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第112話 パール公国の賓客 2


 アリステアを待つことなく食事をはじめてしまったパーシヴァルの無作法にシャルドネが眉を寄せていたのだが、そんな事も気にせずハッハッハッ!と笑っている。

 しかし、そんなことより芽依は壁際に立たされる精霊が気になって仕方なかった。

 同じ奴隷の身分なのだ、違うとわかっているがハストゥーレが壁に立たされている気分になる。


 あの子……1人で庭に残されて寂しがってないかな……


 勿論芽依よりも長生きしている人外者の為、1人で留守番になんの問題もないのだが、そんなことより今の可愛く笑うようになってきたハストゥーレが一人でいるという事の方が芽依にはとても重大問題なのだ。


 ソワソワとしだした芽依をメディトークやセルジオ、アリステア達は気付きどうした?と見ていると、自分の懐とリルワーマを気にしている事に気付き、ああ……こいつ自分のハストゥーレ気にしだしてる……と相変わらずな芽依に生暖かい眼差しを向けられた。


「ん?どうした?リルワーマが気になるのか?奴隷と言っても美しい精霊だ。気になるのはまぁ、分かるがな……お前の伴侶はそこの蟻だろう?」


 ワインを片手にクッと笑ったパーシヴァルに芽依の雰囲気が変わった。

 いま、うちの大事なメディさん馬鹿にしなかったか?


「……まあ、蟻で何が悪いんですか?スパダリなこの蟻に貴方が勝てるところあります?庭を完璧に管理出来ますか、美味しいご飯作れます?危ないって分かってて過去に助けに来てくれるんですか?随分横柄ですね、あなた……」


『おし、ストップだ口閉じろ』


 頬に手を当て微笑みながら言うと、後ろから羽交い締めにして口を抑えるメディトークを不満そうに見る。

 しかし、止めたはずのメディトークはなぜか凄くご機嫌だ。


 むっ!として抑えるメディトークの足をパシパシ叩くと、芽依の前に出されたお酒に目が行った。

 ニヤリと笑うセルジオが、飲んだ事の無い酒を差し出した事により芽依はすん……と静まり両手でグラスを持って飲みだす。


 そんな芽依をパーシヴァルは口を開けて見ていた。


「………………お前、本当に移民の民か?」


「ベールでも外します?」


「やめてくださいね」


 クスリと笑うシャルドネによって間髪入れずに止められた芽依は、不機嫌を隠さず頷いてお酒を飲む。

 その視界の端にアリステアを見つけ、芽依は青ざめグラスを口から離した。


「……………………はっ!失礼致しました」


 微笑むアリステアは首を横に振ってやっとグラスに口を付け数口飲み干してからまた芽依を見た。

 アリステアがまったく食事に手をつけてはいなかったのに先に飲んでしまい芽依は恥じた。

 順序としてアリステアが食べてから飲食を開始する為、今の芽依はマナー違反だ。


「大丈夫だメイ、セルジオに酒を進めるように言ったのは私なのだから」


 ふふ……、本当に酒が好きだな、と笑いながら言われてしまい芽依はクッ……と失敗したと一瞬顔を歪ませる。

 他国の賓客を相手に不満をぶちまけてしまったのだ。

 後でアリステア達には十分に謝らなくてはいけない。

 しかし、そう思っている芽依とは裏腹にアリステア達は皆嬉しそうに頬を緩ませている。


「…………なあアリステア、この娘は……」


 薄っすらと瞳に乗せた芽依への好奇心をすぐに見抜いたアリステアは、微笑み用意されているローストビーフを口に入れた。

 蕩けるような柔らかさとソースの旨味に目を細める。

 芽依の庭から手に入れた希少なガガディの子供の肉である。

 ソースはメディトーク自家製で、どちらも丹精込めてメディトークが用意している。

 火入れの具合は、流石アリステアの選んだ料理人と言えて柔らかみと旨味を凝縮させた素晴らしき焼き上がりだ。


 メディトークもそれを皿に取り食べると頷いているのを見て、芽依も食べようとする。

すかさずセルジオが取り寄せてくれていて、スマートに芽依に差し出してくれた。


「…………ほら」


「わぁ、ありがとうございます」


「ミカも食べなさい」


「うん」


 逆側に座るミカもアウローラに取ってもらい、食べている。

 あまりの美味しさに目を輝かせてローストビーフを凝視していた。


 2人の移民の民の様子や、やはり口答えをした芽依をパーシヴァルは興味があるようだ。

 口端を上げて足を組みなおすと、自分の空いている隣を叩いた。


「お前……メイと言ったか、隣に座ることを許す。早くこっちに来い」


「は?………………いえ、結構です」


「なんだ、照れているのか?」


「……………………話が通じない」


「ん?なんだ、それとも俺に手を引いて欲しいのか?ん?」


 流し目で言われてゾワッとした芽依はアリステアを見ると、険しい表情でパーシヴァルを見ている。


「………………殿下」


「ん?なんだ?」


「今回は庭についての懇談会の筈、メイ個人についてはやめて頂きたい」


「………………なんだと?移民の民が俺の言う事を聞かないと言うのか?」


 ピリッとした雰囲気を出すパーシヴァルだが、アリステアは至って通常通りだ。

 不機嫌ではあるが緊張している訳では無い。


「ここは貴方の国ではありませんよパーシヴァル殿下。貴方の物差しで彼女達を好きに扱えると思わないで下さいね?」


 笑って牽制するシャルドネに、パーシヴァルは分かりやすく舌打ちして芽依を見る。


「…………何か聞きたい事があるだろう。答えてやるかわりにお前も応えろ」


「殿下?」


「こんな遠くまで来てやったんだぞ!それくらい良いだろう!」


「………………ねぇ、なんであの人あんなに偉そうなの?」


「ぐっ…………ぐふ……」


 ミカがコソッと聞いた事により、芽依はもぐもぐしていたローストビーフでむせた。

 思わず笑いそうになり、喉が詰まりそうになった芽依をメディトークがヒョイとつまみ上げて、まさかの赤ちゃんのように膝の上にうつ伏せにされ背中を叩かれる。

 軽く鳩尾に足を当てて圧迫するそのやり方は凄まじく正しいのに、今じゃない感が凄いのだ。


「…………メ……メディさん……大丈夫っす」


『落ち着いたか?』


「あい……」


「こちらを少し飲んでください」


 体を動かされメディトークの足に座った芽依に、シャルドネが果実水を渡してくれ、セルジオとアリステアも心配そうに芽依を見ている。


「………………あぁ、びっくりした」


「それはこっちだ」


 はぁ、とため息を付き首を横に震るセルジオにぺこりと頭を下げた。


「………………何を話せばいいんでしたか?」


 はぁ……と息を吐き出し言った芽依。

 なるべく早く終わらせてお留守番中のハストゥーレで癒されたいなぁ……と思い始めた芽依は、いち早く終わる為に話を進めた方がいいと判断する。


 そんな見え透いた芽依の考えなどセルジオにもメディトークにもバレバレだったのろう。

 チラリと芽依を見て余計な事を話すなと言うような顔をしている。


 (大丈夫です、メディさんに確認忘れて居ませんとも)


「………………そうだな、まずは庭の話だったな。お前たちの庭は今何人でどれだけの物を作っている」


 まともな内容になったと芽依が頷くと、ミカが手を上げ聞く。


「え?庭ってなんですか?」


「…………………………わぉ」


 ミカの首を傾げて聞いてくる姿は本当に分かっていなさそうだ。

 思わず全員がアウローラを見ると、うふふと笑っている。


「ほぼ私が1人でやっていますね。ミカに土仕事などさせませんよ?庭は私達2人分の作物くらいかしら、元々の私の仕事は違いますからね」


「では、なぜ庭をしてるんだ」


 パーシヴァルの言葉にアウローラはにっこりと笑みを深めた。


「そんなの決まっています。ミカを囲う場所の確保です」


「………………鳥肌たった」


 その笑顔がさらにぞわりと寒気を呼び、メディトークの黒い足を思わパシパシと叩いた。


「……なら、お前達からは無理だな……メイはどうだ」


「………………」


 芽依はメディトークを見上げ何処まで話すべきかを確認すると、メディトークは眉をひそめて芽依を見る。


 なるほど、控えめな回答ですね、わかります。




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