「とは言っても、大袈裟なことではないわ。愛する人と子供を作るの。たとえ愛する人を失っても、その子が、子孫がそばにいてくれれば、きっと愛は消えない。愛する人の血筋を、ずっと見守って生きていくの」
言ってから、ロザリンデは自嘲気味に笑う。
「なんて。ジョージの影響かしら。少しロマンティックすぎるわね。一番いいのは、伴侶に長生きしてもらって、一緒に子孫を見守ることなのだけれど」
「そうだな、非現実的だ。種族が違えば子供はできにくい。お前のような
「でも、前例がないわけではなかったはずよ。だったら、わたしはやるわ。何百回でも、何千回でも挑戦する」
「……そうか。だが、そうだな。それもひとつの永遠か……。悪い考えではない。私に近い立場にある者から話が聞けただけでも、
「こちらこそ
ロザリンデは丈二に腕を絡ませる。
そんなのにはもう慣れっこのはずの丈二だが、今回は顔が真っ赤だ。「何百回でも、何千回でも」の意味するところに、照れてしまっているのだろう。
そんなふたりの様子を微笑ましく思いつつ、おれはもうずいぶん近くなった王宮を見上げた。
この幸せなふたりの未来のためにも、国王との謁見は必ず成功させなければ。
◇
「フィリア様!? アルミエス様、フィリア様をいったいどこで……?」
「いやそんなことより王と王妃にお知らせを! フィリア様がお戻りだ!」
「ささ、フィリア様こちらへ! お怪我はございませんか!? お召し替えもなさらなければ……! ご賓客の方々は、部屋でお待ちを!」
王宮は、フィリアの帰還によって慌ただしくなってしまった。
フィリアは侍従たちにさらわれるように連れて行かれてしまったし、おれたちは客間に押し込まれてしまった。
部屋自体の居心地も良いのだが、時間がかかっているのがつらい。
もちろん、一国の王にいきなり会ってくれと言ってすぐ叶うわけがないのはわかっている。
フィリアの様子がわからないのも心配だ。
いや、実家に帰ってきただけなのだから、心配することなどなにもないのだが……。
いつもそばにいた人が急に離れてしまうと不安なのだ。
やがて客間の扉が開いたとき、フィリアが来たのかと期待したが、現れたのはアルミエスだった。
「私は
「後悔しないとは言えない。でも、今やらなければ確実に後悔する。それは嫌だ」
「王との謁見は、私からも口利きしておいた。フィリアも緊急だと訴えているようだからな。遅くはなるかもしれんが、今日中にはなんとかなるだろう」
「助かるよ。それで、フィリアさんの様子は……?」
「なにも心配はいらん。侍従がうるさいだけだ」
そう言ってアルミエスは出ていった。
それからさらに数時間後。やっと準備ができたとのことで、おれたちは謁見の間へと案内された。
「タクト様!」
その途中の廊下で声をかけられる。その響きに胸が跳ねる。
「フィリアさん!」
フィリアは普段の装いとは違う、王族らしく、それでいて落ち着いた様子のドレスを着ていた。
ドレス姿は、隼人と雪乃の結婚式でも見たが、やはり王宮の用意した物は違う。本当にお姫様だ。
「綺麗だ、フィリアさん。本当に」
「ありがとうございます、タクト様。ですが、今は……」
「そうだね、見惚れてる場合じゃなかった」
案内役の侍従にも促されて、改めて謁見の間へ向かう。
ちなみに、本当はフィリアも謁見の間で待っている予定だったらしいのだが、おれたちに早く会いたくて飛び出してきてしまったらしい。追いかけてきた侍従に注意されつつも、ちょっとふてぶてしくそっぽを向くフィリアが印象的だった。
そして謁見の間で、玉座に座る男性を見たとき、おれは思わず声を上げてしまう。
「ショウさん……!?」
「確かにおれはショウだけれど、前に会ったことがあったかな?」
その口調も似ている。おれがリンガブルームで何度も世話になった一流の鍛冶職人に。魔王討伐に同行し、その生命と引き換えに封印を成し遂げたあの人に。
「あ……いえ、そうか……。時代が違うんだ……。年齢も……」
よく見れば、40代後半から50代前半の容貌だ。おれの知っているあの人は、もっと若かった。
「失礼。知っている人に、よく似ていたものですから」
すぐひざまずいて頭を下げる。丈二やロザリンデも同様だ。
「そっか。アルミエスも言ってたっけ、あの伝説の英雄『
「あなたの長男が、あのショウさんの生まれ変わりだと聞いていましたが、おれにはあなたこそが生まれ変わりに思えてくる」
「その辺は解釈がちょっと複雑でね。また今度話そう。それより、挨拶が遅くなってしまった。おれはショウ・シュフィール・メイクリエ。会えて光栄だ、『
その隣の玉座に座る、青みがかった銀髪の女性も、淑やかにお辞儀をする。
「ソフィア・シュフィール・メイクリエです。娘が、大変お世話になりました」
黄色い綺麗な瞳をしている。ショウ王と近い年齢だろうに、とても若々しくて美しい。フィリアは母が3人いると言っていたが、容貌からして、この人が実母だろう。
「冒険者、一条拓斗です」
「上級吸血鬼、ロザリンデ」
おれたちに続き、丈二もたどたどしい異世界語で名乗る。
「日本国から参りました、津田丈二と申します」
「3人とも
「はい。信じ難いかもしれませんが」
「娘の言うことだ。信じるよ。でも、できれば証拠を見せて欲しい」
王の隣で、ソフィア王妃も頷く。
「具体的には、スマホなる物を拝見したいのです。ぜひぜひ」
「……はい、いいですけれど」
おれがスマホを取り出すと、侍従が受け取り、王へと手渡す。
すると王と王妃は、目をキラキラさせながらそれを弄り始めた。
「おお、これは凄い! どうやって動いてるのか全然わからないぞ!」
「はい、未知の技術です。これはぜひ、分解して中身を見てみなければ!」
「それは困るんですけど……」
すると王妃は、にこりとこちらに笑みを向けた。
「なんちゃって」
本当に困ったな。どう反応するのが正解なんだ……?