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第24話 つまり、料理勝負?





「勝負? どういう勝負?」


 ロレッタは興味ありげにレティシアに聞き返す。


 レティシアは、不敵な笑みを浮かべる。


「うふふっ、乗り気ですね。では、どれほどの愛情を持っているか、料理で示してみましょう」


「つまり、料理勝負?」


「そうです。おじさまへの愛情を込めた料理をお出しするのです。おじさまは、どちらがより深い愛があったか、審査していただきますわ!」


 ノリノリで話を進めるレティシアだが、おれは苦笑してツッコまざるを得ない。


「レティシア、こういうときって、どちらがおれを好きかよりも、おれがどちらを好きなのかのほうが大事じゃないのかな?」


 レティシアはこちらに向けて、にこりと笑顔。そして無言。


 あ、スルーする気だ。あくまで自分の気持ちが大事か……。


 一方のロレッタは、なぜか胸を張った。こちらも不敵な笑み。


「大丈夫、レオン。わたし、勝負は結構好き。負けるのは嫌い。勝つよ」


「いやべつに勝ち負けの心配をしてるわけじゃないんだけど……」


 しかしロレッタ、勝負事になると人見知りが引っ込むのか。意外な発見。


 ふたりはノリノリでキッチンへ歩いていく。


「ではキッチンをお借りします。おじさまは、そのまま待っていてくださいね!」


「しょうがないな……」


 意味のある勝負じゃないと思うけれど、ここで止めても消化不良だろう。どんな結果になるにせよ、最後までやらせてみよう。


 待つこと数十分。


「できました、おじさまの好物です!」


 先攻はレティシアだった。持ってきたのは魚料理。白身魚のソテー、チーズ乗せだ。


「おお、これは久々……」


 元パーティメンバー、戦士バロンが冒険の旅の途中、よく作ってくれた料理だ。淡白な白身魚を包む香草とチーズの風味がたまらない。


「おじさまに作って差し上げようと思って、色々持ってきていたのですよ。さすがに魚は現地調達ですけれど、いい味に仕上がっていると思います。どうぞ召し上がってください」


「うん、いただきます」


 ひと口食べて、その味に感心する。


「美味しい。すごいな、バロンが作ってくれたのよりよく出来てる」


「はいっ。おじさまが喜ぶお顔が見たくて、練習してきたのですよ」


 と、そこにロレッタがやってきて、食事中のおれをジィ〜っと見つめる。


「レオン、それが好きなんだ……。レティシア、あとで作り方教えて」


「いいですけど、うふふっ、敵に教えを請うなんて、よほど自信がないのです? この勝負、私が勝ったも同然ですね」


「それはどうかなぁ」


 自信満々なロレッタだ。しかし手ぶらだ。


「ロレッタ、君の料理は?」


「わたしのはすぐできるから。うん、今から作るね」


 そう言ってキッチンに消えて数分。ロレッタが持ってきたのは、シンプルな目玉焼きだった。


 ひと目見て、レティシアは勝ち誇る。


「これはやはり、勝負あったようですねっ」


 おれもロレッタが目玉焼きを持ってきたのは意外だった。


「どうしてこれなんだい? 今の君なら、もっと色々、難しい料理も作れるだろうに」


「だってこれが一番、わたしの好きが詰まってるから」


 ロレッタは柔らかな微笑みと共にそう言った。


「わたしと一緒に暮らしてくれるレオンにお礼がしたくて……でも、わたしにはなんにもできなくて……。なにか人に教わりたくても、お外は苦手だし……。だけど、そのままじゃダメだって思って、頑張るって決めて……危険な道を越えて、難関をくぐり抜けて、やっと覚えた料理……。レオンが美味しいって言ってくれた、最初の料理なんだよ」


「ロレッタ……」


「レオン、食べて。わたしの好きが、いっぱい詰まってるから」


「美味しい! ロレッタの勝ち!」


 おれは目玉焼きをひと口で飲み込み、宣言した。


「そ、そんな……ッ!」


 レティシアは、がくり、と肩を落とす。


「うぅ……料理の出来としては負けていませんが、これは愛情の勝負っ! 今の話を聞いたら、納得せざるを得ません……!」


 一方のロレッタは、小首をかしげてにっこり。ちょっと誇らしげ。


「わたしの勝ちぃ」


「うん、おめでとう」


 おれはいつもの調子でロレッタの頭を撫でてあげる。ロレッタは嬉しそうに目を細める。


 それを見たレティシアは、突如奇声を上げた。


「さ、さんぼんしょぉおおぶ!」


 どうやら『3本勝負』と言ったらしい。


「こういうときは、3本勝負が基本です! まだまだ1本取られただけですから! まだ決着はついていませんから!」


 おっと。負けを惜しんでルールを追加したぞ。いいのかな?


 ちらり、とロレッタを見ると、王者の風格で頷いてみせた。


「受けて立つ。負けない」


「いいえ、次こそ勝ってみせます! 見ていてください、おじさま! あなたに勝利を捧げます! そして、その……」


 急にモジモジして赤面する。


「勝てましたら、私にも、その、ナデナデを……」


 もしかして羨ましかったのかな?


「うん、いいけど」


「約束ですからね! ではロレッタさん、次の勝負です!」


 気合の入った様子のレティシアに、両手を胸元で握ってやる気満々のロレッタ。


 果たして次の勝負は?


「剣術勝負でいかがでしょう!?」


 あっ。


「私、おじさまに近づくため、父に習って一生懸命鍛えてきたのです。もはや道場で私に敵う者はありません。現役の勇者パーティにだって遅れは取らないはずです。それもこれも、おじさまへの想いがあってこそ。その愛を込めて剣を振るいます!」


「あー……レティシア、それはやめたほうが……」


「ロレッタさんが剣も扱えない、か弱い女性だからですか? でしたら、私の不戦勝ということで! これは愛情の勝負ですから! 相手のために努力できるかどうかですから!」


 レティシアも、なりふり構わなくなってきたなぁ……。


 それに対し、ロレッタは余裕の笑みだ。


「剣なら使えるよ。この勝負、受ける」


「では表に出ましょう」


 ふたり連れ立って外に出てしまう。おれは慌てて追いかける。


「レティシア、悪いことは言わない。本当にやめたほうがいい」


「そんなにロレッタさんが心配なら、止めて差し上げればいいのです」


 あー、これはダメだ。自分が優勢だと思ってる。


 仕方なく、おれはロレッタに小声で告げる。


「手加減してあげてね」


「うん、わかってる。でも」


 ちょっとだけ魔王っぽい顔になった。


「挑戦者は叩き潰す、よ」

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