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第181話 ご結婚おめでとうございます





「時間だ。行くぞ、ふたりとも」


 おれとフィリアは、冒険者装備のまま賢竜バルドゥインの背に乗っている。


 一番付き合いの長い賢竜バルドゥインが、友人代表として式場に運ぶ役をやってくれるのだ。


 第2階層の森の中から飛び上がり、式場である宿へ飛翔する。


 その登場に参列者は大いに盛り上がった。きっと配信視聴者たちも喜んでくれていることだろう。


 バルドゥインから降りると、おれの前には紗夜が、フィリアの前にはロザリンデがやってくる。


 紗夜は瞳をうるうるさせている。


「一条先生、フィリア先生。おめでとうございます。あたし……あたしも、なんだか嬉しくって」


「ありがとう、紗夜ちゃん。そう思ってくれて、おれも嬉しいよ」


 ロザリンデも穏やかな笑みを浮かべる。


「おめでとう、ふたりとも。正直なところ、遅いくらいだわ」


「そうかもしれません。ですが、そのお陰で、こんなに多くの大切な方々に祝っていただけるのです。これが最善だったのかもしれません」


 挨拶を済ませると、紗夜とロザリンデは魔力を集中させた。


 変身魔法の応用だ。おれとフィリアの服装を、結婚式衣装に変化させる。


 おれはビシッと決まったタキシード。


 フィリアは純白のウェディングドレス。シンプルながら、フィリア自身の美しさの際立つデザインだ。


 正面から見つめると照れてしまう。顔が熱い。


「綺麗だよ、フィリアさん」


「ありがとうございます。ふふっ、わたくしのドレス姿を見るたびに仰ってくれますね」


「そりゃ、毎回綺麗だからだよ。いつも惚れ直してる」


 そして音楽が鳴り響く。おれたちは腕を組んで、教会スペースへ入場する。


 ずらりと並んだ参列者たちの祝福の拍手の中、神父のもとへ進んでいく。


 神父役のリチャード爺さんもまた、祝福の笑顔を浮かべてくれていた。


 そして誓いの言葉を経て、指輪交換。


 これらはショウ王とソフィア王妃が、みずから作ってくれた逸品だ。ありがたく手にし、互いの薬指にはめ込む。


 最後に、誓いの口づけ。


 幾度となくキスはしてきたが、これが今までで一番幸せなキスだった。


 そこで一旦退場して、披露宴会場へ移動だ。


 といっても、おれたちはしばらく席に座っているだけになってしまう。暇だ。なにせ関係者という名目でやってきた、日本政府の知らないおじさんたちがスピーチしたりするからだ。


 そこでおれとフィリアは、こっそりスマホを持ち込んだ。


 生配信の様子を覗いてみちゃったり。


"誰このおっさん"


"新しい省庁の大臣らしい。異世界迷宮省だとか?"


"モンスレさんの関係者って嘘でしょ"


"モンスレさんたち、スマホいじってない?"


"新郎新婦がなにしてんのww"


"どうもモンスレです。知らないおじさんの話が長いので遊びに来ました"


"おいおいおいwww"


"嫁さんほっといていいのかよ"


"ご心配なく、フィリアもおりますよー"


"この夫婦はwww"


"ご祝儀"[¥30000]


"ご祝儀"[¥30000]


"ご祝儀"[¥30000]


"ありがとうございます! ではでは、少しの間、コメント欄のみですが、質疑応答などを……"


 退屈な人の話は、こんなふうにやりすごしてやった。


 その後のショウ王のスピーチは、もちろんちゃんと聞いた。


 それから『ドラゴン三兄弟』の手による、最高級の魔物モンスター料理が供される。


 続いてケーキ入刀だ。ドラゴンを模したウェディングケーキに、竜殺しの剣ドラゴンバスターをふたりで持って刃を差し入れる。


 絶対、コメントで"竜破斬キタ!!"とか書かれてるだろうな。


 新郎新婦で互いにケーキを食べさせ合うファーストバイトを終えてからは、切り分けたケーキを参列者に配りつつの挨拶回りだ。


 フィリアの親類縁者とおれのじいちゃんのところを優先して回ってからは、冒険者の仲間たちのもとへと進んでいく。


「ご結婚おめでとうございます、一条さん、フィリアさん」


「丈二さん、忙しいところありがとう。調子はどう?」


「上司には睨まれていますが、まあ受け流しておりますよ」


 丈二はあの電話の後、命令違反を理由に懲戒免職になってしまった。


 しかしメイクリエ王国側が、日本政府との窓口に丈二を指名してしまったので、あっという間に呼び戻されてしまったらしい。


 結局、丈二の行動は命令違反ではなく、職権の及ぶ範囲で職務を最大限のまっとうしたという扱いになり、侵攻を防ぐ一役を担った功績を評価されるようになったそうだ。


「自由気ままな冒険者にはなれませんでしたが、それなりに楽しんでおりますよ。異世界リンガブルームへ行く機会も多いですしね」


「でもそんなに忙しいんじゃ、ロゼちゃんは寂しがらない?」


 すると、隣に座るロザリンデともども丈二は微笑んだ。


「この忙しさも一時的なものでしょうから。そのあとは、きっと、使い切るのも難しいくらいの時間が手に入るでしょうし」


「丈二さん、それってもしかして……」


「ええ、日本でも規制されないうちに合成生物キメラ化手術を受けてみようかと。アルミエスさんには依頼済みです」


「そうなんだ。よく決心したね」


異世界リンガブルームに行き来するようになったからですよ。エルフや小人族などと触れ合ううちに、人間であることに拘る必要もないと思うようになったのです。ロザリンデさんと同じ時間を生きられるなら、それが一番なのですから」


「今は、どんな合成人間キメラヒューマンにするか相談中なのよ。それが全部上手く行ったら、今度はわたしたちが式を挙げる番だわ」


「いいね、上手くいくことを祈っているよ」


 続いて、ミリアムと敬介のいる席へ。


「フィリア〜、タクト〜! おめでとぉ〜!」


「ミリアム様、ありがとうございます」


「いやぁ、まさかお姫様だったとはねぇ〜。でもアタシらの友情は変わらないよ〜!」


「はい、もちろんです。早見様も、お仕事は順調ですか?」


「四苦八苦しながら、なんとかやってますよ」


 ふたりはダンジョンルーターや、『破鎚ドラゴンファング』に『魔槍ドラゴンシャウト』といった開発物がショウ王の目に留まり、王国へ呼び寄せられたのだそうだ。


 そこで働くよう要請を受けたらしいのだが……。


「いやだぁ! 王国の仕事なんて絶対忙しいじゃん! 積みゲーがたくさんあるにぃ〜!」


 ミリアムはこのように駄々をこねて断ったのだそうだ。しかし、噂を聞きつけた彼女の師匠——エルウッドという鍛冶職人がやってきて、無理やり引きずって帰っていったらしい。


「これからも、たまに遊びサボリに来るから匿ってね?」


「わたくしたちも、こちらにいるとは限りませんよ?」


「部屋だけ使わせてくれればいいからさ〜」


「ダメです。ちゃんと働いてください」


「え〜、やだぁ〜」


 次は、吾郎たち『武田組』の席だ。


「おめでとさん、一条にフィリア。お似合いのカップルが、お似合いの夫婦になったな」


「ありがとう、吾郎さん。でも……宿を出ていくって聞いたけど、それ本当なのかい?」


「ああ、本当だ。おれたちはここを出て、べつの迷宮ダンジョンへ行くのさ」

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