水路を作るにあたっては、まず地面に溝を掘り、そこに整えた石材を詰め込んで整えようと思っている。
そこで、我が家から川までの最短距離で溝を掘ろうと思うが、その途中には邪魔になる木や岩なんかがあったりする。
「というわけで、薙ぎ払っちゃおうか」
「うん」
ロレッタが片手を掲げ、短時間で魔力を集中。発射する。
高熱の閃光は、瞬く間に軌道上の木や岩を吹き飛ばした。平らな地面が一直線に出来上がる。
続いて、おれは剣を抜いて前に出る。
「じゃあ、次はおれの番。よっと」
下段に構え、切っ先を地面に触れさせた剣を、一気に振り上げる。
剣圧が地面を伝い、土が舞い上がる。ちょうどいい幅の穴が、地割れみたいにかなり遠くまで伸びていく。
「う〜ん、さすがに一発で川までは届かないか」
「地面だもんね、力が伝わりづらいよね」
「まあいいさ。散歩がてら、のんびり行こう」
地割れに沿って歩き、ときどき剣を振って延長していく。途中、岩を見つけたら細切れにしてブロック状の石材にしておく。あとで穴に詰める用だ。
そんなこんなで20分ほどで川に到着。鍛冶屋のテイラーは歩いて一時間くらいと言っていたが、おれとロレッタの足ならそんなにかからない。
穴に水が入ってこないように、氷魔法でせき止めておく。
その間に、穴に石材を詰め込むことにする。
おれはまず石材を組み合わせて、立方体を組み上げる。水の通る道を、石材で囲い込む形だ。
「こんな感じに組み合わせたものを敷き詰めていくんだ。石材同士は、炎魔法で溶接する。これはさすがに手作業だから時間がかかりそうだけど……」
「んー、たぶん手でやんなくてもいいと思う」
ロレッタは、先ほどとは違って本気で魔力を集中させる。
積み上げていた石材たちが、次々と浮かび上がり、穴の中に飛び込んでいく。形は先程教えた通り。石の水路が形になっていく。
少ししたところで、はふぅ、とロレッタはため息をついた。
「……こんな感じ。たくさんを精密に動かすのはちょっと疲れるけど、手でやるよりもずっといいよ」
「おお、さすが魔王。やっぱり器用だなぁ。すごいよロレッタ」
「えへへ……ありがと。でも」
ちょっと誇らしげに笑い、それから苦笑する。
「他の魔法を同時に使う余裕はないから、溶接はレオンにやってもらっていい?」
「ああ、いいとも」
おれはロレッタや他の仲間たちのように、複雑で強力な魔法は使えないが、基礎的な魔法なら使える。その威力や精度には自信がある。
穴に詰められた石材同士が接触する面のみを狙って、炎魔法を発動させる。
熱された接触面が瞬時に融解。すぐ炎を消す。
確認してみると、ロレッタが詰めてくれた分はすべて上手く溶接できていた。
「うん、さすがレオン。わたしと戦ってきたんだから、それくらいできるよね」
「勝てなかったけどなぁ」
「今やったらわかんないと思う」
そんな軽口を叩いて、ふたりで作業を開始する。
お互い、コツが掴めてきたのか、進めるごとにペースアップしていき、1時間ほどで我が家の前まで水路を作り終えることができた。
テイラーたちはいなかった。置き手紙で、昼食休憩と書いてあったので、おれたちもここらで休憩。
ロレッタの新レパートリーであるオムレツ責めを食らった。
そのあとは、川の下流に向けて同様の作業をするだけだ。すでにコツが掴めていたので、一連の作業をほぼ同時に進行。半分……とまではいかないが、かなり短縮した時間で作業が終わった。
「……早くね? あんたらでも1日か2日はかかるんじゃなかったっけ?」
作業に戻っていたテイラーは、顔をひきつらせていた。
「コツ、掴めちゃったので。あ、これから水、流してみますけど、見ます?」
「ああ……」
おれはロレッタを見て、頷いてみせる。ロレッタは頷きを返し、氷魔法を解除する。
すると水路を通して、流れる音が伝わってくる。
水路を繋げた部分には、覗けるように穴を空けておいたが、やがてその穴を水流が通過していった。流れは途切れない。きっとこのまま川の下流に流れ込むことだろう。
「やったね、ロレッタ」
「うん、やった」
ハイタッチするつもりで、手のひらを差し出す。しかしロレッタには意味が通じなかったらしい。手のひらを見て、小首をかしげる。
「レオンの手、おっきいね」
「いや見るんじゃなくて、ロレッタも手を出して、軽く叩くの」
「こう?」
ぱちん、と勢いよく音が出る。勢い良すぎてちょっと痛かったけど。
「そうそう。これがハイタッチ。一緒になにかやって、上手くいったときとかに、喜びを分かち合うためにするんだ」
「そうなんだ……。もう一回やりたい。今度はちゃんとするから」
「いいよ。じゃあ、水路完成、おめでとう。いえい」
「い、いえいっ」
ぱちん。
そのときの、達成感と喜びとを混ぜ合わせたようなロレッタの笑顔は、とても可愛らしかった。