森の奥に封印していたという
「え……宴会じゃああ! この村唯一の不安が消え去ったぞぉおお!」
村長は老人とは思えない、力強い声を張り上げた。
「男どもを集めろ、村に運べえ! 火を起こし、大鍋をかき集めろ!
村長の盛り上がりは、他の年長の村人に伝播していき、それからだんだんと他の若い村人にも浸透していく。
「レオンさんとロレッタちゃんの歓迎会を前倒しだ! 今晩はたっぷり肉を食うぜぇ!」
「酒もたっぷりあるよなぁ!? なあオヤジさん!」
「おおよ! くくっ、オレはいつか
そんな村人たちのテンションに、おれとロレッタは置いてけぼりである。
ロレッタは小首をかしげる。
「みんな、なにを騒いでるの?」
「あの
「ふぅん……。
「それだけじゃなくて、この村には、本当に脅威だったみたいだよ」
村長ら年長の村人らの様子を見ていて、思い出した。
魔族との戦いで最前線となっていた街などでは、普通の
それを見慣れすぎていて、大した脅威でもないと感じてしまっていたが、普通の平和な村では滅亡レベルの大きな脅威であったのだ。
そのうち、村人たちは慌ただしく動き始める。
おれも
そして夕暮れ時。
いよいよ
おれとロレッタは村の広場にたくさん置かれたテーブルの中でも、ひときわ大きな物に座らされた。周辺には村長やその家族、村の顔役などが揃う。
ロレッタは、例のごとく緊張して、きりりとした魔王の顔になってしまっていた。
「改めてだが、ようこそサリアン村へ! これからもよろしくな、レオンさん、ロレッタちゃん!」
村のみんなが次々と挨拶に来ては、食事や飲み物を持ってくる。
村長もご機嫌で、おれと肩を組む。
「いやぁ、はっはっはっ! 引退した冒険者とは聞いてたが、ここまで強いとは思わなんだ! 封印の
「いえ、その……すみません。おれたちが森から取ってきた岩が媒体だったとは知らず……。結局、封印解いちゃったのはおれたちなのに、こんな宴会まで開いてもらっちゃって」
「気にすることはない! どうせいずれは解けるものだったんだから! それに、いつやつが復活するのかと不安になることもなくなった! ありがたいことだよ! この村に来てくれてありがとう!」
歓迎されているのはいいが、人が多くて騒がしいこの状況、ロレッタは大丈夫だろうか?
村長の相手もほどほどに、ロレッタの様子を窺うと、意外なことに楽しそうに笑顔を浮かべていた。
見れば、お酒の入っていたであろうグラスをいくつも空けてしまっている。
「うへへ〜、レオン……美味しいねぇ、楽しいね〜」
お肉を頬張り、お酒で飲み込む。さらには上気した顔でこちらに迫ってくる。
「ロレッタ、平気なの?」
「へーきぃ。これ飲んでたら楽しくなって、怖いものなしだよぉ〜」
「本当に平気かなぁ」
なんか意味もなく左右に揺れてるけど。
ロレッタはふにゃふにゃと崩れるように、おれの胸に顔を埋める。
「うへへぇ〜、レオン、あったかーい」
「お、おお……」
上気した顔に、無邪気な笑顔。多くなるボディタッチ。
なんだろう。物凄く可愛らしい。ドキドキしてきてしまう。
「あー、レオン、お酒飲んでない……なんで? 喉渇くとつらいよ、死んじゃうよ〜?」
「いや、おれはお酒は飲まないよ。習慣なんだ。酔っ払ったら戦いに影響が出るし、いつ敵に襲われるかわからない旅で……」
「もう戦いはないんだよぉ」
がっ、と掴まれたかと思うと、お酒のグラスを口元に押し付けられる。
「飲んで、飲んで、飲んでぇ」
「うおおっ?」
ロレッタは酔っているせいか遠慮なしのパワーでおれを拘束している。逃げられない。というか、このままじゃグラスが割れてお互いに怪我をする。
「わかった、わかったから」
押し付けられていたグラスを受け取り、中身を飲み干してみせる。
「おお〜、レオン飲んだぁ、あはははっ」
なにが面白いんだ、ロレッタ。
って、しまったな。この喉が焼ける感じ、かなり強い酒だぞ。こんなの一気飲みしたら、あとでどうなるか……。
うぐぐ、すでにちょっと頭がグラっときてる……。
ロレッタは、またお酒を持ってきて、にんまり笑顔で迫ってくる。
「これも、美味しいよぉ〜」
いやでも、おかしいなぁ。いつもよりロレッタが可愛く見える。
お酒を勧められたら、つい飲まなきゃいけない気がしてくる。
おれ、なんで最初はお酒を拒んでたんだっけ?
「あははは、もらうよ、ロレッタ。ぐびぐびっ、あー、本当だ、美味しいなぁ」
「ねー? うへへ〜」
「あはは〜」
ロレッタが、なぜかおれの頬を指でつんつんしてくる。
「レオン、ほっぺた柔らかいねー、いいねー」
「なにおう、そっちこそー」
おれはロレッタのほっぺたを、むにっと掴んでみる。
「う〜ん、すべすべで触り心地がいいなぁ」
「えへへ、褒められたぁ。撫で撫で〜」
手を伸ばして、おれの頭を撫でてくる。
おれも負けじとロレッタの頭を撫でてあげる。
「撫で撫で〜」
「えへへ〜」
「あははは」
宴会は夜通し続いたそうだが、これ以降、おれの記憶はない。