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第37話 愛してる





「ねえ、覚えてる? レオンがくれたスープ、美味しくなかったよね」


 おれとロレッタはキッチンで一緒にいた。おれにスープの作り方を教えてくれているのだ。


「ああ、本当にまずかった。おれ、料理は自分で作ったことなかったからさ。冒険中は仲間を頼るか、保存食を食べるかだったから」


「うん。美味しくなかったけど、あったかかった。今でも、あのあったかさ、覚えてる」


 ロレッタがおれに料理を教えてくれているのは、きっと、彼女が去ったあとのことを考えてくれているからだ。


 でもロレッタは直接そうは言わない。おれも聞いたりしない。


 離れ離れになることを、強く意識したくなかった。


「料理といえば目玉焼きだよね。ロレッタが初めて作ってくれて……美味しかったけど、一日に何回も食べさせられたっけ」


「え、えへへ、ごめん。レオンが喜んでくれるのが嬉しくて、夢中になっちゃってた」


 可愛らしい照れ笑い。


 いつだかベスが言っていたことを思い出す。すぐそれを懐かしむ日が来る、か。


「お外でお肉焼いてお酒飲んだこともあったね。おれたちが知らずに復活させちゃったドラゴンをやっつけたあと」


「うん……美味しかったね。人がいっぱいなのは、きつかったけど……ふたりきりなら、またやりたいかも。楽しかったから」


「うん、楽しかった……。楽しかったなぁ……」


 またやりたいことは、もうやれなくなる。


 涙が溢れてきそうなのを、呼吸を止めてこらえる。


「あの次の日、二日酔いになっちゃったけど……ロレッタがしてくれたこと、嬉しかったな」


「わたしがしたこと……か、川でした、えっちなこと?」


「えっ? いや、可愛い服を着て見せてくれたことだよ。お陰で元気が出たし……まあ、えっちなのも、嬉しいことは嬉しいんだけど、さ」


 ロレッタは頬を染めて、うつむいてしまう。


「そっか……。えっち、嬉しいんだ。やっぱり、嬉しいんだ……」


「えーと、ロレッタ?」


「じ、じゃあ……せっかくだし、今日はお、お風呂、一緒に、は、入る?」


「えっ、あ、あぁ、うん……」


 びっくりして思わず頷いてしまった。互いに照れて、スープが出来上がるまでの間、なにも言えなくなってしまった。


 その後、お風呂を沸かして一緒に入る。お互いに大事なところはタオルで隠してはいるが、お湯にはいる前から、顔は真っ赤になってしまっていた。


 湿って艶を増した黒髪、あどけなく照れている顔、白く綺麗な肌に、すらりと伸びた手足。ふくよかな胸元。形のいいお尻。ドキドキしすぎて、泣きそうになるくらい可愛らしい。


 一方のロレッタも、こちらの胸板とか腹筋とか、股間周辺とかに視線が行っている。


 女性は男が胸を見ていたらすぐわかると聞いたことがあるが、女性が見ているのも案外わかるものなんだなぁ……。ということは、おれが見ていることもロレッタにはバレバレということか。


 ふと互いに目が合い、静かに笑い合う。


「お、お風呂、あったかいね」


「うん……。いいお風呂だよね。この家も……。テイラーさんに感謝しなくちゃな」


「一緒に木を切ったり、水路作ったりも楽しかったね」


「ああ、楽しかった。それに……おれ、この家ができて、君が家で待っていてくれたとき、初めて幸せだなって思ったんだ。嬉しかった。ありがとう」


「わたしこそ……ありがとう」


 お風呂を出てからは、暖炉の前のソファでくつろぐ。


 ロレッタはこてんと横になって、おれの太ももに頭を乗せる。


「えへへ……膝枕ぁ」


 そんなロレッタの頭を撫でる。


「そういえばこうやって膝枕してるときに、レティシアが来たんだよなぁ」


「うん……びっくりしたけど、お友達になれた」


「そしておれは、お友達じゃないって言われた」


「だって、ベスとレティシアに、友達と違う気持ちなんだって教えてもらったから」


「ロレッタ、実はさ……あの日の夜、おれ、起きてたんだ」


「え……」


「足音でさ」


「あ、じゃあ……」


「うん、ロレッタがなにしたか、知ってる」


 するとロレッタは隠れるように自分の顔をおれの太ももに押し付ける。髪の隙間から覗く耳が、ひどく真っ赤になっていく。


「あ、あのね……。伝えたかったの、友達とは違う好きなんだって……。でも、恥ずかしくって……でもでも、キス、してみたかったから……」


「いいよ。嫌じゃなかったから。むしろドキドキして、嬉しかったし……。なんなら、今もしたい」


 くるりと回って、ロレッタはこちらに顔を向けた。潤んだ赤い瞳で、ジッと見つめてくる。


「じゃあ……する?」


「うん、する」


 唇を重ね合わせる。すぐ離れて、照れ笑い。


「えへへ……レオン、好きぃ」


「おれも好きだよ、ロレッタ。愛してる」


「うん、愛してる」


 もう一度、今度はロレッタが積極的に唇を重ねてくる。


「ね、レオン……。今日は、久しぶりに一緒に寝よう?」


「いいよ。ロレッタから誘ってくるなんてえっちだなぁ……」


「ふぇっ? ち、違うよ、ただ一緒に、同じベッドで寝るだけだよぅ……!」


 それからおれのベッドで一緒になる。


 あたたかく柔らかい感触。そばにある可愛らしい顔。規則的な寝息。


 初めのうちはドキドキしすぎて眠れなかったけれど、今はもう、安心材料でしかない。そのぬくもりを抱いて、おれは深い眠りについた。


 そして翌朝目覚めたとき、ロレッタはもういなかった。

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