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走狗はハンドラーに食われる
大山益吉
BL現代BL
2024年11月01日
公開日
2,483文字
連載中
イヌヒトと呼ばれるヒトとイヌをかけ合わせた人類が存在する世界。警察に所属するイヌヒトの祥汰とハンドラーの澤は、犯罪者を取り締まるべく奔走していた。そんなある日、祥汰の発情期が近いと告げられた澤は、どう相手をしたものかと途方に暮れる。

第1話

「祥汰! 右へ行った、追い込め!」

「承知!」

祥汰(しょうた)と呼ばれたその人物は、インカム越しにその言葉を聞いて走り出す。

指示通り、袋小路へと目標を追い込む。見た目からカタギではないその男は、祥汰より頭3つは大きい大柄な体格をしている。

「大人しくしな。そうすれば痛い目には会わねぇから」

「警察の犬風情が……。死ねぇ!」

追い込まれた男は、懐から拳銃を出し、パンパンと祥汰に向けて発泡する。

フン、と鼻を鳴らして、祥汰はその弾を素手で受け止める。受け止めた弾を、パラパラとこれ見よがしに掌からこぼす。

「ば、化け物が……」

更に発砲しようとするが、いつの間にか祥汰が目の間に来ていた。

「はい確保ー!」

ゴッ! とジャンプして顎に掌底を食らわせる。男は面白いほど吹っ飛んでその場に倒れ込む。

「祥汰、殺していないだろうな?」

その場に駆けつけた、大柄な頭を五分刈りにした男が祥汰に念を押す。

「多分。一応手加減したけど」

「お前の手加減したは信用ならん」

「ちょっとは信用してくれよ、澤」

澤と呼ばれた男は、倒れている男の首筋に手をやり、脈があるのを確かめる。

「気を失っているだけだな」

「だから信用しろって」

カチャ、と男に手錠をかけると、インカムで容疑者確保、と告げる。

「ご苦労さま。澤刑事、祥汰くん」

メガネを掛けた天パの男が、そう労いながら後は任せてくれよ、と二人に告げる。

「柴原、報告書はいつまでに出せばいい?」

澤が柴原とよんだメガネの男に尋ねる。

「疲れているだろうからね、明後日でいいよ」

「では直帰する、後は頼んだ」

「ああ」

「んじゃ、バイバイ柴原さん」

「おつかれ祥汰くん」

ニコニコと、笑って二人を見送る。それを見ていた別の警官が、アレが例のイヌヒトとハンドラーですか? と柴原に尋ねる。

「ああ、うちの秘密兵器だよ。祥汰くん、ちょっと気が短いところあるけど、澤が上手いこと手綱握ってくれてるからいいコンビになってるよ」

今度なにか奢ってあげないとな。そんな事を呟きながら、柴原は現場の後始末をするべく、指示をし始めた。

近年、犯罪は凶暴性を増し、ヒトとイヌをかけ合わせた、イヌヒトと呼ばれる個体を使った事件が多発していた。事態を重くみた警察も、イヌヒトを使った部隊を編成することにした。イヌヒトだけでは万が一暴走した時のことを考え、常にハンドラーと呼ばれる人の調教師とペアにして現場に投入している。

祥汰は甲斐犬と人をかけ合わせたイヌヒトで、体は小さいが、俊敏さと攻撃力は大型のイヌヒトと遜色ない個体で、普通の人間の耳と頭の上に縞模様の付いたイヌの耳が生えている。そして、尾てい骨からはフサフサした尻尾も生えていた。

澤は祥汰が生まれてから世話をしているハンドラーだ。澤は34歳、祥汰は14歳で、祥汰は実戦に駆り出されてからまだ半年しか経っていないが、目覚ましい成果をあげている若手のホープだ。

「澤ー、腹減った」

あと手がちょい痛い、と、祥汰が愚痴をこぼす。

「怪我をしたのか?」

「ああ、素手で拳銃の弾受けたから」

見せてみろ、と、澤が手を見せるように促す。ほい、と祥汰が見せた手は、皮が少し剥けて赤くなっていた。

「ちょっと警察病院寄っていくか」

「えー、大げさ」

「お前の定期検診も近いからな。物のついでだ」

祥汰に車に乗るように促すと、澤は警察病院に向けて車を走らせる。20分ほどで目的地に着き、受付に用件を告げてイヌヒト専門の病棟へ行く。

「お、澤、祥汰。何かヘマした?」

ニコニコと柔和そうな笑みを浮かべたその男もまた、頭の上に垂れ耳を生やしたイヌヒトで、ゴールデンレトリバーとかけ合わせた個体だ。

「有人(ありと)、ちょっと祥汰が手を怪我した。それの治療と少し早めの定期検診だ」

「了解。ちょっと見せて」

有人と呼ばれたイヌヒトは、祥汰に手を見せるように告げる。ほい、と見せられた手を見て、軽い火傷だね、念の為薬塗って包帯巻いとくね、と診断する。

「後はいつもの検診だね」

採血や一通りの検査を終えて、祥汰は外出ておいて、ちょっと澤と話あるから、と祥汰を診察室の外へ出るように促す。

「あ、向かいの部屋に僕のお菓子あるから。それ摘んで待っておいて」

「お、ラッキー」

いそいそと、お菓子に釣られて祥汰が診察室の外へと出てゆく。

「で、結果は?」

澤が改まって尋ねる。

「問題ないけど、まぁ、一つ問題あるっちゃあるね」

「どんな問題だ?」

「あー、祥汰、確か14だっけ。もうすぐだよね」

「……、さっさと言え」

「ああ、ごめんごめん。保護者の澤にはちょっと言いにくいんだけど。ヒトにはないけどイヌにはあるやつだよ」

「……、発情期か」

「あの子、戦闘種でしょ。僕達研究種のイヌヒトは、去勢してて大丈夫だけど、戦闘種は去勢するとポテンシャルが40%も下がるってデータあるんだよね。あれだけ優秀な個体だから、上層部が去勢を認可するとは到底思えないし」

言いながら、机の中からゴソゴソとなにかを取り出して、澤にはい、と手渡す。

「これは?」

「強壮剤。かなり効くやつらしいよそれ」

「俺に祥汰の相手をしろと?」

はぁ、とそれを見ながら沢がため息をつく。

「そう言うのもハンドラーの役目だって、知らないわけじゃないでしょ?」

「こっちは、あいつがよちよち歩きの時からずっと一緒にいた。弟みたいなものだ。それ相手に勃つかどうか……」

「あー、多分大丈夫なんじゃない? 澤、結構やらしい目で祥汰みてる時あったよ」

「……、本当か?」

「うん。だから大丈夫だって」

「そんなことでお墨付きをもらってもな」

「まぁ、なるようになるしか。勃たなかったらその薬使いなよ」

「分かった」

大体、一ヶ月以内に発情期来ると思うから、腹括りなよ、お兄ちゃん。そう告げて、有人は祥汰の下へ行くように促す。

「お、澤……。何か暗い顔してるけど、俺の検査結果悪かった?」

「いや、問題ない。買い物して帰るぞ」

「うえーい。俺カレー食べたいんだけど。スパイスカレーの辛いやつ」

「また嗅覚に支障が出そうなものを」

「いーじゃん別に」

果たして俺は、こいつの相手がちゃんと務まるのだろうか。そんな事を考えながら、二人は病院を後にした。


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