地上と第2階層で、同時に異変が起きている。
まずは、おれが隼人から聞いた第2階層についてだ。
「冒険者の三分の一……ほとんどが今期合格の冒険者らしいけど、暴動を起こしてるらしい」
ファルコン隊を始め、腕利きの冒険者たちが苦戦しているとのことだ。
その理由は相手方の装備にある。
普通の銃火器なら、
だが相手は、いつから用意していたのか。対物ライフルや重機関銃、そして大量の
レベルや数が勝っていたとしても、この装備の差は大きい。
ひと通りの話を聞いて、丈二は合点がいったらしく頷く。
「おそらく潜伏していたスパイが、地上の動きに合わせて
「地上の動きと? じゃあ地上でも、外国絡みでなにか起こっているのか?」
「ええ、ニュースで見た方もいるかもしれませんが、隣国が近海で軍事演習をおこなっておりました。その艦隊が、急遽針路を変え、この島へ向かってきているのだそうです」
「なんだって!?」
「日本の領海に入るのも時間の問題と言われています」
「政府はなにをしているんだ?」
「猛抗議しているようです。同盟国も批難しております。ですが、東ヨーロッパで継続中の戦争のように、侵略国家にはなにを言っても通じませんよ」
「なにをしても、勝てば許されるって考えか。あまりに幼稚で下劣じゃないか」
「かの国は、政策の失敗で経済的に低迷してきていましたから。そこに
「梨央が情報を流したのは、あの国だったのか……。とにかく、まずは第2階層の連中を叩き出そう。
「……私には別の指令が下っています。
「日本政府は、この
「いいえ。先程、この
「冗談じゃない。そのために日本の利益を——いや、おれたちの生活を放棄しろっていうのか。こんなときこそ、自衛隊や在日米軍の出番じゃないのか。国民の生活を守るのが仕事じゃないのか」
「とはいえ、相手は核保有国です。東ヨーロッパの戦争を見ればわかるでしょう。数多の国が抗議するものの、核兵器をチラつかされれば、直接軍を差し向けることはできない。せいぜい経済制裁や、被害国への支援に留まっている」
「……つまり、核が怖いから、自衛隊も米軍も動きたくない?」
「事情はもっと複雑ですが、まあ、端的にはそうです。そして、
「……核保有国と対等にやり合える方法なら、このおれが持っている」
「一条さん、お伝えしたはずです。政府からの通達で、元素破壊魔法の存在は秘匿し、一切の使用を禁じると」
「なら丈二さんは、これでいいと思っているのか? おれたちの居場所が、幼稚な国の、恥知らずな行いのせいで消えようとしているんだぞ!」
「いいわけないでしょう! 私だって、ここの生活を愛している! 愛している人もいる! しかし私たちだけで、どうにかできる規模の話ではない!
「国が認めてくれさえすればいい。おれの魔法を解禁すると」
「仮に認められたとして忌避はないのですか。個人ではない。日本という国が、核を撃つことに」
「それでも——」
「もうよせ」
おれと丈二の間に、バルドゥインが指先を差し込んできた。
「お前たちは大切なことを忘れている」
「なんだ、バルドゥイン? おれたちが、なにを忘れているっていうんだ?」
「この
おれはハッとしてバルドゥインを見上げた。
「なら、
「その軍が、元素破壊魔法をもって威嚇したとしても、な」
フィリアはゆっくりと首を振る。
「しかしバルドゥイン様、あの魔法は
「それはどうかな、フィリア・シュフィール・メイクリエ。正当な理由があり、信頼における使い手がいるならば許可は下りるだろう。お前の父は、なかなか柔軟な王だったはずだ」
「父上をご存知なのですか……?」
「会ったことはない。だが、あの魔王アルミエスを
「……会いに行けと仰るのですね。
「そういうことだ」
「わかりました。行きましょう、タクト様。この
おれはフィリアに強く頷いてみせる。
「もちろんだ。丈二さん、それでいいかい?」
小さく息をついて、丈二は肩をすくめた。
「他国のすることなら私に口は出せませんよ。ただ、母国の意向に逆らうことになる。失職ものですね、これは」
ロザリンデが丈二の手を取って笑う。
「いいじゃない。そしたら、専業の冒険者になればいいのよ。わたしとの時間もたくさん取れるわ」
「ええ、それも悪くない」
丈二は微笑んで、その手を強く握り返す。
「よし、話は決まった。おれたちはこのまま第7階層を目指す。他のみんなは、第2階層へ戻って隼人くんたちを助けてやってくれ」
こうして、おれたちは紗夜や結衣、吾郎たちと別れ、