おれたちは、
またおれと手を握ったロレッタだが、ぶるぶると震えているのが伝わってくる。けれど、もう先程のように逃げようとはしない。懸命に、この場に立っている。
その姿に勇気をもらったのか、クラウスは屋敷の幽霊たちに凛々しく声を上げる。
「帰った……。帰ったぞ! この屋敷の主、クラウス・サリアン・リヴァールだ! お前たち、この地を去り、天へ還るときが来たぞ!」
だが屋敷の
「ぼくの言うことが聞こえないのか!? ぼくたちはもう死んだんだ。それに領主はもういない。ここで好きに暮らす権利なんてないんだぞ!」
クラウスに耳を傾ける者はいない。返ってくるのは、ケタケタと嘲るような笑い声だけだ。
その声に怖気づいたのか、ロレッタはおれの手を潰れそうなくらい握りしめてくる。
クラウスもまた、勇気が挫けていく。
「やっぱり……ぼくじゃダメなのかな……」
おれは首を振って否定する。
「ダメなんかじゃない。まだ責任を果たす方法はある。クラウス、君が領主として交わした誓約書はどこにある?」
「2階の執務室にあるはずだけど……」
「なら、そこに行こう。屋敷の
「そっか! ありがとう。行こう、こっちだよ」
2階への階段を上がり、クラウスの案内で執務室を目指す。
始めこそこちらを無視していた
「う、ぐぅっ」
複数の
「や、やめて……っ、やめろぉ……!」
クラウスを助けようと、ロレッタは夢中で
おれは剣を抜いた。魔力を集中させた左手を這わせ、刃に神聖な魔力をまとわせる。
その剣で斬りつければ、クラウスを襲っていた
おれが唯一使える神聖魔法だ。効果はあまり高くない。霧散した
襲ってくる相手を捌きながら、少しずつ前に進む。
なんとか執務室には辿り着いたが、誓約書の場所がわからない。クラウスは物理的に触れることができないため、ロレッタが代わりに探す。
その間、わらわらと集まってくる
「くっ、数が多い。ロレッタ、まだ見つからないか!?」
「もうちょっと待って……! これ? 違う? じゃあこれ!?」
「それだよっ」
クラウスの声に反応して、ロレッタが1枚の羊皮紙を取り上げる。
同時にクラウスが叫ぶ。
「聞け、お前たち! お前たちはこの誓約書を拠り所に好き放題しているが、こんな物にはもうなんの力もないんだ! ぼくらはもう死んで、この土地は国の直轄地になっている! 誰もここにいる権利なんかない!」
「うああっ!?」
クラウスの幽体が引き裂かれていく。
おれはがむしゃらに剣を振るうが、きりがない。このままではクラウスが消滅してしまう。
クラウスだけでなくロレッタも
「や、やめて……っ、やめて! クラウスの話、聞いて!」
懸命に叫ぶが止まらない。クラウスの姿も見えないほどに
「やめてよぉ……っ、やめ——やめてって、言ってるでしょお!」
びしゃり! ロレッタの体から稲妻めいた魔力が放出された。
それは光となって
これは……神聖魔法の波長? おれが使った基礎的な神聖魔法を、見よう見まねで応用したのか?
「なんで……? ねえ、なんで言うこと聞いてくれないの? あなたたちは、臣下なんでしょう? なんでなんでも決めちゃうの? なんで聞いてくれないの? おかしいよ……こんなのおかしいよぉ!」
「ロレッタ……」
「そんなことばかりするから、どうすればいいか、わかんなくなっちゃうんだから……!」
その隙におれは誓約書を拾い上げる。
「クラウス、どうする? 君が決めるんだ!」
「焼き捨てて! こんなものがあるから、こいつらは思い上がっちゃったんだ!」
「わかった!」
火の魔法を発動。誓約書を一瞬で灰にする。
瞬間、影の濃い
「これでわかったろう! お前たちは——ぼくもだけど、ここにいちゃいけないんだ! 天に還るときが来たんだ! 一緒に行こう!」
クラウスは宣言に、しかし
「ロレッタ! もういい、押し潰してしまうんだ!」
「……うんっ!」
ロレッタが魔力の出力を高める。拘束力が高まり、
影の濃い
そいつはおれが即座に両断。霧散して、天に還る。
そして他の
最後に残ったのは、クラウスだけだった。