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第143話 国からの使者


 移民狩りの首謀者が捕まり、指名手配されていたチエミが護送されてから3週間が経過した。

 全国的に発令された移民狩りの首謀者を捕まえた事に全員がホッとしたと共に花雪の現状を気にし出す人が続出する。


 いったい花雪はどうなったのか、最高位である妖精が死ぬとは思えない。

 なら、今は一体どういう状態なのだろうと憶測をよんだが、その状況までは伝えられることは無かった。


 花雪であるフェンネルの奴隷化自体は良いとして、その主人が移民の民である芽依だということに対して国はいい反応を返しはしなかった。


 最高位の妖精の首に鎖を着け、監視下に置くのは国のメリットが多いからだ。

 その為すぐにでも国に差し出すように言われたが、アリステアが狂った妖精がなんとか理性を保っている状態でそれを移民の民である芽依が保持出来ると判断した為、彼女の奴隷とする処置が1番であると熱弁した。

 下手に手を出せば狂い無差別殺人が起きると。


 それに国は芽依ごと取り込もうとしたが、芽依は他の移民の民と違い様々な人外者と交流をして気に入られている。

 芽依をドラムストから離すのは人外者の怒りを買う。

 そう無理矢理にでも納得の出来そうな言葉を並べた。


 実際、芽依を王都に連れていくなら少なくともセルジオ、シャルドネ、メディトークはファーリアに今後力を貸さなくなるだろう。

 芽依を気に入っているブランシェットだってとうなるかわからない。


 こうして数週間の時間を挟みアリステアは国からその許可をもぎ取り安堵の息を吐き出した。

 すでにフェンネルは奴隷に身分を落とし芽依の庭で穏やかな生活を始めているのを知らない国のお偉いさんが諦めきれずフェンネルの調査としてドラムストに訪問すると決めたのは更に1週間後の事だった。


 既に4月に入り気温も暖かくなってきた頃、また面倒そうだなと芽依は顔を歪ませる。


「………………ごめんね、メイちゃん」


「なんで謝るの?」


 ユラユラと揺れる髪を今日はポニーテールにしようと結んで奴隷の証の鮮やかな赤い髪飾りを付けたフェンネルは振り返り芽依を見る。


「僕の状態を見に来たんでしょ?要らない世話をさせるから」


「やだなぁ、そんなのは気にする事じゃないよ。フェンってば自虐的になったなぁ」


「……そりゃなるよ、だって僕は今メイちゃんの奴隷なんだから」


「駄目だよ、違う。私達は家族になったの、そうでしょ?」


 頑なに奴隷だと頷かない芽依にフェンネルは困ったように笑って奴隷紋のある首筋を撫でると、芽依の顔は険しくなる。


「あんまり言うと噛むよ」


「ちょっ…………噛みグセはだめ!メイちゃん?聞いてるの!?」


 先に歩き出した芽依を慌てて追いかけるフェンネルは、首を横に振りながら言い募るが、笑いだした芽依にため息を吐き出した。


 フェンネルが庭に移動してきて生活を初めてから芽依はフェンネルをフェンと呼ぶ時がある。

 その時の気分によるが、その呼ばれ方も嫌いじゃないよ、と薄ら目元を染めてはにかんだ美しい妖精に、芽依は別の可愛さを見る。

 メディトークの黒光りボディを叩き、うちの家族最高!!と言ってはいはい、と軽く流された所だ。


「ああ来たか。呼び出して悪かったな」


「アリステア様こんにちは、最近はバタバタしていてあまり会えないですね」


「そうだな、でもこれで落ち着くのではないか?……フェンネル様も御足労かけます」


「ううん、それはいいんだけど……話し方もっと変えた方がいいんじゃない?」


「いえ!たとえ貴方がメイのものになったとしても私から見たら最高位の……命の恩人でもありますから」


「そんな大層なものじゃないのになぁ」


「私はメイを守って下さるだけで満足です」


「…………そっか」


 奴隷となった身分でもその強さは変わらず、ましてや周りに一目置かれる花雪である。

 奴隷になってからの領主館の職員達は芽依と共に度々来るフェンネルに好奇の目を向ける。

 アリステアは芽依を守ってくれるだけでと話すが、このような視線には芽依がフェンネルの盾になる事が多々あった。


「では、こちらに」


「大丈夫、フェンネルさんはうちの家族だって胸張っていいんだからね」


「優しいご主人様だなぁ」


「あ……ご主人様……ハス君とは違うニュアンスがまた……」


「メイ、戻ってこい」


「ハッ!!」


 連れられて入った室内は国からの使者との会食の場を設けられていて、清潔でいて少し豪華な調度品に囲まれた煌びやかな部屋だった。

 天井には大きなシャンデリアがあり、掃除が大変そうだなと思わず眺めてしまう。

 出窓にはレースのカーテンがされていて、その窓から見える外は何故か森の入口だった。


 はて?と首を傾げつつ、示された椅子に座った芽依の後ろに立つフェンネルを見上げるとにこりと微笑まれた。


 そうか、座れないのか……


 芽依はアリステアを見ると、頷くので何らかの処置は期待できそうだ。


 さて、目の前に座るのは軍服に身を包んだ3人の男性。

 その真ん中に座る人は明らかに身分の高い人だと思われる。

 飾りボタンに国の印章が入り、そこから鎖が伸びているのだが明らかに残り二人との違いがある。

 1番は軍服の生地だろう。

 上等な物で作られ光沢からして違う。



「はじめまして移民の民のメイ、私はファーリア国第3王子メイナードという。よろしく」


「……………………はじめまして」


 王子が来た、まじか。








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