こんな失礼なことはない。
「とっても綺麗で可愛い。これからもっといろんならいらが見てみたいな」
「ありがとうございます、心から嬉しい。それとご安心を、そのような機会はいくらでも差し上げますから。もっとたくさんのらいらを愛でてくださいな」
女神のような母性を感じる。それでいて天使のような容姿と声。
生き地獄から天国になってしまったな。
こんな気分を味わえるなんて、これで死んだら地獄行きだろう。けどそれも悪くないかもしれない。今なら死んでもいいかも。
「さあ、お座りください。紅茶を用意しますね。お菓子もありますので、ぜひ召し上がってください」
「ああ、ありがとう。いただきます」
アーリさんがそう言って、俺は今までソファに座ってないことに気付いた。
待ちわびていたのか? そうかも。
「はい、お待たせいたしました。アールグレイでよかったでしょうか?」
「うん、大丈夫です。というかすごいなこれ。カップ一つでウン十万とかするんじゃないか?」
「ふふ、お上手ですね。ですがお察しの通り、こちらは一セット数百万はくだらないものです」
「は、はは。やっぱりそうですよね。……あ、おいしい」
痛めているはずの胃に優しく溶けていく、そんな感覚を味わった。
「それはようございました。お嬢様も喜びます」
「えぇ、甲斗さまが喜んでくれてわたしも大変喜ばしい限りです。彼氏の楽しんでいる姿というものは、自然と口元がゆるむものなんですね。ふふ」
自分の口元に柔らかく小さな指をあてて、上品に微笑む。
まるで生きた芸術だ。これほど絵になる人物もいないんじゃないか?
そんな彼女の横顔を見ていると、アーリさんが話を切り出した。
「お二人ともとても仲睦まじい様子。この分だと正式な婚約はすぐに決まりそうですね」
「はい、そうですね。甲斗さまさえよろしければすぐにでも。どうでしょう考えてくださる?」
「いやいや、気が早すぎるよ! 出会って数時間じゃもっとお互いの事を知るには短いと思う。それに恋人の期間にしか出来ないことってたくさんあると思うし」
「勿論冗談ですわ甲斗さん。でも、お二人がこれから先も一緒におられるなら考えてもよろしいかと」
くすりと笑うアーリさん、思わず可愛いと思ってしまった。いや、何もしなくても可愛いんだけど。
しかし、意外と冗談とか言う人なんだな。それに付き合うらいらも。
でも、こういうところを知れてラッキーな気分だな。
「甲斗さま、あなたがそう言ってくれるなら、私も心から嬉しい。これからずっと一緒にいられること、とても幸せです」
「俺もそう思うよ。らいらと出会えて本当に幸せだし、一緒にいる時間が楽しみだ」
お互いの手を取り合い、笑顔で見つめ合う。
この瞬間、彼女との絆がより深まった気がした。
「では、お二人。お飲み物とお菓子はお楽しみくださいませ。私は用事がありますので、お部屋を後にさせていただきます」
アーリさんがそう言って一礼し、部屋を去っていく。
「らいら、これからのことを考えるとワクワクするな。一緒に過ごす時間が増えていくんだ」
「はい、甲斗さま。私も同じです。いっぱい思い出を作りましょうね」
彼女との未来を想像しながら、おいしい紅茶を飲みながら過ごす時間は特別なものだった。
そうだ俺の時間はもうここにあるんだ。
だからきっちり終わらせなきゃならない、せめて最後は俺が捨ててやる。
そうして新しく始めるんだ。
そのためには復讐だ。徹底的にやり切って終わらせるんだ。
完全に未練を殺してやる。