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第29話 男女の恋愛について、きっちり教えたげないと





「愛? 愛って、普通に好きなのとどう違うの?」


 ロレッタの問いに、レティシアは意外そうだ。


「ロレッタさん、おじさまのことは本当にただの友達だと思っていたのですね……。私、てっきり誤魔化しているものかと……」


「誤魔化すって、なにを誤魔化すの? 愛してるって秘密にしなきゃいけない好きなの?」


 ロレッタは本当に、レオンに対する自分の気持ちの正体を知りたいだけだ。名称はわかった。友情ではなく、愛。では、それらはどう違う?


 ベスはなにが楽しいのか、にやにやと笑っている。


「う〜ん、レティシアちゃん、これは男女の恋愛について、きっちり教えたげないといけないんじゃないかなぁ〜?」


「そうですね……。このままでは恋敵にすらなれませんもの……」


 そうして、ふたりからのレクチャーが始まった。


「まずロレッタさん、人には恋愛感情というものがあります。特定の異性に対して抱く、親愛の感情です」


「友情とは違うの?」


「ええ、友情は同性、異性を問わず、相手に信頼や親しみを抱くもので、恋愛感情ほど強くないのが一般的でしょうか」


「違いがよくわかんない」


 素直に言うと、レティシアは困ってしまう。


「そうですね……言葉だと説明が難しいかもしれません……」


 そこでベスがにこやかに口を開く。


「んーとね、あたしはね、友情と愛情だと、して欲しいことに差があると思うんだよね」


「そうなんだ? どういう風に?」


 これは興味深い。ロレッタはベスを見つめて、傾聴する。


「おお、いい食いつきっぷり。じゃあ説明するけど……例えばさ、友達には助けてもらったり、一緒に遊んで欲しかったりするじゃん?」


「うん。レオンにも、そう思ってる」


「恋愛とかだとそれに加えて、好きだって伝えたくなったり、逆に好きって言って欲しくなったり。あと、触れて欲しくなったりするんだよ。わかるかな? そういうの感じる?」


「……うん。レオンに撫で撫でして欲しい気持ちとか……全部、ある、かも……」


「じゃあ、あたしたちに、そこまでして欲しいって思うことある?」


「それは……ない、ね」


「つまり、そういうこと。なんとなく違いはわかった?」


「うん。なんとなくだけど……でも、まだ教えて欲しい」


「いいね〜、今日は積極的だね〜、なんでも答えちゃうよ〜」


「うん。じゃあ……恋愛だと、どうして触れて欲しくなっちゃうのかな?」


「おっとぉ……」


 なぜかベスは視線を逸らした。レティシアと顔を見合わせる。


「これも教えちゃっていいのかなぁ?」


「う〜ん、保護者の了解を取りたいところですが、あいにく今日はお仕事ですし……」


 なにやら相談している。そんなにショッキングな内容なのだろうか?


 むんっ、とロレッタは胸を張って見せる。


「保護者なんていらない。わたし、大人だから。どんな内容でも平気。受け止める」


「そう言われても……」


 レティシアはまだ困った顔をしているが、ベスのほうは頷いてくれた。


「よし、それじゃあ、あたし言っちゃうね。ロレッタちゃんの性の扉、開いちゃうね」


「卑猥に聞こえる言い方はおやめください」


「いや〜、実際に少し猥談入るかもしれないから〜……」


「まったく。ほどほどに、してくださいね」


 そしてベスは、ロレッタに向き直る。


「ロレッタちゃん、一応聞くけど……えっちだなぁって思うことある?」


 びくっ、と反応してしまう。


「な、ないよ……」


「悪いことじゃないし、怒ったりしないから、正直に言って。本当に、ない?」


「……ある」


「男の人の裸を見てみたい、とか。触ってみたい、とか?」


「う、うん……。いけないことだと思ってた。恥ずかしいことかなって」


 レオンの裸を見たとか、触ったとか、実際にやらかしてしまったことは黙っておく。


「まあ積極的に人に話すことじゃないけどね。でも恥ずかしいことじゃないんだよ。普通のこと。それはね、男の人と女の人とで幸せな気持ちになるために必要なことなんだよ」


 そこからはベスの独壇場であった。


 様々な一般例、そして見聞きしてきたという事例、さらには実体験を交えて説明してくれた。


 その内容はまとめてしまえば、男と女で子を成す行為に繋がっており、そこに至るまでの欲求が、意識的無意識的に関わらず含まれるのが恋愛感情なのだというのだ。


 つまり、そういった感情を持った相手と、全身で触れ合い、局部をこすりつけ、気持ち良くなりたいという欲求の現れなのである。


 なんてことだろう。なんて、えっちなんだろう。聞いていちゃいけない気がする。なのに聞き続けてしまう不思議。


 顔が火照ってくる。見れば、レティシアも顔を赤くしながら熱心に聞き入っている。


 レティシアもえっちだ。話してくれるベスも、もちろんえっちだ。なるほど、これが普通なんだ。でも……。


 そういう相手——つまりレオンと、えっちなことをすると想像すると、ドキドキが止まらない。ますます体中が熱くなってくる。なぜだか恥ずかしい気持ちも湧いてくる。


 そして昨日、知識を更新した結婚という概念にも、いずれ子を成す男女が生活を共にするという意味が含まれていると知る。ベス曰く、えっちいっぱいするんだろうね。


 あー! ああぁああ!


 言ってしまった! 昨日、「レオンと結婚してることになるのかなぁ」って! レオンにどう思われただろう!? えっちな女の子に思われただろうか?


 というか、キス! キスも! キスにもえっちな意味合いがあるなら、キスをせがんだ自分は、めちゃくちゃえっちなのでは!?


「——以上、レクチャー終わり。ロレッタちゃん、わかったかな? これが愛だよ、愛!」


「…………」


 わかったけど、返答できない。


 どうしよう。これから帰って、どうやってレオンと話せばいいのだろう?


 これまで通りには絶対に行かない。


 でも……。


「そのご様子から、ロレッタさんはよく理解できたみたいですね。それにしても、おじさまもさすがです。相手に知識がないからと手を出さないなんて、まともな方なら我慢できないと思いますよ」


 レティシアの言うように、レオンがロレッタのためになにかを我慢していたのなら、これからは我慢させなくてもいいのかもしれない。


 これまで通りに行かないなら……これまでと違うことを、期待してしまう。

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