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第22話 私が大きくなったら結婚してくれると約束してくれました!





 ベスのところへ通ううちに、ロレッタの料理レパートリーは多くなっていった。


 卵料理だけでなく、スープや焼き物なんかも美味しいものが出てきて、非常に助かる。


 というか、おれも料理を覚えるつもりだったのに、いつの間にかロレッタに頼りきりなってしまっている。いいのだろうか?


 素直にそれを聞いてみたら、ロレッタは小首をかしげた。


「いいと思うけど。わたし、一緒にいさせてくれてるお礼のつもりだったし」


「でも、それ以外にも、お掃除も頑張ってくれてるし……」


「自分が快適に過ごすために大事なことだもん。それに、お掃除はレオンもしてくれてる」


「そうなんだけど……君に頼りすぎてる気がしてて」


「わたしもレオンのこと頼ってるから、おあいこ」


 それから、ふにゃっと微笑む。


「それに、それくらいしか働かなくていいの、すごく楽……。ゴロゴロ大好き」


 暖炉の前のソファで、ごろりと身を倒すロレッタだ。おれも隣に座っていたので、彼女の頭が太ももの上に来る。膝枕の態勢になってしまった。


「ゴロゴロさせてくれるレオンも好きぃー……」


 一瞬、胸がドキッとしてしまう。


「す、好き……?」


「うん……。わたしの、たったひとりのお友達ぃ……。えへへ」


「あ、うん。そうだね。友達……」


 しかし前々から思うのだが、ロレッタの言う友達って、かなり距離が近いよなぁ。


 さすがに裸とか見たりするのは恥ずかしがるが、一緒のベッドで寝たり、こうして接触が多かったり、これって友達っていうか……。


 というか、おれ自身が、ロレッタを友達として見られなくなってきているのかな?


 もともと友達とは思ってなかったけど……。


 いや、深く考えるのはよそう。なんだかんだ、今の空気や距離感は心地がいい。下手なこと言って、変わってしまうのは嫌だ。


 どうせ邪魔する者なんていないんだし——。


 コンコンコンコン!


 突如のノック連打に、おれもロレッタもびっくりして、揃って玄関のほうを見遣る。


「おじさま、レオンおじさま! いらっしゃいますか!? 私です、あなたのレティシアです!」


「れ、レティシア?」


 意外な名前に、おれは固まってしまう。一方、ロレッタはおれにジト目を向けてくる。


「……だあれ?」


「えっと、元パーティメンバーの娘」


、ってどういう意味?」


「し、しらない」


 なぜだろう。ロレッタの視線が痛い。いわれのない浮気を追求されている気分って、こんな感じなのだろうか。


 おれが玄関を開けると、そこには笑顔の眩しい女の子がいた。金色の髪を白いリボンでポニーテールにまとめ、青い瞳を上向きにこちらを見つめている。


「お久しぶりです、おじさま!」


「やあ、レティシア。久しぶり。こんなところまでよく来たね。バロンも一緒?」


「いいえ、私ひとりで来ました。おじさまに会いに」


「おれになにか用事でもあった?」


 レティシアは返事をすることもなく、家に入ってきた。


「うぁあ、すごく立派なお家ですね! おじさま自身の立派さと比べれば、まだまだですけど!」


「えーと、ありがとう? 元気そうで良かったけど、なんでわざわざここまで」


「約束を果たすために来ました! 引退して、世界も平和になったっていうのに、おじさまったら私に黙って消えてしまうんですもの。私との約束を忘れちゃいました?」


「いや、一応バロンには家を買うって話はしたはずなんだけど……っていうか、約束?」


 するとレティシアは、自分自身を示すように大きく両腕を広げてみせた。


「私が大きくなったら結婚してくれると約束してくれました!」


「——!?」


 がたたっ、とソファのほうでなにかが落ちる音がした。ロレッタだろう。


 レティシアはそちらをちらりと見やるが、ロレッタは上手く隠れたようだ。レティシアは気にせず、おれに向き直る。


「私、今年で18歳です! とっくに大きくなっていたのに、まだ待たせるのですもの。待ちきれなくて私から来てしまいました」


「ちょっと待ってくれ!? おれ、そんな約束した覚えないぞ?」


「いいえ、おじさまは確かに約束してくれましたわ。あれは私が8歳だったとき……『おじさまのお嫁さんになりたい』と言った私に、おじさまは『君が大きくなるまで生きていられたら考えてみるよ』と言ってくれました」


 レティシアは小芝居を挟みつつ説明してくれる。確かに、それはうっすら言った覚えがある。


「それ約束の内容違くない?」


「いいえ、ほぼ同義です。約束通り考えていただけたら、私と結婚すると結論が出るはずですもの! 私が知る限り、おじさまは未だに結婚しておらず、恋人もいませんもの! 普通に考えれば、断る理由なんてないはずで——」


「あー、いや……」


 つい目を逸らし、ロレッタのほうを見てしまう。ソファの背もたれから、顔の上半分を出してこちらを窺っていた。


 レティシアも釣られて、そちらに目を向けていた。


「え……。誰ですか、あの子……」


 一瞬でレティシアのまとう空気が重くなった。

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