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第174話 伝説の英雄だからじゃない。娘が信頼しているから





「もうっ! 父様も母様も、あまりタクト様を困らせないでください! こんなことをしている場合ではないのです!」


 フィリアは王と王妃からスマホを取り上げた。おれに返してくれる。


「ありがとう、フィリアさん。好奇心旺盛なご両親なんだね……」


「お恥ずかしながら」


 ショウ王は苦笑しつつ頭をかいた。


「いや申し訳ない。おれもソフィアも、新技術には目がなくって」


「それを知っていながら、フィリアは見せてくれなかったのです。それで、つい……」


「こうなると思ったから、お見せしなかったのですっ。それに、その、プライベートなものも、色々入っていましたので……」


 ちょっとばかり頬を染めつつ、ちらりとおれに目を向けるフィリアである。


 ん? もしかして、なにか恥ずかしい写真とか撮られてた?


 いや、気になるけれど、置いておこう。


「ご興味があるなら、今度、新品をお持ちしますよ。もちろん最新型を」


「ほ、本当かい!? 嬉しいな。じゃあ使う用、分解用、実験用、予備用で4つ欲しい!」


「わたしの分もお願いいたします。計8つになるでしょうか」


 王妃様も常用・分解・実験・予備用が欲しいのか……。


 最新型を8つとなると、100万円超えるんだけど……。いや、それも置いておこう。


「今回の件を無事に収めることができれば、そう難しいことではありません。そのためには……」


 話を本題に戻すと、ショウ王は真面目な顔になって頷いた。


「わかってる。まずアルミエスが、ふたつの世界をほんの少し融合させて、今ある迷宮ダンジョンを永続させるんだね?」


「はい。その影響で、同じように世界同士を繋ぐ迷宮ダンジョンが、世界のあちこちに出現するとのことです。それを知った上で、アルミエスに実行を頼みました」


「勝手なことをしてくれたね」


 ショウ王はおれをまっすぐに睨みつけた。おれは目を逸らさない。たとえ、誰に反対されようが、こちらにだって守りたいものがある。


 厳しいことを言われたり、罪に問われるのは覚悟の上だ。だが、巻き込んだ以上は、こちらの思惑に乗るしかないはずだ。異世界からの侵略があれば、国を守るために戦わねばならないのは間違いないのだから。


 罵倒のひとつも飛んでくるかと思ったが、しかし、ショウ王は軽く微笑んだ。


「……と言いたいところだけど、世界を変えるなんて、べつに誰の許しが必要なことでもないからなぁ」


 王は、王妃と顔を見合わせて頷き合う。


「わたしたちも、自分たちの発明した物で、大なり小なり世界を変えてきてしまいました。そのどれもが、きっかけは、物を作ることで幸せを作ろうとしたことなのです。あなたの行いも、誰かの幸せを守るためのことならば、わたしたちのしてきたことと違いなんてありません」


「むしろ、あなたには世界を変える資格があると思うよ、『破滅を払う者ドゥームバスター』。魔王に、吸血鬼ヴァンパイア始祖、竜王、悪魔たち、さらに合成生物キメラを操る秘密結社。そのすべてから、この世界を守ってくれた。魔法学の基礎を築き、おれたちの発明の基盤も生み出してくれた。今ある世界は、あなたが作ってくれたようなものなんだ。だから、必要があるなら、また世界を変えたっていいんじゃないかな」


「ありがとうございます、ショウ王」


「そう畏まらないで欲しいな。おれももとは一介の冒険者だし、ソフィアだって職人の出なんだ。むしろ、伝説の英雄にタメ口きいてて、こっちのほうが失礼だったりするかも」


「そんなことないですよ。というか、おれたちにできなかった、魔王アルミエスとの和解を成し遂げている時点で、あなたも伝説級の英雄かと」


「ありがとう。照れるなぁ。……あっ、でも今回の世界融合の件、アルミエスがやったってことは、黙っててね? あの人、ただでさえ履歴がヤバくて警戒されてるから、また大きいことをやらかしたって知られたら面倒なことになっちゃう」


 まあ、元とはいえ魔王だからな……。


「もちろん、秘密にしますよ」


「はい。秘密、ですね」


 フィリアも唇に人差し指を立てて、微笑む。


「うん。それで……そちらの世界の迷宮ダンジョンのある島に、他国が侵攻してきているって話だけれど……。あなたたちの国の軍は動けないんだって?」


 これには丈二が答える。


 通訳はロザリンデだ。今までの会話も、ロザリンデが丈二に伝えていた。


「はい。その国は核兵器という非常に強力な武器を保有しており、理念によってそれを持たない我が国には、その使用を抑止できるだけの力がありません。下手に軍が動けば、どうなるかわからないのです」


「そこでおれたちの国の出番、ということかい?」


「はい。迷宮ダンジョンを攻めるということは、この国——メイクリエ王国への侵攻にもなります。貴国が防衛戦をおこなうには、充分すぎる理由です」


「まだ国交もない日本国のために、軍を動かして欲しいわけなんだね。迷宮ダンジョンが消えてしまえば、こちらはそんなリスクを犯す必要もなかったのだけれど……」


「そのことは、大変申し訳なく思っております」


「いいさ。それが外交だものね。それに、迷宮ダンジョンが消えてしまえば、スマホも手に入らない」


「ただ、私たちも、かけるご迷惑は最小限にしたいと考えております。メイクリエ王国には、侵攻への批判と、防衛の意志を表明していただきたく思います」


「その上で、メイクリエの防衛戦力に、おれを任命してください。とある禁呪の使用許可と共に。そうすれば、メイクリエ軍は動かなくてもいい」


 おれが最後に付け加えると、ショウ王は少し考えてから、「なるほど」と言った。


「侵略国が持つ核兵器に匹敵する魔法を、あなたは使えるんだね?」


「ええ、元素破壊魔法です。抑止力として機能させられれば、侵攻を中断させることもできるはずです」


「……わかった。使用理由としては正当なものだと思うし、あなたは誰よりも信用できる使い手だ」


 それを聞いて、そばに控えていた侍従がうろたえる。「いくら伝説の英雄だからといっても、今日会ったばかりなのですぞ」と王に諫言までしてくる。


 王の意志は変わらない。


「伝説の英雄だからじゃない。娘が信頼しているから、おれも信じるんだ」


「ありがとうございます、ショウ王」


「うん……。では、イチジョー・タクト。ショウ・シュフィール・メイクリエの名において、汝をメイクリエの民と認め、王国の盾、王国の剣としてあらゆる力を振るうことを許す」


 おれは再びひざまずいて、頭を垂れる。


「ありがたき幸せ。我が力、メイクリエの盾、そして剣としてのみ振るうことを誓います」


 簡易の任命式を経て、おれは立ち上がる。


 あとは侵攻を食い止めるだけだ。

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