言われてスタジオに来た瞬間にマイクを渡されて歌ってと言われても……。
まだ心の準備なんて全然できていない。
今までの様に秋奈と二人でカラオケで歌うのとはわけが違う。
今俺達の配信を見ているのは四千人近く居る。
そんなに大勢の人に歌声を聞かれると思うと……。
「雫月ちゃん、三葉くんの十八番って何?」
「えー、三葉の十八番は何か聞いたことないな~。どれも上手だからこれっての無さそうだけど」
しかも秋奈がやたらと俺の歌が上手いと皆に期待を持たせるようなことを言うから尚更緊張する。
けれど記念になったら歌うって言ったし、チャンネル登録者一万人はしっかりとした記念だ。
「十八番は特に無いですね。なので皆さんの様に視聴者さんからのリクエストで良さそうなのにしようかな」
:三葉くんに歌ってほしい曲ありすぎる。
:三葉くんの声色的にコールガールとか林檎売りの少年とか歌ってほしい。
:でも星乃彼方くんのオリ曲も合いそう。
:三葉くんとよくカラオケ言ってるって言ってた雫月ちゃんに歌う曲決めてもらったら?
:それあり。
:そうしよう。
「え、雫月が決めて良いの?」
「まぁ確かに雫月ちゃんが三葉くんの歌一番聞いてるだろうからね」
「雫月ちゃんが好きな曲で良いんじゃないかな。三葉くんはどうかな?」
「俺も別にそれで大丈夫です」
「うーん、でも凄く悩むなぁ~……うん、決めた! アンノウンフェアリーテイルにする!」
:めっちゃ好きな曲だ。
:最近ハマって毎日聞いてる!
秋奈が選んだアンノウンフェアリーテイルは、俺が一番最初に聞いたボカロ曲だ。
それからボカロにハマり、カラオケでは必ず歌っている。
秋奈が曲を入れて、部屋に曲が流れ始めた。
俺は大きく息を吸い、歌い始めた。
「うわぁ……すっごい上手……」
「音程バー全く外れてないよ」
:上手すぎ。
:想像よりも相当上手い。
:誰の歌ってみたよりも好きだこれ。
:MIXされてなくてこれはレベル高すぎ。
:マジでそれ。早くMIXされたバージョンも聞いてみたい。
:早口の歌詞もはっきり聞こえるの凄い。
歌う前は緊張して上手く歌えるか心配だったけれど、歌い始めてみたら緊張もほぐれて普段通り歌えてよかった。
俺が歌い終えると、四人は拍手をしてくれた。
「うわぁ97.5点だって! 凄い!」
「三葉くんこんなに歌上手なのに歌配信直ぐにしなかったのもったいないよ!」
「もう一曲歌ってよ!」
「そうだ、雫月ちゃんとデュオとかどう?」
:それ凄くあり。
:もっと聞きたい。
「良いじゃん! 三葉一緒に歌お?」
秋奈にそう言われ、俺と秋奈は二人で歌を披露した。
それからも何曲かリクエストされて歌ったが、一曲歌ってからは一切緊張することなく歌う事が出来た。
今まで秋奈にしか歌声を聞かれたことがなかったから、こうしていろんな人から感想を貰うとなんか嬉しいし自分の歌声に自信が付いた。
そして更に一時間皆で歌い続けて今日のカラオケ配信は終了した。
「めっちゃ歌ったね~」
「久しぶりにこんな歌ったよ~」
「この後どうする? 皆でご飯とか」
「いいね! 行こう行こう!」
「それじゃあこの前円華ちゃんと一緒に行ったもんじゃ焼きのお店とかどうかな?」
瀬奈さんの提案に皆が頷き、俺達は瀬奈さんと円華さんお勧めのもんじゃ焼きを食べに向った。
夕飯時という事もありお店は結構賑わっている。少し暗めの雰囲気で内装も凄く綺麗だ。
俺達は個室を予約していたこともあり、すんなりと入れた。
「それじゃあ皆今日はお疲れ様! 最終日も頑張ろう! かんぱ~い」
お酒を片手に結唯さんがそう口にした。
円華さんと瀬奈さんは二人でくっ付きながらもんじゃ焼きを作っている。
そんな二人をじーっと結唯さんは見つめている。
「そう言えば秋奈ってお酒飲んでたっけ?」
秋奈がお酒を飲んでるところなんて一度も見たことがない。
「普段は飲んだりしないけどこうやって皆で集まる時とか特別な記念の日とかには少しだけ飲んだりするよ」
「因みに明日の格付けチェックにお酒の項目も用意してるから」
「ま、まぁ私記念配信でちょっと高いお酒飲んだことあるし?」
「それにしても透夜くんのチャンネル登録者の増え方凄いね。あっという間に一万人突破しちゃうなんて」
「いやいや、絶対にこの企画だったり既に沢山登録者のいる皆の配信に出してもらってるからですよ。本当にありがたいです」
俺一人で配信を始めて続けていたらこんな短期間で一万人なんて登録者数に届くはずがない。
間違いなく皆の力が大きい。というか殆ど皆のおかげだ。
本来ならデビューしてこんな直ぐに関わることのできないくらいの人気VTuberの皆に関われている時点で凄く恵まれている。
「いやいや、私達の方こそありがとうだよ。グッズの梱包もそうだけど企画の準備とか色々ありがとね」
「ほらほら三人とももんじゃ焼きできたから食べようよ」
そう言って瀬奈さん俺達のお皿にもんじゃ焼きを盛り付けてくれた。
「ありがとう瀬奈ちゃん。いただきます」
「「いただきます」」
俺達はそう言ってもんじゃ焼きを口にする。
「うん! 美味しい!」
久しぶりに食べたけれどやっぱり美味しいな。
「ね? 美味しいでしょ! 円華ちゃんが見つけてくれてね、いつか皆とも一緒に来たいなって思ってたんだ!」
そう言って瀬奈さんは円華さんの腕をぎゅっと掴んだ。
「え、円華さん顔赤いですけど大丈夫ですか⁉」
ふと円華さんの顔を見てみると、頬が赤く染まっていた。
「あ~大丈夫大丈夫。私ちょっとお酒弱くて一杯飲むだけで顔赤くなっちゃうんよね。でもまだ全然酔ってるとかじゃないから安心してね」
「それなら良いですけど」
「なんかイメージと違うでしょ」
そう言って結唯さんは笑った。
「円華ちゃんがお酒強くて瀬奈ちゃんが弱いってイメージだけど逆なんだよね~。瀬奈ちゃん結構お酒大丈夫だもんね」
「酔っちゃうほどお酒飲んでないだけだよ。それでね、瀬奈ちゃんは酔うとすっごく甘えて来て可愛いんだよ」
「ちょ、ちょっと瀬奈ちゃん!」
円華さんの一言で瀬奈さんの顔は更に赤くなった。
「酔って甘える……か」
「ん? 何か言ったか?」
「う、ううん。何でもないよ」
隣で秋奈が小声で何かを言っていたけれど何も聞こえなかった。
「ただこういう時間って凄く楽しくて良いなって思って」