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第11話 宴会じゃああ!





 森の奥に封印していたというドラゴンの遺骸を前に、村長はわなわなと震えた。


「え……宴会じゃああ! この村唯一の不安が消え去ったぞぉおお!」


 村長は老人とは思えない、力強い声を張り上げた。


「男どもを集めろ、村に運べえ! 火を起こし、大鍋をかき集めろ! ドラゴンの肉を食えることなど一生に一度あるかないかだぞぉ!」


 村長の盛り上がりは、他の年長の村人に伝播していき、それからだんだんと他の若い村人にも浸透していく。


「レオンさんとロレッタちゃんの歓迎会を前倒しだ! 今晩はたっぷり肉を食うぜぇ!」


「酒もたっぷりあるよなぁ!? なあオヤジさん!」


「おおよ! くくっ、オレはいつかドラゴンを料理してみたかったんだ。まさか叶う日が来るとはよぉ、泣けてくるぜ……!」


 そんな村人たちのテンションに、おれとロレッタは置いてけぼりである。


 ロレッタは小首をかしげる。


「みんな、なにを騒いでるの?」


「あのドラゴンが封印してたやつで、復活直後に討伐できたのが嬉しいみたい」


「ふぅん……。ドラゴンのお肉、美味しいもんね」


「それだけじゃなくて、この村には、本当に脅威だったみたいだよ」


 村長ら年長の村人らの様子を見ていて、思い出した。


 魔族との戦いで最前線となっていた街などでは、普通のドラゴンくらいなら、衛兵たちでも撃破できていた。


 それを見慣れすぎていて、大した脅威でもないと感じてしまっていたが、普通の平和な村では滅亡レベルの大きな脅威であったのだ。


 そのうち、村人たちは慌ただしく動き始める。


 ドラゴンの肉を村に運んだり、調理したり、村の外にテーブルや椅子を運んだり、大きな火を焚いたり。


 おれもドラゴンの肉を切り分けるのは手伝ったが、すぐ主賓だからと、働かずに待つように言われてしまった。


 そして夕暮れ時。


 いよいよドラゴンの肉料理が出される。


 おれとロレッタは村の広場にたくさん置かれたテーブルの中でも、ひときわ大きな物に座らされた。周辺には村長やその家族、村の顔役などが揃う。


 ロレッタは、例のごとく緊張して、きりりとした魔王の顔になってしまっていた。


「改めてだが、ようこそサリアン村へ! これからもよろしくな、レオンさん、ロレッタちゃん!」


 村のみんなが次々と挨拶に来ては、食事や飲み物を持ってくる。


 村長もご機嫌で、おれと肩を組む。


「いやぁ、はっはっはっ! 引退した冒険者とは聞いてたが、ここまで強いとは思わなんだ! 封印のドラゴンを討伐してくれて本当に良かった! あんたこの村の恩人だよ!」


「いえ、その……すみません。おれたちが森から取ってきた岩が媒体だったとは知らず……。結局、封印解いちゃったのはおれたちなのに、こんな宴会まで開いてもらっちゃって」


「気にすることはない! どうせいずれは解けるものだったんだから! それに、いつやつが復活するのかと不安になることもなくなった! ありがたいことだよ! この村に来てくれてありがとう!」


 歓迎されているのはいいが、人が多くて騒がしいこの状況、ロレッタは大丈夫だろうか?


 村長の相手もほどほどに、ロレッタの様子を窺うと、意外なことに楽しそうに笑顔を浮かべていた。


 見れば、お酒の入っていたであろうグラスをいくつも空けてしまっている。


「うへへ〜、レオン……美味しいねぇ、楽しいね〜」


 お肉を頬張り、お酒で飲み込む。さらには上気した顔でこちらに迫ってくる。


「ロレッタ、平気なの?」


「へーきぃ。これ飲んでたら楽しくなって、怖いものなしだよぉ〜」


「本当に平気かなぁ」


 なんか意味もなく左右に揺れてるけど。


 ロレッタはふにゃふにゃと崩れるように、おれの胸に顔を埋める。


「うへへぇ〜、レオン、あったかーい」


「お、おお……」


 上気した顔に、無邪気な笑顔。多くなるボディタッチ。


 なんだろう。物凄く可愛らしい。ドキドキしてきてしまう。


「あー、レオン、お酒飲んでない……なんで? 喉渇くとつらいよ、死んじゃうよ〜?」


「いや、おれはお酒は飲まないよ。習慣なんだ。酔っ払ったら戦いに影響が出るし、いつ敵に襲われるかわからない旅で……」


「もう戦いはないんだよぉ」


 がっ、と掴まれたかと思うと、お酒のグラスを口元に押し付けられる。


「飲んで、飲んで、飲んでぇ」


「うおおっ?」


 ロレッタは酔っているせいか遠慮なしのパワーでおれを拘束している。逃げられない。というか、このままじゃグラスが割れてお互いに怪我をする。


「わかった、わかったから」


 押し付けられていたグラスを受け取り、中身を飲み干してみせる。


「おお〜、レオン飲んだぁ、あはははっ」


 なにが面白いんだ、ロレッタ。


 って、しまったな。この喉が焼ける感じ、かなり強い酒だぞ。こんなの一気飲みしたら、あとでどうなるか……。


 うぐぐ、すでにちょっと頭がグラっときてる……。


 ロレッタは、またお酒を持ってきて、にんまり笑顔で迫ってくる。


「これも、美味しいよぉ〜」


 いやでも、おかしいなぁ。いつもよりロレッタが可愛く見える。


 お酒を勧められたら、つい飲まなきゃいけない気がしてくる。


 おれ、なんで最初はお酒を拒んでたんだっけ?


「あははは、もらうよ、ロレッタ。ぐびぐびっ、あー、本当だ、美味しいなぁ」


「ねー? うへへ〜」


「あはは〜」


 ロレッタが、なぜかおれの頬を指でつんつんしてくる。


「レオン、ほっぺた柔らかいねー、いいねー」


「なにおう、そっちこそー」


 おれはロレッタのほっぺたを、むにっと掴んでみる。


「う〜ん、すべすべで触り心地がいいなぁ」


「えへへ、褒められたぁ。撫で撫で〜」


 手を伸ばして、おれの頭を撫でてくる。


 おれも負けじとロレッタの頭を撫でてあげる。


「撫で撫で〜」


「えへへ〜」


「あははは」


 宴会は夜通し続いたそうだが、これ以降、おれの記憶はない。

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