「それじゃまずは5万円。残りは後払いでお願いしますっ」
「はい、確かに。残りはいつでもいいからね」
「ちょっと待て。値段が全然違うじゃねえか」
一緒に出てきた男性冒険者が文句をつけてくる。軽く受け流す。
「初心者価格さ。あんたも初心者だって自分で認めるなら、まけてあげないこともないけど」
「誰が初心者だ。オレはこの道2年だぞ。島じゃ古参のベテランだぜ」
「なら文句言わずに払って欲しいな。ベテラン(笑)さん」
「くそ、てめえ覚えてろよ。くそっ」
男は札束を突き出してきた。受け取って、数を確認。
「はい、確かに。まいどあり」
おれは約束通り、なぜ
「——というわけで、銃や日本刀はこの
「お求めの際は、是非とも武器屋『メイクリエ』にお越しくださいませ」
フィリアが抜け目なく、にこやかにお店の宣伝をする。
紗夜はスマホでメモを取り、自称ベテランは仏頂面で聞いていた。
「にわかには信じらんねえ。今の時代に銃より剣なんてよ……」
「試してみれば実感もするさ」
自称ベテランは神妙にため息をつく。紗夜も同じだ。自分の銃とおれたちの武器を交互に眺める。
それから紗夜は、ハッと気づいて、おれが貸していたナイフを差し出してきた。
「あの、これ、ありがとうございました」
受け取ろうとして、しかし、おれは手を離した。
「それ、紗夜ちゃんにあげるよ」
「えっ、でも」
「お金、あんまり無いんでしょ。今から新しい装備を買い揃えるのは難しいだろうし、しばらくそれを使うといい」
「あ……ありがとうございます! きっとたくさん稼いで、自分で装備を買い直したら先生にお返しします!」
「べつにいいのに……っていうか、先生って」
きらきらと輝く目で見つめられて、ちょっと照れる。
「これからも色々と教えてください。あっ、そうだ。アドレスも交換してください!」
「え、うん。いいけど」
勢いに押されて、メッセージアプリで友達登録してしまう。
「へええ、一条拓斗さんって言うんですね。これからよろしくお願いします、一条先生!」
「ああ、よろしくね紗夜ちゃん。あ、フィリアさんも交換しとく? ベテランさんも」
フィリアは残念そうに首を横に振る。
「わたくしは、スマホを持っていないのです……」
「オレは馴れ合うつもりはねえ」
自称ベテランは、素っ気なく言うと立ち上がった。それからおれを睨んでくる。
「てめえ一条とか言ったな、いつまでもでけえ顔してられると思うなよ」
言い残して、とっとと行ってしまった。ゲートに併設された守衛所で、討伐証明を提出して換金してもらっている。
それに続いて、おれも換金してもらう。
エッジラビットが5匹と、ステルスキャットが1匹。討伐報酬は5万円ほど。
ちょっと安い気がするが、熊の駆除報酬が5千円から1万円らしいので、日本国においては妥当な価格なのかもしれない。
それに比べて、情報を売った分の儲けは35万円。後払い分を差し引いても30万円だ。
地道に稼ぐより、経験を売ったほうがずっと稼げそうだ。
「あの一条様、わたくしの分も換金していただけませんか?」
あとからついてきたフィリアに頼まれる。
「あ、そっか。副業禁止か」
「はい。ここでは誤魔化しが効きませんので……」
快く引き受け、フィリアの獲物も換金してもらう。
「はいどうぞ。エッジラビット3匹で、2万4千円」
フィリアはどこか不満そうに、ジーっとおれとお札を見つめてくる。
「一条様、先ほどわたくしは、頼まれて助っ人をいたしました」
「ああ、ありがとう。怪我がなくて良かったよ」
「はい。それに、わたくしの助言で、情報料を稼ぐこともできましたね。おめでとうございます」
「うん、助かった。本当にありがとう」
フィリアは小首を傾げる。
「助っ人と、助言を、いたしましたよ?」
「……オーケイ。助っ人代とアドバイス料を弾もうか」
するとフィリアは、エサを目の前にしたワンコみたいに目を輝かせた。尻尾があったらパタパタ振っていたことだろう。
そんな目をされると、ちょっと意地悪したくなる。
「換金の手数料で相殺ってことでいい?」
ガーン! とばかりにフィリアの顔は絶望に染まった。がっくりと肩を落とす。みるみるうちに瞳が潤んでいく。
「そう、ですか……。相殺ですか。そうですよね……」
「わわ! 泣かないでくれ、冗談だから。払うから」
すんすん、と鼻を鳴らしながら、涙をぬぐい、儚げに笑む。
「ありがとうございます。店員割引が利いたとはいえ、装備のレンタル代でお財布が寂しかったのです」
「本当しっかりしてるな、君は……」
とか言いつつ時刻を確認。まだ午前中。体力も気力も余裕がある。
「さてと……せっかくだから、もうひと潜り行こうかな」
「それなら、わたくしもご一緒いたします」
「あたしもついていっていいですかっ?」
「いいよ。せっかくだから、少しばかりコツを教えてあげる」
そうして3人で
最初に音を上げたのは、やっぱり紗夜だった。
「うぅう、ごめんなさい……あたし、足手まといですぅ〜……」
実際、おれたちが守ってやってるから大きな怪我はしていないが、それでも小さな傷は増えていくし、転んで打撲しちゃったりもしている。
今日は特別だが、もし正式にパーティを組みたいと言われたら断るしかないだろう。実力差がありすぎる。
「初日ならそんなもんさ。それより、そろそろ昼食にしよう」
「はい。あたし、保存食持ってきました!」
「それもいいけど、
おれは今しがた倒したエッジラビットを持ち上げてみせる。
「えっと、それって……?」
「