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第109話 年始の仕事と福袋


「明日は年始の仕事始め前に国からの使者と、他国の賓客が来る」


 今日は三が日の最終日。

 明日は元旦……と言っていいのだろうか、年初めの挨拶とは別の新年を迎え日常を開始する為の祝祭があるようだ。

 その時に国からの使者や他国の方が来られるらしい。


 芽依は昨日ゆっくりと休んではいるが、忙しない数日間に正月気分など味わえる訳もなく。

 今日も朝から少し豪勢な朝食を食べつつそんなアリステアの話を聞いている。


「その時に庭持ちの移民の民とのお話があるんですか?」


「ああ……その事なんだが……ミカの参加を今から取り消せないのだ。先方には既に名を伝えていてな」


「………………おーう」


 かく……と頭を下げる芽依にアリステアと困ったように眉を下げる。


「その事で、メディトークは勿論だがセルジオとシャルドネも同じ室内に待機してもらう事になった」


 それを聞いて芽依は顔を上げてセルジオを見ると頷き、シャルドネを見ると華やかに微笑んでくれた。

 それにほっとして不安そうな顔だった芽依はやっと笑う。


「それは……とても心強いです」


「他国の人に会うのも緊張するだろう?これで少しは安心出来るだろうか」


「心遣い感謝します」


 頭を下げた芽依は良かったとホッとした。

 それと同時に芽依はアリステアに保護されている状態の為、普段のまったり欲望のままに庭を手入れしてメディトークと笑い合うのでは無く、礼儀を重んじた対応をしなければと頷いた。


「何か無作法とかがあったら先に教えて貰いたいです」


 この世界は紛争や国盗りがある世界だ。

 いくら親交のある人達とはいえ、無作法をして相手を怒らせる必要はない。

 色々と配慮して貰っているのだから、芽依も出来ることをしなくては!とやる気を見せる。


 普段まったりと庭での生活を充実させているのだがら、大変な祝祭の準備期間くらい我儘を言わずにいたいのだ。


「いや、私達に対しての対応で十分だ。向こうからの希望だからあまりにも目に余る程なら注意させてもらうが、芽依については大丈夫だろう」


「酒や食事は礼儀として振る舞われるから……お前がっつくなよ。気になるものは後で用意してやるから」


「……………………そんなに食い意地汚くないです」


「………………誰がだ」


 ため息を吐きわざとらしく首を横に振るセルジオにグッ……と言葉を詰まらせる。

 いつもギラギラとした眼差しを酒や料理に向けているのはセルジオだけでなくアリステア達にもバレている。

 苦笑して芽依を見るのはそのせいだろう。


 昨日のリンデリントの事もあり、疲れも取れていない芽依に食料以外にも頼むのはアリステアはどうやら忍びないようだ。

 あのミニチュアを見た後から心境の変化だろうか、アリステアの態度が更に軟化された気がするのだ。


「では、明日よろしく頼む。今日一日はゆっくり休んでくれ」


「あ…………この後は庭に行く予定でして」


「…………今日は休息日だぞ」


「カテリーデンの準備をしようかと……」


「まさか……明日から直ぐにカテリーデンに行く気か!無理やり過去に飛ばされて慣れないお前の体は疲労してるんだぞ!少しは休まないか!!」


「でも!福袋作らないと!!間に合いません!」


 クッ!と目を瞑る芽依が言った聞き慣れない福袋とは一体なんだろうと全員が芽依を見ると、眉を寄せている。


「………………お正月の定番です。種類は色々あるんだけど様々なものを1袋に纏めて安く売るんです」


「まさか……その準備をするのか?」


「今回は3種類のサイズにするので忙しいのですよぉぉ」


 テーブルに両手を付き言う芽依に、眉を寄せて悩むセルジオ。

 そんな2人を見たブランシェットが両手を軽く合わせて朗らかに言った。


「あら、では直ぐに解決なのではなくて?皆でお手伝いをすればよろしいのよ!」


「では、直ぐに準備をしましょうか」


「え?……いえいえ、おやすみ中の皆さんに袋詰めをさせる訳には……」


「…………いいのではないか?なかなかメイとゆっくりする事も出来ないしな」


「えぇ!?」


 まさかのアリステアからOKサインが出たことに芽依は驚き2度見してしまう。

 セルジオはため息を吐き出しながら芽依の頭に手を載せた。


「…………休息日はちゃんと休め、次回からな」


 優しく笑ってくれたセルジオにホッとした芽依は、小さく頷いた。





 食事が終わった芽依は、その場で転移をするらしくセルジオの腕に捕る。

 今日は休みと言うこともあり、オーバーサイズのニットに、チノパンという楽で可愛らしい格好をしていた。

 ニットはアーガイル柄のバイカラーで、ライトベージュと白の鉄板だ。

 可愛らしくフワモコの手触りに、じつは芽依はコソコソ腕をさわさわしている。


「………………撫でるな」


「ばれた!」




 転移は扉での移動とはまた違う感覚があり、扉はただ隣の部屋に移動する瞬間風が少し感じるくらいの微細な変化だ。

 転移は今までメディトークと一緒にしていたが、する人によってその感覚は違うようだ。

 メディトークは下から風が舞い上がる感じだが、セルジオは少しの浮遊間を感じる。

 その為びっくりした芽依は軽く掴んでいた腕にギャ!としがみつき、フワモコニットに頬が当たる。


 幸せなフワモコを堪能する暇もなく一瞬で移動したのだが、室内から室外への移動に体感温度が一気に変わって寒さに震える。

 芽依もフワフワした薄緑と白のワンピースを着ているのだが、下から冷たい風が吹き上がると足が余計に寒いのだ。

 足を擦り合わせて暖を取るため更にセルジオにくっつくと、そんな芽依を見下ろす複数の視線。


『…………何してんだお前』


「メディさん寒い!」


『上着てこいよ』


「はっ!コート忘れた……」


『真冬にどうやったら忘れんだよ』


 ぷるぷるする芽依、いつの間にかしっかり着込んでいるアリステア達はぺったりとセルジオに抱きつく芽依に驚いていた。

 アリステアも仲が良いのは理解していたが、そんな簡単に抱きつける距離感である事とそんな芽依を受け入れ見下ろしているセルジオに驚きを隠せない。


「ご主人様ー!」


「あ、ハス君ンンン!!」


 コートとマフラーを持って走ってくる可愛らしい白の奴隷は頬と鼻を寒さで赤くしながら駆け寄ってくる。


「ありがとう、わざわざ持ってきてくれたの?」


「はい、すぐに温まってください」


 カタカタと震える芽依は差し出されたコートを着て、隣にいたセルジオがマフラーを持ち、お?と眉を上げた。


「……保温魔術か」


「は、はい。ご主人様は冷えていましたので」


「…………はぁぁ、あったかい」


「ほら、マフラーも巻いとけ」


 セルジオがマフラーを広げ芽依の首に巻いてくれると、芽依の首周りも一気に暖かくなった。

 これで作業が出来そうだ。



「…………それで、何をすればいいのだ?」


 モコモコしたアリステアが聞くと、暖かく満足そうな芽依は、はっ!と目を開ける。


「3種類の福袋を作ります。この袋と、こっちとこっち……それを袋別に中身を入れるんです。1番小さな福袋はゼリーやヨーグルト、チーズや牛乳とか野菜じゃない福袋。真ん中の袋は各種肉です。肉。大事なので2回目言います。で、いちばん大きな物は野菜です」


 袋を見せると、3種類のサイズ違いの袋だが、1番大きな物はかなりの大きさだ。

 野菜の嵩張りを考えての事で、かなりの量が入るだろう。


「………………何個作る気だ」


『各種50個だ』


「50…………」


 アリステアがポカンと口を開けると、シャルドネやブランシェットも驚いている。


「お節があっという間に無くなっちゃったので、こちらも50個用意しようかなと思ったんです」


 袋を見せる芽依。

 中身が分からないようにピンクの袋に野菜の絵が描いてある。

 色は様々あるようだが、野菜はロールキャベツの絵、肉は骨付き肉の絵、ヨーグルト等はカップや牛乳、チーズの絵が描いてある。


 それぞれ3つのテーブルが用意されていて、入れる物がテーブルに溢れていた。

 それは今の季節にはありえない大振りなもので、しかめ季節を無視した収穫物もありアリステア達の頬を引き攣らせる。


「……………………なぜ、今これがあるのだ」


 蕗の薹によく似た花のような形の野菜を手に持つアリステア。

 これは咲蜜と言う野菜で、花の部分から茎の部分まで美味しく食べられる野菜なのだが、収穫時期は夏である。

 寒さに弱い野菜で、ほぼ冬での収穫は絶望的。

 そんな咲蜜が箱にゴロゴロと入っているのを見つめるアリステアは、黙って芽依を見ると箱庭から次々と野菜を出し、その隣にシャルドネが見聞している。


「なんでこんなに豊作なのだ」


「………………化け物かアイツ」


 その凄さに気付いていない芽依は保温されたコートで寒さもなく笑顔全開に野菜をシャルドネに見せている。

 その見せているのは収穫の難しい高級食材である。

 それを福袋にゴロゴロ入れようとしてブランシェットに止められていた。


「ダメですか?」


「これは単品売りにしましょう?高いものなのよ」


「高い、んですか…………まだ沢山ありますよ?」


「………………ああ、夢でも見ているのかしら」


「これは…………少しメディトークと相談が増えそうですね」


 ふらりとするブランシェットに苦笑するシャルドネ。

 芽依は何が問題か分からないまま言われるままに福袋の中身を選定しなおす事になった。

 この高級食材などはメディトークにも言ってなかったようで、ノシノシと近付き袋に入れようとしていた芽依の頭を足で挟みまた横に振られている。


『だぁれがこれを入れろっつったよ』


「余らせて腐ったら困るから……」


『…………どれくらいあんだよ』


「………………えへ」


『作りすぎだと何回言やぁ気が済むんだ!この馬鹿野郎が!!』


「ごめんなさい!!」


 叱られている芽依を見て明日の他国との会談が心配になってきたアリステア。

 芽依がどうこうではなく庭の話になりどのような収穫物があるのか話をした時、芽依が目をつけられる可能性があるのだ。


「………………セルジオ、明日なんだが」


「わかっている。よく見ておく」


「よろしく頼む」


 2人が真剣に話している時、パタパタと芽依が高級食材を持ってきた。


「これ、明日使いませんか?」


「…………いいのか?」


「是非」


「では、頂こう……メイありがとう」


「はい」


 にっこり笑った芽依はそそそ……とアリステアの隣に行き箱庭を見せる。

 高級食材のはずの野菜の数に目を見開き、セルジオは頭を指先を当て目を閉じた。


「沢山使ってください……怒られるんで……」







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