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第5話【幼馴染の手料理】

「どうだった透夜? 配信するのって楽しいでしょ?」


 配信を切り、秋奈は伸びをしながらそう聞いてきた。


「うん。楽しかった。配信を見るのも楽しいけど、配信する側はもっと楽しいな」


 最初は緊張したけれど秋奈とだったからか直ぐに緊張は解け、楽しく配信ができた。

 自分のプレイや発言に沢山のリスナーが反応してくれる。凄く貴重な体験だった。

 時間も忘れて夢中になって気が付いたら二時間も配信をしていた。


「私も久しぶりに透夜と昔みたいにこうやってゲームができて楽しかった。なんだか懐かしい気分」

「確かに秋奈と結構出かけたりはしてるけどゲームは久しぶりにしたな」


 中学生くらいの頃は良く俺の家でゲームを何時間も一緒にやっていた。

 本当にあの頃に戻った気分だ。


「ねぇ透夜。透夜も私と一緒にVTuberやってみない?」

「はぁ!? 俺も一緒に⁉」


 本当にこいつは何を言ってるんだ。


「うん! だって透夜と一緒に活動できたら凄く楽しいし私のモチベーションにもなるし」

「いやでも俺機材なんて無いし揃える資金なんてあるわけないし」


 高校の頃にバイトをして貯金はあるが、大学に入ってからはバイトをしていないから全部揃えるとなると資金が足りるとは思えない。


「それは心配しなくて良いよ。私が初期費用は貸してあげる。透夜が配信でお金が稼げるようになって返せるよって時に返してくれたらいいから。あ、でも私と定期的にコラボすることが条件ね」

「でも全部揃えたら凄い金額になるでしょ」

「大丈夫大丈夫、私結構貯金してるから。高い買い物も全然しないんだから」

「……分かった。じゃあ俺も初めてみるよ」


 正直配信者というものに憧れていなかったと言えば嘘になる。

 それにこんなチャンス、活動を始めるきっかけなんて滅多にない。こういう機会を逃したらダメだ。


「やった! 透夜と一緒に活動できる!」

「でも俺なんかがそんな返せるくらい人気になれるのかな」


 今の時代配信者は星の数の様に居る。そんな中しっかり収益を得られているのはほんの一握りだけ、俺がその一握りになれる気がしない。


「もー。透夜って本当に自分に自信ないよね」


 そう言って秋奈はスマホを弄り始め、俺に画面を見せてきた。


「ほら、さっきの配信の皆の反応だよ」


 画面には『雫月ちゃんの幼馴染ゲーム上手いしトークも面白いしまた出てくれないかな』『三葉くんめっちゃイケボで好き』『雫月ちゃん週五日のペースで配信に三葉くん出してくれないかな』『次三葉くんが配信出るのっていつ?』と色んな投稿で溢れていた。


 こんな反応してくれてるのか……。

 そう思っていると秋奈が頬を膨らませてむっとしていた。


「何で頬膨らませてるんだよ」

「ふんっ。なんでもないよーだ」

「なんだよそれ」

「それよりさっそく明日機材見に行くからね!」

「明日⁉ 急だな」

「だって早く透夜と活動したいんだもん。待ちきれない!」


 本当に行動力やばいなこいつ。

 昔から秋奈はやりたいって思った事は直ぐにやる。本当に尊敬するよ。

 俺はこうして誰かにきっかけを作ってもらったりしないと動き出せないタイプだからな。

 けれど自分から行動していかないとダメだよな。こういう所も変えていかないとな。


「そうだ透夜、配信に出てくれたお礼に夕飯作ってあげるね。私の手料理だよ」

「秋奈って料理できるの?」

「できるよ! 馬鹿にしないでよね!」


 そう言って秋奈はキッチンへ向かい、料理を始めた。


「本当に料理できるんだな」

「これくらいできるよ!」


 見事な手捌きで調理をしていき、あっという間にオムライスが完成した。

 まぁ卵を割る際に殻がボウルに入ったのは見逃してあげるとしよう。


「どうぞ、召し上がれ」

「めっちゃ美味しそう。いただきます」


 スプーンでオムライスをすくい、口へと運んだ。


「ど、どうかな……美味しい?」


 さっきまでは自信満々な表情を浮かべていた秋奈だが、俺がオムライスを口にした瞬間一気に不安そうな表情へと変わった。


「うん! 美味しい。ありがとう秋奈」


 そう言うと秋奈の表情はぱ~っと明るくなった。

 今まで一度も秋奈の手料理を食べたことがないが、こんなに美味しい料理が作れるとは思わなかった。

 今まで食べたオムライスの中で断トツで美味しい。


「本当⁉ 良かったぁ~。万が一口に合わなかったらと思ったらちょっと不安になっちゃった」

「思ってた十倍は美味しい」

「口に合ったみたいで良かった。透夜オムライス好きだもんね」


 頬杖を付きながら俺を見つめそういう秋奈に少し……いや凄くドキっとしてしまった。

 なんだかこうして二人っきりで家で夕飯を食べていると同棲している気分になってくる。

 こういう時間がずっと続けばなんて思いながらオムライスを口にする。


「そういえば秋奈、ホラゲーは何するかとかあるのか?」

「ホラゲーとか全然詳しくないからリスナーのおすすめにしようかなって思ってる」

「それなら俺がお勧めのホラゲーあるからそれやろうよ」

「……そ、それって全然怖くない?」

「めっちゃ怖い」

「絶対やだ!」


 でもリスナーに聞くなら結局そのゲームになりそうなんだけどな。

 まぁ俺達の普通の怖さは秋奈にとっては三段階くらい恐怖のレベルが上がってるからな。


「私がどれくらい怖いのがダメなのか知ってるでしょ?」

「お化け屋敷に入る前から泣いてたもんな」

「無理やり連れて行かれたの今でも根に持ってるからね!」


 今日はなんだか昔の事を良く思い出すな。


「だから透夜の言うめっちゃ怖いホラーはやりません!」

「それじゃあリスナーの皆に決めてもらいますか」

「でもリスナーの皆も絶対怖いの選ぶからなぁ。やっぱり自分で決めようかな……」

「それじゃ罰ゲームにならないだろ」


 秋奈が選んだら絶対怖くないゲームになるに決まってる。

 それじゃあリスナーの皆と俺が望むリアクションが見えない。そんなのダメだ。


「むぅ……そうだ透夜、お風呂は入っていく?」

「いや、流石にお風呂は家で入るよ」


 ご飯までご馳走になってお風呂までは流石に悪い。


「残念、せっかく一緒に入ってあげようかなって思ったのに」

「は⁉ 一緒に⁉」

「あはは、冗談に決まってるじゃん。そんな期待した顔しちゃって、変態」

「そんな顔してねぇし変態じゃねぇよ!」


 アホかこいつは、誰だって好きな人にそう言われたらドキってするだろうが。


「また今度配信で皆に言っちゃお~っと」

「馬鹿やめろ! じゃあ俺は秋奈が中学生の頃に文化祭で――」

「あー! ごめんなさいすみません。それだけは絶対に言わないでください!」

「秋奈が言わなければ俺も言わない」

「言いません! 絶対に言いません!」


 本当に表情豊かだな秋奈は。

 そういう所が可愛い所でもあるんだけど。



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