「あ、タクシー来たみたいなのでお先に帰りますね」
「私もタクシーまで着いて行くよ。ほら、秋奈ちゃん行くよ」
「ん? どこに行くの?」
顔を赤らめながら眠そうで甘えたような声色でそう聞いてくる秋奈。
「帰るんだよ。家に帰ってベッドで寝てくれ」
「まだ皆といる~」
「よし、行くぞ」
俺は無理やり秋奈を立ち上がらせて結唯さんと一緒にタクシーまで連れて行った。
「透夜くんちょっと」
タクシーに乗ろうとすると結唯さんが俺の肩を叩いて小声でそう言ってきた。
「どうかしましたか?」
とりあえず秋奈だけタクシーに乗せて結唯さんの方へと向かった。
「どうして秋奈ちゃんがお酒沢山飲んであんな風になっちゃったのか分かる?」
「え? いや普通に皆との時間が楽しくなっちゃって飲んだんじゃないですかね」
「ぜ~んぜん違いますぅ~。も~、幼馴染なのにな~んも分かってないんだから」
結唯さんはそう言いながら大きな溜め息をついた。
「いい? 秋奈ちゃんが沢山お酒を飲んで酔ったのは甘えたかったからだよ」
「甘えたかった? どういうことですか?」
「さっき瀬奈ちゃんが円華ちゃんは酔ったら甘えてきて可愛いって話してたでしょ? それを聞いて秋奈ちゃんも酔って透夜くんに甘えようとしたんだよ」
「そんなわけないじゃないですか~」
そう言うと更に大きな溜め息を吐かれた。
「これは秋奈ちゃんも大変だな~。ほら! 二人でいちゃいちゃしてこい!」
「いったぁ!」
結唯さんから背中を割と強めに叩かれた。これぜったい赤くなってるやつ。
「明日遅刻しないでよね~。じゃあ明日」
「はい、ありがとうございました」
そう言って結唯さんと別れ、タクシーで家まで向かった。
途中で念のために二日酔いに良い飲み物をコンビニで買っておいた。
「ほら着いたよ秋奈」
相変わらず秋奈はむにゃむにゃと何を言っているのか分からない。けれどなんとか俺の支えはあるけれど歩けてはいる。
これ明日大丈夫か……?
とりあえずベッドまで秋奈を運び、横にさせて毛布をかけようとした刹那――。
「ッ⁉」
「……だめ。行っちゃダメ……」
秋奈はふにゃけた声色でそう言って俺の事を抱きしめてきた。
そしてさっきの結唯さんの言葉を思い出した。
「いや……まさかな。酔いすぎておかしくなってるだけだろう」
そう思いゆっくりと抜け出し毛布をかけると秋奈はすやすやと眠りについた。
これ明日ちゃんと起きてスタジオ来れるのか……?
でも俺が迎えに行けば……いや、もういっそ泊って行くか。疲れてるしソファーで寝れるし。
俺はソファーに横になり目を瞑った。
☆
「…………ん。あれ、私…………えっ?」
な、なんで透夜がいるの⁉
私昨日……そうだ、お酒飲んで酔っちゃって……あれ、それからの記憶が……。
ちょっと酔って甘えてみようとしただけなのに私お酒弱すぎ!
え、待って私変な事してないよね⁉ だ、大丈夫。ちゃんと服は着てる。てかなんで透夜はソファーで寝てるのよ!
私酔ってたのよ? 男なら一緒にベッドで寝るとかちょっといたずらするとかしなさいよ! 私に魅力がないって事⁉
「…………ん」
透夜に不満を思いながら頬を膨らませていると、突然透夜のスマホからアラームが鳴り響いて透夜がゆっくりと身体を起こした。
「あれ、おはよう秋奈。ちゃんと起きれたんだ」
眠たそうな目を擦りながら透夜はそう言ってきた。
「お、おはよう透夜……えーっと、私昨日……」
「酔ってお店で寝ちゃってたからタクシー呼んで家まで連れてきたんだよ」
「ご、ごめんなさい……そ、それで何で透夜が私の家に?」
「あー、今日も企画があるでしょ? 秋奈が時間に起きれないで遅れたりしないようにと思って。でもちゃんと起きれたみたいだね」
「ね、ねぇ。私変な事とかしてないよね……」
「変な事? う~ん、してない……かな?」
な、何その間⁉ 私絶対何か変な事したじゃん⁉
そうだ、結唯ちゃんとかに聞けば何をやらかしたのか分かる……で、でももし私の家で変な事してたら結唯ちゃん達は分からないし……あーもう! 私の馬鹿。
「あれ、秋奈ちょっと顔赤くない? 大丈夫?」
「へ?」
「もしかしてまだ少し酔いが残ってる?」
「だ、大丈夫だよ。それより準備しないと。とりあえずシャワー浴びて来るね」
大丈夫、きっと私はそんな変な事はしてないはず。してたとしても透夜にもたれかかって寝ちゃうとか……それくらいなはず。