穏やかに笑っているメイナードに、芽依も作った笑みを浮かべた。
まさかフェンネルの動向を見るために来る人物が王子だとは思わなかったのだ。
「ああ、そんなに緊張しないでいいよ。私は花雪の状態を見に来ただけなんだけど……狂ったと聞いていた割には穏やかだね……ちょっと信じられないな」
眉をひそめてフェンネルを見る、その諸に観察する眼差しに芽依は気付かれないくらいに眉を寄せた。
やはり、あまり良い視線ではない。
「食事を用意しています。召し上がってください……奴隷の同席の許可を頂けますか」
「ああ、勿論だ。自然体の彼を見たい」
許可が出た為、芽依はすぐさま自分の隣の椅子を引いてフェンネルを促すと、微笑んで一礼したフェンネルが椅子に座った。
心做しか芽依に椅子を近づけたフェンネルにメイナードは目ざとく気付き、口端を上げながらワインを飲む。
「……それにしても美しいな、国の支配下にならず残念だよ」
(この世界の権力者って変態ばかりなの?)
思わず目が座った。
メイナードはフェンネルを見ていて気付かなかったようだが、残り二人の監視者は気付いたようだ。
こうして、短い食事会という名のフェンネルの粗探しが始まった。
「そう、じゃあ今は庭の世話をしつつ生活をしているのか。花雪以外にも奴隷がいるんだってな?生活費は足りているのか?」
「問題ありません」
「食料難で庭は大切だが、食い扶持を稼ぐには年中通して安定しないだろう?特に今年は害獣被害がかなり出たらしいしな」
「それも大丈夫です」
国王から何か言われているのか分からないが、終始穏やかで言葉遣いも悪くないフェンネルの粗探しに失敗したらしいメイナードは芽依に矛先を向けた。
2人も奴隷は要らないだろう、生活は大変だろうと投げかけられるも淡々と返事を返す芽依。
美味しいはずの食事の味もわからず、ワインを飲んでも酔えない。
こんな苦痛な食事があるだろうか。
「…………では、正直に言おうではないか。花雪は貴重なんだ。ドラムストのような小さな場所に置きたくないし、その主人が君のような移民の民であることも許されない。隷属契約をすぐに解き私との契約に変えさせろ」
あまりにも理不尽な言葉に芽依は顔を上げた。
「…………それは、国からの指示ですか?フェンネルさんが私の奴隷となってドラムストで生活する事は許可されたと聞きましたけど。1度決めた事を覆すのですか?国が?」
「……………………いや、これは私個人の意見だ。だが考えてもみろ、私が扱った方が有意義に使えるぞ。それに私は王子だ、従って損は無い」
「…………では、お断りします」
「……………………は?」
鳩が豆鉄砲に当たったような間抜けな顔をするメイナードから視線を外し、ハンバーグを切り出す。
芽依のお腹の負担を考えたあっさり和風おろしのハンバーグで、ナイフをいれると肉汁がじゅわりと広がった。
いい匂いが広がり、ベールを外して心ゆくまで堪能したい所だが、今はダメだろう。
「……何故この世界の人達は奴隷になった瞬間存在価値を底辺にまで落とすんだろう。たとえ奴隷になったとして1人の人格ある人間や人外者に変わりは無いのに。たった一日、奴隷紋を入れた瞬間昨日とは変わる生活、周りの目。それに必死に耐える人の気持ちをなんで知ろうとしないんだろう…………もしかしたら明日自分がそうなるかもしれないのに」
「……………………何を言っているんだ」
「少なからず、私の奴隷になってくれた2人はどんな身分でも家族なの。奴隷だからとあなた達の感覚で交換やら寄越せやら言ってくる人達は何人も居たけど、家族をあげる馬鹿はどこにいるの?」
「……お前」
「あなた達が私の家族を奪うって言うなら全力で抵抗しますから。なりふり構わず周りに声を上げて国だろうがなんだろうが相手になります」
「メイ!」
「アリステア様、流石に黙っていられないです。もしそうなったら安心してくださいね、アリステア様ごと抱き込んでみせますから」
「………………まったくお前と来たら……本当にしそうだから困ったヤツだな」
「ふふ、家族の為ですから。私が大切なのは家族とドラムストです」
芽依の振り切った豪胆な言葉にアリステアは呆れつつも笑い、フェンネルは嬉しそうに笑った。
「…………メイちゃんが望むなら、国の一個くらい潰してあげる」
「ありがとう、フェンネルさん。やっとお料理が美味しく感じてきた」
「やめてください……フェンネル様……メイも止めてくれ」
2人でうふふ、と笑いあっているとメイナードはフルフルと身体を震わせて芽依を睨みつけていた。
フェンネルを見た瞬間、連れて帰りたくなったメイナード。
その美しい顔で微笑むフェンネルが芽依を見つめる事に憤りを感じたのだ。
メイナードも奴隷を持っている、美しい女性達だ。
しかし、フェンネルは誰も勝てないその美貌を惜しげも無く芽依に向ける。
メイナードは知らないが、芽依の所有するもう1人の奴隷も特等でその存在を見知ったらギリギリと歯ぎしりするだろう。
(……なんでこうも欲に忠実な人達ばかりなんだろう……いや、ドラムストが安全なだけなんだろうか)
アリステアを見ると、首を傾げて見返してくれた。
この領主も有り得ないほどの美形である。
この世界の顔面偏差値どうなってんの、ぶっ壊れてんの?と思いながら。
(そういえば、アリステア様は奴隷持ってないよね。やっぱり人柄なんだろうか)