おれの問いかけにフィリアは、唇に人差し指を立てて、異世界語で返してくれた。
「秘密に、してくださいますか?」
「もちろんだ。
「では……。一条様が仰るとおり、
言いかけてから、恥ずかしそうに上目遣い。ひと呼吸置いてから、また口を開く。
「
いやそこ言い直すんかい。
あくまでお店のルールに従うフィリアの生真面目さに苦笑しつつ、おれはツッコまずに黙って話を聞く。
「数はそれほど多くはありません。そのほとんどは、おそらく
「
「はい。法則はまったくわかりませんが、この3年間で数人、新たに転移してきています」
「それもあの
「わたくしもそう思うのですが……」
「こっちの冒険者たちがあの体たらくじゃね……」
「日本政府の方々が、わたくしたちのことを秘密にしようとしているのは……なにやら政治的な思惑があるそうです。転移の謎を解き、
「なるほどね」
なんとなくだが理解できる。
こちらの世界で唯一、異世界の存在を把握し、先んじて国交を結べれば、こちらには無い貴重な資源や技術を独占できる。その上、こちらの進んだ科学技術を売りつけて多大な利益を得ることだって出来る。
だから海外の関心を惹くような要素は、できるだけ隠したいのだろう。
異世界人について報道しないのも、この島への渡航が許可されているのが日本人に限られるのも、きっとそのためだ。
「国交のことも大切ですが、そもそもわたくしたちは
フィリアは黄色い綺麗な瞳でおれを見つめた。
「先ほどの体捌きに、武器屋で披露してくださった知識……。一条さ——ご主人様は、
「活躍はするつもりだけど、期待はしすぎないでね。
「はい。それは……覚悟しているつもりです」
といったところで、ピピピ、とタイマーの電子音が小さく鳴った。
フィリアは言葉を日本語に戻す。
「そろそろお時間のようです。ご延長なさいますか?」
「いや、もう充分かな。お会計で」
「はい。いってらっしゃいませ、ご主人様」
「うん、またね」
ちなみに、お会計は5万円を超えていて結構焦った。
やばい。貯金が底を尽きそうだ。明日からはしっかり稼がないと……。
◇
翌日。おれは早朝から宿を出て、
確保した宿は二畳一間の安宿だったのだが、その宿代すらこのままでは払えなくなってしまう。
とか考えながら、ライセンスを提示してゲートを通過する。
ライセンスを持たない者が入れないようになっているのだ。
もっとも、この程度の包囲では、
「これは……やっぱり、この
予想通りで嬉しくなる。
異世界の迷宮なら、きっと
なにせ、おれが日本に帰ってきて失っていた魔力や身体能力が、再び発揮できるようになるのだから。
「
試しに光源魔法を使ってみると、成功した。
手のひらから光球が浮かび上がり、周囲を明るく照らしてくれる。
しかし……。
「っと、思ったより消耗が激しいな……。魔力は節約しないとダメか」
使える魔力は相当少ない。
テレビゲームで例えれば、最大MPが100あるのに、この場所では2〜3までしか回復しないという感じだ。
おそらく身体能力の向上も、本来の数パーセントしか発揮していないだろう。
原因は簡単。
つまりおれは、深くに潜れば潜るほど本来の力を発揮して、強くなれるということだ。
逆に言えば、この第1階層は、ほぼ常人の状態で攻略しなきゃならない。
「まあいいさ。おれには10年培った技術と経験がある」
とりあえず光源魔法を解いて魔力を節約。代わりにバッテリー式のライトを灯す。
それからすぐ、パンパンパンッ、と銃を乱射する音が響いた。
「きゃああ! なんで!? 当たってるのに! 銃で撃ってるのに、なんでまだ生きてるの!?」
どうやら迷宮初心者が
駆けていくと、女の子が複数のエッジラビットに囲まれつつあるのが見えた。
「勘を取り戻すにはちょうどいいか」
おれは走りながら、剣を鞘から抜いた。