太陽よりも眩しい輝きが発生し、破裂した。
それを中心に雲が、凄まじい勢いで吹き飛んでいく。
雲の動きで察知して、バルドゥインは空中で自身の身体を翼で覆った。
直後に衝撃。耳をつんざく轟音。
波が荒れ、敵国の艦隊が激しく揺れる。
爆発の衝撃で舞い上がった海水が降り注ぐ。爆心地方向へ、激しく風が吹き荒ぶ。
艦隊の人員らが、ひどく慌てているのが見えた。
元素破壊魔法の影響はなかなか収まらないが、黙っているわけにはいかない。荒波に揺れる艦隊に向けて、ダメ押しで告げる。
「今のが、元素破壊魔法です! こちらの世界に存在する核兵器にも匹敵する威力であることはおわかりになるでしょう! もし我がメイクリエ王国と剣を交えることになるならば、この魔法を、その身に受ける覚悟をしていただきます!」
フィリアは普段の上品な様子を崩さず、それでいて国の代表としての威厳をもって声を発している。
「今回はあくまで威嚇ゆえ命中させませんでしたが、よくお考えになってください。これは個人でも扱える魔法なのです。その気になれば、そちらの国へ潜入した使い手が、時も場所も選ばずに発動することも可能なのです! 我が国には、この魔法の使い手が最低4人おります。しかし学ばせればもっと増えるでしょう。それがなにを意味するか、わかるはずです! それを踏まえて、もう一度……もう一度だけ、勧告いたします!」
すう、と大きく息を吸ってから、これまでで一番の声量で毅然と言い放つ。
「貴方がたが領有権を主張する
それを最後に、フィリアは口をつぐむ。
おれたちも黙ったまま状況を見守る。
緊迫した時間が流れていく。
1分経ったか。それとも1時間か。さすがに数秒ではないはず。
やがてバルドゥインの優れた視力が、動きを察知した。
「……飛び立った空飛ぶ機械が、例の平らな船に戻っていっているぞ」
「なら、攻撃は中止になった、のか?」
そして撤退する艦隊のひとつから、こちらに向けて光が向けられた。なにか意図があるのか、明滅を繰り返している。
すぐ丈二が気づく。
「モールス信号ですね。ふむ……ふむ……。『領土に関して認識の齟齬があった。我が国に、メイクリエ王国侵攻の意図はない。この件に関しては、今後、話し合いによって解決できるものと信じる』とのことです」
「では返答を——。こちらの意志が伝わってなによりです! 我が国は、まだ外交官や大使館を用意しておりませんので、今後の窓口は日本政府に依頼することになるでしょう! 会談に際しては、日本国を通してご連絡くださいませ!」
それだけ告げると、みんな揃って安堵の息をついた。力が抜けるように、バルドゥインの頭の上で腰を下ろす。
「やったね。なんとかなった」
「はい。
「格好良かったよ、フィリアさん。毅然としてて、絶対に一歩も譲歩しないって意志が見えててさ」
「そういうタクト様も、見事な技と魔法でした。あ、もちろん、津田様とロザリンデ様もお見事でしたよ。バルドゥイン様も!」
少し眠そうな様子でロザリンデは笑う。
「ええ、みんなでやったわね。では帰りましょう? わたしたちの家に。ずいぶん風通しが良くなってしまったけれど、わたしたちの帰るところは、やっぱりあそこだもの」
「ええ、すぐ修繕の手配を——っと」
丈二のスマホから着信音が鳴る。
通話に出ると、なにやら怒鳴り声が漏れ聞こえてくる。それに対し、丈二の顔がだんだん苛ついたものに変わっていく。
「冗談ではない! もともと私の仕事は、
と通話を切ってしまう。
「まったく。人がせっかく、いい仕事をした余韻に浸っていたというのに……」
その様子に、つい笑ってしまう。釣られるように、フィリアもロザリンデも笑う。
「うん? なぜ笑うのですか?」
「いやぁ、丈二さんもすっかり自由を愛する冒険者になったなぁって」
「そうね、ジョージ。そういうあなたも素敵よ、ふふふっ。ところで——あら? どうやらわたしたち、報道のヘリに撮影されていたみたいね」
ロザリンデが、タブレットにニュースサイトを映して見せてくれる。
つい先程までの様子が、動画で公開されているようだ。
その動画は短いながらも、すでに数百万を超える再生数となっている。コメント欄も大盛況だ。
"怪獣映画かと思った"
"あの
"侵略受けずに済んで本当に良かった……"
"え、核? いや魔法?"
"モンスレチャンネルの人たちじゃん"
"やはり戦争したくないなら強くなくちゃダメなんだ"
"モンスレさん、生配信で今回のこと喋ってくれるかな"
"迷宮の中だけじゃない、ガチの日本のヒーローだ"
「しまったなぁ。おれたちの顔もしっかり映っちゃってたみたいだ」
「はい……それに、迂闊でした。どうせなら、わたくしたちが生配信しておくべきでした! たったこれだけの時間で、もう数百万……と言っている間に一千万再生です! どれほどの広告収入を逃してしまったことでしょうかッ!」
本当に悔しそうに嘆くフィリアに、おれはまた笑ってしまう。
あんな大変なことがあったばかりなのに、これだ。
いや、こんなものか。
国の絡んだごちゃごちゃした話なんかより、おれたちは商売だとか配信だとか、冒険だとかをやっているほうが、ずっと似合っている。
あの国とのことは、きっとメイクリエ王国も交えて、日本政府が上手くやってくれることだろう。
おれたちは明日から、またいつも通りの日々を過ごすだけだ。
「さてと、じゃあ帰ろうか。おれたちの居場所へさ!」
バルドゥインの背の上から見下ろしたおれたちの島は、陽光を浴びて、まるで宝物のようにきらきらと輝いていた。