「では父様、母様、いってまいります」
フィリアはおれに寄り添い、王と王妃に宣言した。
「フィリアも行くのかい……。いや、そうだね。我が国の意向を伝えるんなら、フィリアが適任だ。でも、やっと会えたのに、すぐ行っちゃうんだな……」
「寂しがらないでください。今度は、すぐに帰ってまいりますから」
「ショウさん、大丈夫です。フィリアは強い子です。いえ、以前よりずっと強くなって帰ってきました。それに、きっとタクトさんが守ってくれます」
王妃の言葉に、おれは強く頷く。
「この命に替えても」
丈二も続く。
「及ばずながら、私もお守りいたします」
「では急ぐので、これにて失礼いたします」
「ああ、ちょっと待ってくれ。最後に確認しておきたい」
「なんでしょう?」
「かつて、おれたちも世界を変えてしまった。でも、その影響に対して無自覚すぎた。幸せを作るつもりが、逆に目の届かないところで誰かを不幸にしてしまっていた……。あなたのこれからのおこないも、きっと同じだ。いつか責任を取るべき日は来る。もし、その覚悟が持てないなら、やめる選択肢もある。今ならまだ間に合うはずだ」
「いいえ、やめる理由にはなりません。覚悟なら、できています」
「わかった。そう言うだろうとは思っていたよ。引き止めて悪かった」
「いえ、ご配慮ありがとうございます。それでは」
「ああ、またね。これからもよろしく」
その別れの言葉は、この先の交流を望みの感じられる温かいものだった。
◇
アルミエスの
「お前たちが
「いいとも。こちらの意志は変わらない。王にも了解を取ってきている」
「なら、もう行け。望む世界を手にするがいい!」
アルミエスに見送られて、おれたちは再び
ほどなくして、地震が発生した。これまでのような大きいものではない。まるで、ずれていた歯車が、正しい位置に直されたような、わずかな揺れだった。
直後から、
おれたちの世界と、
この分だと、地上に漏れる
「戻ったか、タクト」
第5階層へ駆け戻る最中、おれたちの眼前に巨竜が飛来した。
「バルドゥイン! 出迎えに来てくれたのか」
「うむ。どうやら
「ああ、道中の
「それでも時間はかかるだろう。私に乗れ! 今なら転移魔法が使える。どこでも好きな階層へ連れて行ってやる!」
「いいのか、バルドゥイン。あなたはもう、おれに借りはないはずだ」
「言うなれば前借りだ。ひとつ、頼みを聞いてもらおうと思ってな」
「珍しいじゃないか、賢竜バルドゥインが頼み事なんて。どんな頼みだ」
「私も同行させろ。この世界の空を飛んでみたいのだ。異世界とやらの空を、思うままにな」
「それが戦場の空になってしまっても、かい?」
バルドゥインは、にやりと笑った。
「望むところだ。異世界の軍隊がどれほどのものか、試してみるのも面白い」
「わかった、行こうバルドゥイン!」
バルドゥインはその場に腹ばいになってくれる。おれは颯爽とその背中に飛び乗った。続いて丈二も。それからフィリアとロザリンデを、それぞれの手で引き上げる。
「よし、乗ったな。どこへ飛ぶ? 地上でいいか?」
「まずは第2階層だ。きっと仲間たちが苦戦してる」
「いいだろう。揺れるぞ。鱗でも角でも、好きな場所に掴まれ!」
その指示に従うと、バルドゥインは転移魔法を発動させた。
真っ白な閃光がおれたちを包み込む。
◇
——その少し前。第2階層。
「くそぉ、俺たちの家が!」
隼人たちは、重火器を有する敵部隊に苦戦を強いられていた。宿を守るために展開していたのだが、火力差はいかんともしがたく、後退を余儀なくされていたのだ。
紗夜や吾郎たちが合流してくれて、少しは状況は好転するかと思えた。治療魔法の使い手が増えたのは実際助かったが、彼らでさえ重火器への対抗は難しかった。
後退を繰り返すうちに、宿を遮蔽物として利用せざるを得なくなり、結果として蜂の巣にされてしまったのだ。グリフィンのガンプ、オブダ、ベルダたちを逃がせたのは幸いだが。
今は、魔法攻撃で敵の侵攻を食い止めるだけで精一杯だ。
自分たちの家が弾丸で削られていくのを目の当たりにして、隼人はいよいよいきり立つ。
「こうなったら……俺が突っ込みますよ。俺が変身すれば、弾なんて当たらない。当たったって再生できる。やつらの陣形、めちゃめちゃにしてやるっすよ!」
「バカヤロー! おめー、そんなことしたら寿命がどんだけ減っちまうんだよ! 無茶なことすんなよ!」
「でも雪乃先生! 一条先生たちがいない今、どうにかできるのは俺しかいないじゃないっすか! あんなわけわかんないやつらに、俺たちの居場所を壊されてたまるかってんですよ! それに——」
隼人は覚悟を決めて、一歩踏み出す。
「——こういうときに命張るのが、勇者ってもんじゃないっすか」
「待って、隼人くん!」
そのまま駆け出しそうになるのを、紗夜が呼び止める。
「なんすか、紗夜先輩! 俺の心配してくれるなら、援護してくださいっすよ!」
「そうじゃないの! 感じない?
「——!? そういえば、なんか力がみなぎってたような……」
それに気づいた直後だった。
隼人たちが盾にしている宿の向こう側で、巨大な白い光が現れた。
そして光が消えたかと思うと、見たこともないほど巨大な
それに乗る、誰より頼りになる味方の姿も。
「あれは一条先生! 来てくれたんだ!」