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第14話 水路作っちゃおうか





 洗濯を終え、水もたっぷりと汲んで家に帰ってきたところ、客が来ていた。


 ロレッタはすぐおれの背中に隠れてしまう。昨夜の宴会で少しは馴染んだと思ったが……まあ、しかし気持ちはわかる。おれも少し驚いている。


 鍛冶屋の店主テイラーを始め、村の若い男たちが10人近くも来訪していたのだから。


「テイラーさん、いったいどうしたんです、こんなに大勢で?」


「いやあ、レオンさん、家を改築するって話だったろ? 昨日、酒の席で話したらよ、みんな手伝うって言ってくれてよ」


「そんな、でも、こんなに大勢に賃金を払えるほど余裕は……」


「いや金はいいんだよ。お陰でドラゴンの肉なんて美味いもん食わせてもらえたしな! しかも鱗や骨も好きにしていいってんだろ? 素材としても売り物としても高級品だからなぁ、むしろこっちがあんたに金を払いたいくらいなんだぜ」


「そうそう、遠慮すんなよ!」


「あんたはもう村の一員だからな! 手を貸すのは当たり前だぜ!」


 みんな一様に笑いかけてくれる。


 今まで定住したことのないおれにとって、それは不思議な感覚だった。


 命を預け合うパーティほど強い絆はない。けれど、互いのために命を懸け合わねばならない、強制に近い拘束力もない。みんな、自主的に助けようとしてくれている。


 きっと種類の違う繋がりなのだろう。強すぎないからこそ、気楽に付き合える。


「みなさん……ありがとうございます。そこまで言っていただけるなら、お願いしようかと思います」


 おれの後ろで「えぇー……」とロレッタが嘆いていたが、まあ、そこはあとでフォローしておこう。


「おうよっ! さあ、みんなやろうぜ!」


 テイラーの号令で、みんなそれぞれに作業を開始する。


 どうやらみんな、かつては自宅を建てた経験があるらしく、おれの気づかなかった点にも目を光らせて、着実に作業を進めていく。


「……つっても、肝心の材木や石材はもう用意してくれてるからなぁ。そんなに時間はかからねえと思うぜ。レオンさんもロレッタちゃんも、楽にしててくれよ」


 とか言われてしまって、おれは離れたところで洗濯物を干そうとしていたロレッタと合流する。


 ロレッタはジト目で唇を尖らせた。


「わたしの安息の地が……大勢に蹂躙されたぁ……」


「まあまあ。その分、おれたちの家の完成が早まるわけだし。ありがたいことだよ」


「ぶー……」


 ほっぺたを膨らませる。


 そんなロレッタから洗濯物の一部を受け取り、木と木の間に張った紐に引っ掛けていく。


 しかし、すぐ干し終えて手持ち無沙汰になってしまう。


 とはいえ、さすがに改築中に家の中にいるわけにはいかない。


「ねえレオン……どうしよう。わたし、居場所がない……」


「おれもだけど……だからってどこかに遊びに行くのも悪いしなぁ……」


「なにか、することないの?」


「んー……」


 ちょっと考えてみて、思い至る。


「そういえばさ、水を汲みに村の井戸か川に行かなきゃいけないのは不便だと思ってたんだよね。それをどうにかしちゃおうか?」


 ロレッタは目を輝かせる。


「賛成。水のために外に行かなくて良くなるなら最高」


「うん。じゃあやっちゃおうか」


 ロレッタは嬉しそうに頷くが、すぐ小首をかしげる。


「でも、どうするの?」


「要は、水がここまで流れてくるか、井戸が庭にでもあれば楽なんだよね」


「川の流れ変える?」


「それは他所様への影響が強すぎるのでやめとこうね」


「じゃあ、井戸、掘る?」


「それもいいと思うけど……」


「わたし、お家でゴロゴロしてるときに水を汲みに行くのは面倒だと思う。庭の井戸だとしても」


「じゃあちょっと面倒だけど水路作っちゃおうか。上手く水道にできればいいけど」


「水道……いいなぁ」


 おれは作業中のテイラーに声をかけてみる。川から水路を引いて、家に水道を作ることは可能かどうか。


「まあ、水が来るんなら、そこからは俺がやってやれるけどよ。こっから川まで歩いて1時間くらいあるだろ? 村を上げての大工事になるぜ?」


「そうかな? 水が通る道を掘ればいいんですよね? それくらいなら、おれとロレッタで……まあ、1日か2日でできると思いますけど」


「そんなわけ……いや、あんたらならマジでやりそうだけど……」


 テイラーは、おれたちが1日で用意した材木の山を眺めつつ嘆息する。


「あー、じゃあ、とりあえずやるなら、ここまで水を引く道と、ここから川に戻す道のふたつ作ってみてくれ。こっちが終わるまでにできてたら、すぐ繋げるからよ」


「わかりました。じゃあ、こちらのことはお任せします」


 その場を離れようとすると、「おいおいおい」とテイラーからツッコミが入る。


「道具を忘れてるぞ。つるはしかなんか店にあったから、それを——」


「いや大丈夫」


 おれは愛用の剣を手に取って見せる。


「これ一本あれば充分ですから」


 それだけ告げて、おれたちはさっそく水路作りに取り掛かった。

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