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第145話 雪の下の野菜


 芽依に言い返されたメイナードは、残り二人の監視者に引き摺られるように帰って行った。

 どうやらメイナードは元々使者として選出されていた訳ではなく、花雪見たさに無理矢理着いてきた野次馬であったらしい。

 残り二人は、芽依達の会話を聞きフェンネルを見てから脅威は今の所なしと判断。

 庭も確認対象となっていたのだが、芽依の怒り塩梅に急遽中止となり判断材料は少し減ったが大丈夫だとアリステアからの話も聞いて、納得して帰って行った。


 メイナードといい、いつの間にか帰って行った去勢殿下ことパーシヴァルといい、お坊ちゃんの頭は花畑しかないのかとため息を吐く。


「ふふ」


「ご機嫌だね」


「だって、僕を……家族の為に国相手に喧嘩しようとするんだもん。大事にされてるなぁって……」


「そりゃ家族だもん。大事にするよ」


「………………うわぁ、どうしよう……嬉しいかも……」


 頬を赤らめてはにかむフェンネルは今までも美しかったが、花雪の姿を取り戻した今は更に美しかった。

 髪に咲くピンク色の花がぶわりと大輪の花を咲かせて周りにポワポワと様々な花を出している。

 どうやら無意識のようだが、中には高価な花が含まれていて、行き交う人達はぎゃ!と慌てて拾って右往左往しているようだ。

 結局アリステアに持ち込まれて喜ぶ姿が最近良く見られている。


「ねえフェンネルさん、本当にいいの?」


「うん、僕の物は君の物だからね」


 フェンネルが芽依に渡したのは庭だった。

 良く整備されていて、小ぶりながらも野菜がなっている。

 更にその庭の3分の1は雪に埋まっていて、中には沢山の野菜たちが眠っているようだ。

 粉雪の、花雪の妖精フェンネルは、見事に雪の下野菜を作り出していた。


 今は芽依の庭の一角にまるで移植されたように庭が移動してきていて、フェンネルは自分の自慢の庭を芽依に見せている。

 ほぼ1週間弱お世話が出来なかった庭だが、毎日丹精込めて作り上げた庭は、ソの期間も頑張って待っていてくれたようだ。


 芽依はこの庭プレゼントの提案をかなり迷っていた。

 丹精込めて作られた庭は美しく、冬や雪の属性を持つ人外者が作る庭はあまり育たないと言われていた中での大成功を見せたフェンネルが、あまりにもあっさりとその庭を手放すというのだ。


 害獣の時の慌てようといい、フェンネルも少なからず様々な思い出がこの庭にはあるはずだ。

 笑顔で芽依を見てはいるが、たまに寂しそうな表情で庭を見ているのを知っているから。


「…………フェンネルさん、じゃあ庭は私もらうね。ただ、この庭のお手入れはフェンネルさんに頼んでいいかな?私には雪の妖精が作った庭の管理は出来ないと思うし」


「………………わかった」


「全部任せる代わりに、この庭の収入はフェンネルさんのね。私達はこの庭の手入れが出来ないから、それはフェンネルさんの報酬って事で!毎月のお給料が出ない代わりにがんばって!」


 グッ!とファイティングポーズをする芽依をポカンと見るフェンネル。

 芽依を見て、自分の庭を見て、そしてまた庭を見る。


「………………まって、それじゃ今ままでと変わらない……」


「そんな事ないよ。新しく料理開発とかには食材提供してもらうし、その手伝いもしてもらうからフェンネルさんの負担はかなり増えるし収入は減るしでいい事あんまりないかも……あ!ハス君まって!!お給料渡してなかった!!」


 困惑するフェンネルを置いて芽依は走り出し、ビクッと体を揺らしたハストゥーレにお金を渡している。

 まだ残っています、ご主人様……と受け取りを渋るハストゥーレのポケットにお給料の袋をねじ込んで、やり切った……と額の汗を拭う動作をする芽依にワタワタと焦っている様子をフェンネルが見る。


『諦めた方がいいぜぇ、アイツ1回言い出したら聞かねぇのわかってんだろ』


「…………そうだね。僕はこれからどれだけあの子に恩を返していけるんだろう」


『別にアイツはそんなん望んでねぇだろ。お前が気になるなら、ゆっくり何かしら返せばいいんじゃねぇか?…………俺達にはこれから気の遠くなる程の時間を一緒に過ごすんだからよ』


「そうだね」





 フェンネルが今まで通り庭の手入れをしている様子を、自分の庭の世話をしながら見ている芽依は、やはり雪の庭の手入れは違うのだな……と思った。


 雪の下に寝かせる前も、庭の土は常にひんやりとしていて全体的に野菜達は寒々しく震えている。そう、ブルブルと震えているのだ。

 日に2回撒かれる水は逆に温水で、野菜達はその幸せな一瞬をまだかまだかと心待ちにしている。


 シャワー……と掛けられた温水に、野菜達はまるで涙を流すように……なにかを垂れ流している。

 え、あれなに…………


「………………え、フェンネルさん……それなに……」


「ん?野菜ジュース?」


「斬新な野菜ジュースだね!?」


「はい、飲んでみて」


「…………………………クッソうま……なんで……」


 野菜からダラダラと流れる汁を受ける受け皿のようなものがよく見たらあるではないか。

 どの野菜からもだくだくと野菜ジュースを流し受け皿いっぱいにしているのを芽依は微妙な面持ちで眺める。

 とても美味しかった。

 美味しかったのだが作り方が微妙すぎる。


「雪の下の野菜ができる前には野菜ジュースが取れるんだよ。結構甘くて飲みやすいんじゃないかなぁ人参からはキャロットジュースに近い味になってるし、野菜によって味が少し違っているんだよ」


「そうだフェンネルさんのね。じゃがいもを少し分けて欲しいんだ」


「あ……あの時買ってくれてた!駄目にしちゃったよね、ごめんね」


「こっちこそ、ボロボロにしちゃってごめん。じゃがいもください!」


 両手を出して頭を下げる芽依をフェンネルは口元に手を当てて恍惚とした表情で見つめた。


「………………なんだろう、この気持ち」


「うん?」


「なんでもない。じゃがいもね、待ってて」


 雪山になっている場所に向かったフェンネルはザクザクと雪の中に入っていく。

 足がずぼっ!と入りショートブーツを履くフェンネルの膝までが雪の中に埋まっている。

 靴の中にたっぷりと雪が入っているだろうが、顔色1つ変えずに歩いている。

 そして雪の中に手を入れて目を伏せたフェンネルは、手を中心に何かの選別魔術を展開、じゃがいもを探し出して数個引っ張り出した。


「…………ふぉ……じゃがいもさん出てきた」


「野菜の場所は決まってないから、取り出す時に選別して取り出さないといけないんだ」


「どれくらい野菜入ってるの?」


「うーん、どうだろう?ここはね雪山を扉にして別空間に繋げてるんだよ。結構広くてね、全部僕が出した雪に埋まってる場所に収穫した野菜を入れてるの。設定した熟成具合で時間が止まる魔術師を掛けているから痛むことも冷害にならないよ」


 ガタガタと震えているじゃがいもがフェンネルの手のひらの熱を取ろうとひしめき合っている不思議な光景を見つつ、ひえっひえの真っ白なじゃがいもを受け取った。


「………………冷たっ!よく普通に持てるね」


「僕、花雪だから寒さには強いの」


 持つよ、とフェンネルは今渡したばかりのじゃがいもを受け取り笑った。


「どこに持っていけばいい?」


「…………とりあえず、厨房に」


「わかったよ」


 美しい妖精withじゃがいも……とキラキラ輝くフェンネルを見ながら一緒に家に戻って行った。


「なにするの?」


「えっとね……」


 フライパンを出した時に、素晴らしい蟻のメディトークが厨房を覗いた。

 芽依がフライパンを持っているのを見て無言で近付いてくる。


『…………何をする気だ』


「焼き芋つくる……じゃがいもだけど」


「焼き芋?」


「やっぱり知らない?」


『知らねぇな』


「フライパンに水入れて、お芋をアルミホイルで包んで蒸し焼きにする」


『…………ふかし芋か?』


「………………………………違うの……さつまいもの焼き芋作りたかったんだけど、ふかし芋か……確かに……」


 むぅ……と悩む芽依を見ながら、とりあえずやるか。とメディトークが芽依からフライパンを受け取り手際よくふかし芋を作ってくれた。


「………………凄い」


 ふかし始めて数分で甘い香りが充満してきた。

 真っ白だったじゃがいもは鮮やかな黄色に変わり、蜜が滴っている。


「火が通りやすくて、形も崩れやすいからこれくらいで良いと思うよ」


『じゃあ、あげるぞ』


 蓋を開けると、ホカホカに湯気が上がるじゃがいもをメディトークは皿に取り分けて芽依に渡す。

 熱々のじゃがいもはトロリと柔らかく、箸を差し入れると簡単に入っていった。

 割ると蜜がトロッ……と溢れてきてコクリと喉を鳴らす。


「………………あま」


 ホクホクのじゃがいもを1口食べた最初の感想は、じゃがいもには無い強い甘さとしっとり感。

 さつまいもに近いが、それでもじゃがいもの甘さなのがよく分かる。

 甘いじゃがいもは、良くスープとかに使われる食材になるらしいのだが単純に蒸しただけでも十分美味しい。


 でもやはり、芽依の求めるさつまいもでは無いのだ。

 これではスイートポテトは作れないし、芋焼酎も…………いや、これはこれで作ってみるのも有りかもしれたいが。

 そもそも作り方が分からないから製法から調べないといけないのだが、材料が無くては意味が無い。


「……………………美味しい、美味しいけど」


「あんまりだった?」


「ううん、これは食べたことがない美味しさだったよ。凄い好き。ただ、私が欲しいのは私の元の場所にあったさつまいもっていう芋なんだ」


「さつまいも?」


『…………初めて聞くな』


 ここで、芽依はこの世界には無い芋の存在、それにより作れる料理の幅やお酒もある事を教えると、庭に精通する2人は顔を見合せた。

 メディトークに、備蓄場所に作った庭はまだ内緒のままさつまいもの存在だけを知らせる。


「話はわかったけど……」


『それはじゃがいもの品種なのか?』


「……………………ちがうます」



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