「ん~! 美味しい!」
「良かった。透夜くんはどう? 口に合うかな?」
「めっちゃ美味しいです」
結唯さんが振舞ってくれたのはパエリアだ。
「良かった。そういえば透夜くんって名字は決めてるの?」
「名字ですか……?」
「私だったら沢村、雫月ちゃんなら雨音」
「そういえば決めてないですね」
「決めておいた方が良いんじゃないかな? 三葉って名前の配信者が後から出てきた時に名字があったら区別しやすいし」
確かに言われてみたらそうだな。
でも名字と言われてもなんも思いつかないな。
「名字なんて響きが良ければなんでも良いんじゃないかな」
「そうだよ。私は響きもそうだけど雫月と連想して雨、雨の音で雨音って名字に決めたから三葉に関係する自然系に関する名字でも良いんじゃないかな」
「う~ん。でも俺ってネーミングセンス皆無だから名前決めるのとか凄く苦手なんだよなぁ~。あ、そうだ」
俺はふとあることを思いつきスマホを手に取った。
「何してるの?」
「AIに考えてもらおうと思って」
「AI?」
「名前を入力すれば名字を考えてくれるサイトがあるんですよ。この前みたVTuberの人がこれを使って名前を付けたみたいで」
「へ~。便利な時代になったんだねぇ」
三葉と入力してしばらくすると五つの候補が出てきた。
「えーっと、どれどれ~。天光、木陰、葉上、月木、桜城」
「この中だったら桜城ですかね。本名が月城で城って同じ文字も入ってますし」
「桜城三葉。良いじゃんカッコいいと思う」
「私も良いと思うよ」
二人も良いと言ってくれたし、響きも悪くない。これに決めよう。
「それで透夜くんはVTuberとしての目標だったり夢とかはあるの?」
「目標か……今は特にこれと言ってないですけど、そうですね。秋奈の夢を叶えるサポートができたらなって考えてます」
「へ~、秋奈ちゃんの夢を叶えるねぇ~!」
そう言って結唯さんは秋奈を肘でツンツンした。
そして何やら俺に聞こえないように耳打ちで話し始めた。
「これから透夜くん人気者になったら他の配信者の人にもコラボしよって誘われて誰かに取られちゃうかもしれないよ。早くゲットしちゃわないと。あの感じ絶対に秋奈ちゃんに脈ありだって」
「そ、そうかな……」
「だって好きでもなきゃVTuberになってまで秋奈ちゃんのサポートしようなんて思わないって」
「でも普通VTuberとか配信者になって目標聞かれたら登録者数だったり有名な人とコラボできるくらいになるとかが大多数だと思うよ」
「あのーお二人とも~」
ダメだ、何を話しているのか気になって仕方ない。
結唯さんはずっとにやにやしてるし秋奈はちらちらこっちを見て来るし。
絶対俺に関する事で話してるだろ。
「あーごめんね。気にしないで」
気にしないでと言われても気になるものは気になるだろ。
「それでそれで、他には無いの?」
「他ですか……強いて言えばとにかく楽しもうかなって思ってます」
「おー、いいね~!」
「結唯さんは何かあるんですか? 目標とか」
「私? 私はとにかく沢山の人と関わって沢山の人を笑顔にする配信をして楽しむ! それだけ!」
結唯さんは満面の笑みでそう答えた。
「私達がよくコラボ配信したりしてる百合ちゃんとリンちゃんも結唯ちゃんが紹介してくれて仲良くなったんだ」
「そうなんだ。結唯さんは架け橋的な存在なんですね」
「勿論透夜くんにも紹介するよ」
そして結唯さんは再び秋奈に耳打ちをした。
「大丈夫、ちゃんと二人には透夜くんは秋奈ちゃんのものってしっかり言っておくから」
「…………うん」