村長の話を聞いて、おれは村の外にあるというもう一軒の空き家に来てみた。
なかなか立派な二階建てのお屋敷だ。特に壊れている様子はないが、庭の荒れ具合や壁の汚れ具合が不気味さを醸し出している。
かつては周辺地域を治めていた領主の屋敷だったらしい。その領主はもう亡く、周辺地域も国の直轄地になっているらしいが。
ロレッタは、おれの背中にひっついて、服をぎゅっと握りしめてついてきていた。
「……ロレッタ、そんなに怖いなら家で待っててもいいんだよ?」
「そ、そんなのやだよぅっ。お、お化けが出ちゃうかもしれないもん……っ」
怖がってるお陰で、今朝のえっち騒ぎは忘れてくれていていいが、こんなに引っ付かれると、ちょっと困る。動きづらいし、ドキドキするし。
「っていうか、魔王様がお化けが怖いって……」
「だ、誰にだって苦手なものはあると思うぅ〜」
「魔王城にも
「ひいっ!? 嘘ぉ!?」
「え、君の部下じゃなかったの?」
「知らないぃ、なにそれぇ……。うぅう〜、聞きたくなかったぁ……」
「そこまで言うほど?」
「だってだってだって、自分の住んでたところに実はお化け出てたなんて怖すぎるよおぅ〜……」
ますます強く服を掴まれてしまう。怖がってるのも可愛いけど、いつまでもこうしているわけにもいかない。
「じゃ、調べに行こうか」
「うぅう〜……お化け怖いぃ〜」
ロレッタは服を引っ張ったままついてくる。
屋敷の中は薄暗く、埃もかなり溜まっていた。
だが静かとは言い難かった。音はしないが、目の前で動くものがたくさんある。
玄関ホールの階段は執事らしき
「!!? 〜〜ッ!!」
「うわっ?」
背後から凄い力を感じた。
半泣きで声にならない叫びを上げて、ロレッタがおれの体を持ち上げたのだ。
そのまま外へ連れ去られてしまう。
屋敷から離れたところで、やっと下ろしてくれた。
「レオン、帰ろう帰ろう帰ろう!」
「いや、まだ全然調べられてないし」
「でもでもでも、村長さんが言うには、屋敷の中にいるだけで、外にも出ないし、悪いこともしてないんでしょ!? なにもすることはないんじゃないかなあ!? わたしもお家でゴロゴロ大好き!」
「今日は声が大きいなぁ。でもいいの、いま帰っちゃって?
するとロレッタは赤い瞳をうるうるさせた。
「はぅう〜、レオンいじわるぅ〜……」
「意地悪じゃなくて、本当だよ。だからちゃんと調べて対処しとかないと……ね?」
「う〜……うん……」
改めて、屋敷のほうへ向かう。
いつまでも服を掴まれているのは動きづらいので、ロレッタと手を繋いで引っ張っていく。
すると、屋敷の庭の外周でゆらめく影を見つけた。
屋敷から離れようとしつつ、しかし、後ろ髪引かれて戻ってくる。それを繰り返している。
ロレッタが手を握る力が強くなる。
「レ、レオン……あれも、お化け……?」
「ああ、
「ど、どうするの? いっそ屋敷ごとこの世から消滅させる?」
「それもひとつの手だけど、
「じ、じゃあどうするの? わたし、神聖魔法使えないから昇天させられないし……」
「まずは、なんで
「それができなかったら?」
「昔の仲間を呼んで神聖魔法を使ってもらう。じゃ、行こうか」
「最初から呼ぼうよぉ〜」
「だめだめ。あの生臭坊主、どうせ大金要求してくるから」
というわけで、さっそく屋敷外周にいる
「君、このお屋敷の子?」
揺らめいていた影は、おれの声に反応して人の形になる。生前の——おそらく死んだときの姿。
身なりのいい少年だ。
「ぼくが見えるの……?」
「うん。そう言うってことは、自分が普通じゃないってことは、もうわかってるんだね?」
「……うん。ぼくは、死んでるんだ。ぼくのお家の人たちも……」
「残念だけど、そうだね。でも君たちは、まだこの世に残ってしまってる。どんな未練があるんだい? あるいは後悔かな?」
少年
「未練は、ぼくがちゃんと役目を果たせなかったこと……。後悔は、ぼくが家出なんかしちゃったせいで、みんなが死んじゃったこと……」
ロレッタの手が、ぴくりと反応する。家出という言葉に、思うところがあったのかもしれない。
「詳しく聞かせてもらってもいいかな? なにか力になれるかもしれない」
おれとロレッタは身をかがめ、少年
少年