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第18話 お化け怖いぃ〜





 村長の話を聞いて、おれは村の外にあるというもう一軒の空き家に来てみた。


 なかなか立派な二階建てのお屋敷だ。特に壊れている様子はないが、庭の荒れ具合や壁の汚れ具合が不気味さを醸し出している。


 かつては周辺地域を治めていた領主の屋敷だったらしい。その領主はもう亡く、周辺地域も国の直轄地になっているらしいが。


 ロレッタは、おれの背中にひっついて、服をぎゅっと握りしめてついてきていた。


「……ロレッタ、そんなに怖いなら家で待っててもいいんだよ?」


「そ、そんなのやだよぅっ。お、お化けが出ちゃうかもしれないもん……っ」


 怖がってるお陰で、今朝のえっち騒ぎは忘れてくれていていいが、こんなに引っ付かれると、ちょっと困る。動きづらいし、ドキドキするし。


「っていうか、魔王様がお化けが怖いって……」


「だ、誰にだって苦手なものはあると思うぅ〜」


「魔王城にも幽霊ゴースト系は結構いたんだけどなぁ……」


「ひいっ!? 嘘ぉ!?」


「え、君の部下じゃなかったの?」


「知らないぃ、なにそれぇ……。うぅう〜、聞きたくなかったぁ……」


「そこまで言うほど?」


「だってだってだって、自分の住んでたところに実はお化け出てたなんて怖すぎるよおぅ〜……」


 ますます強く服を掴まれてしまう。怖がってるのも可愛いけど、いつまでもこうしているわけにもいかない。


「じゃ、調べに行こうか」


「うぅう〜……お化け怖いぃ〜」


 ロレッタは服を引っ張ったままついてくる。


 屋敷の中は薄暗く、埃もかなり溜まっていた。


 だが静かとは言い難かった。音はしないが、目の前で動くものがたくさんある。


 幽霊ゴーストだ。まるで、生きていた頃の生活を今も続けているかのように、あちこちを動き回っている。


 玄関ホールの階段は執事らしき幽霊ゴーストが掃除らしき動きを見せている。横に見える部屋では、貴族らしき幽霊ゴーストがくつろいでいる。


「!!? 〜〜ッ!!」


「うわっ?」


 背後から凄い力を感じた。幽霊ゴーストの襲撃かと思ったが違う。


 半泣きで声にならない叫びを上げて、ロレッタがおれの体を持ち上げたのだ。


 そのまま外へ連れ去られてしまう。


 屋敷から離れたところで、やっと下ろしてくれた。


「レオン、帰ろう帰ろう帰ろう!」


「いや、まだ全然調べられてないし」


「でもでもでも、村長さんが言うには、屋敷の中にいるだけで、外にも出ないし、悪いこともしてないんでしょ!? なにもすることはないんじゃないかなあ!? わたしもお家でゴロゴロ大好き!」


「今日は声が大きいなぁ。でもいいの、いま帰っちゃって? 幽霊ゴーストって、近くに来た人について行くやつもいるから、もしかしたら今夜、家に……」


 するとロレッタは赤い瞳をうるうるさせた。


「はぅう〜、レオンいじわるぅ〜……」


「意地悪じゃなくて、本当だよ。だからちゃんと調べて対処しとかないと……ね?」


「う〜……うん……」


 改めて、屋敷のほうへ向かう。


 いつまでも服を掴まれているのは動きづらいので、ロレッタと手を繋いで引っ張っていく。


 すると、屋敷の庭の外周でゆらめく影を見つけた。


 屋敷から離れようとしつつ、しかし、後ろ髪引かれて戻ってくる。それを繰り返している。


 ロレッタが手を握る力が強くなる。


「レ、レオン……あれも、お化け……?」


「ああ、幽霊ゴーストみたいだ。外にはいないと聞いてたけど、間違いだっだみたいだね」


「ど、どうするの? いっそ屋敷ごとこの世から消滅させる?」


「それもひとつの手だけど、幽霊ゴーストが完全消滅するとは限らないし、下手すると家を失くした幽霊ゴーストがあちこちを徘徊するようになるかもしれないんだよね」


「じ、じゃあどうするの? わたし、神聖魔法使えないから昇天させられないし……」


「まずは、なんで幽霊ゴーストになったのか聞いてみよう。原因を解決できれば、それで消えてくれるよ」


「それができなかったら?」


「昔の仲間を呼んで神聖魔法を使ってもらう。じゃ、行こうか」


「最初から呼ぼうよぉ〜」


「だめだめ。あの生臭坊主、どうせ大金要求してくるから」


 というわけで、さっそく屋敷外周にいる幽霊ゴーストに声をかけてみる。


「君、このお屋敷の子?」


 揺らめいていた影は、おれの声に反応して人の形になる。生前の——おそらく死んだときの姿。


 身なりのいい少年だ。


「ぼくが見えるの……?」


「うん。そう言うってことは、自分が普通じゃないってことは、もうわかってるんだね?」


「……うん。ぼくは、死んでるんだ。ぼくのお家の人たちも……」


「残念だけど、そうだね。でも君たちは、まだこの世に残ってしまってる。どんな未練があるんだい? あるいは後悔かな?」


 少年幽霊ゴーストは、屋敷を見上げた。


「未練は、ぼくがちゃんと役目を果たせなかったこと……。後悔は、ぼくが家出なんかしちゃったせいで、みんなが死んじゃったこと……」


 ロレッタの手が、ぴくりと反応する。家出という言葉に、思うところがあったのかもしれない。


「詳しく聞かせてもらってもいいかな? なにか力になれるかもしれない」


 おれとロレッタは身をかがめ、少年幽霊ゴーストに目線を合わせた。


 少年幽霊ゴーストは、ゆっくりと口を開く。

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