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第106話 寿命は力による


 芽依の疑問を拾ったアリステア達は話を一旦止めて芽依の疑問に答えてくれるらしい。

 アリステア達はメディトークから聞いていると思っていたらしく少し驚いた様子で教えてくれるようだ。


 芽依の保護者であるメディトークは話上手の聞き上手であるが、何かを教える事について良く抜けている事があると最近気付き始めている。

 勿論聞いたら丁寧に教えてくれるのだが、芽依の生活に必要な知識から埋めているメディトークは、それ以外どれを教えてどれを教えていないか分からなくなっているらしい。


 そんなメディさんも完璧じゃなくて良いよね、とあまり頭を働かせない芽依は頷くのだが、命の危険に晒される事象に対して忘れたら困ると、最近は対価を必要としない知識の詰め込みをセルジオは画作していたりする。


「そうだな人外者は長寿とされている、決められた寿命という概念は無いのだが特に上位や最上位といった人外者に寿命は無いのではとされているな。数が少なくそもそもの発見数が少ないのだが、知り得る高位の人外者はだいたい生存している」


「むしろ今確認されていない人外者に問題があるのですよね……生態系が崩れる意味で」


 ディメンティール含めて数人の上位以上の存在確認が出来ていない。

 この事により少なくとも多数の問題が発生している。


「中位以下は比較的発生しやすく数も多いです。その為でしょうか死にやすい傾向が有りますが、それでも何も無ければ1000年は軽く生きるのではないでしょうか」


 シャルドネも微笑み教えてくれて、芽依はその途方もない期間に慄いた。

 自分事ではあるが、自分の実際の命の長さなどわからないものだ。


「力が上がったらその分寿命が伸びる。力は寿命と比例しているのだ。我々人間も同じだ。だから王族や領主は様々な人外者から恩恵や庇護を受け長く平和な秩序ある統制をする必要があるのだ……ただ、人外者達にも色々な考えや思惑があり、紛争が起きてこの場を離れたり契約者である人間に失望し離れる場合もある。そうなったら恩恵や庇護は時間をかけ減り力や寿命の変化が起きるのだ」


 この世界は等価交換、その力を預ける事により底上げされた力は寿命にも結びつくようだ。

 ということは、一般的な人間はどうなのだろうか。


「………………そうね、一般的な領民であっても何も庇護や恩恵を授かっていない人はおりませんの。生まれた赤子は誕生の祝福を受けますし、カナンクルのミサのような大々的な祝福を受けますでしょ?人外者から恩恵を受けることも珍しい事ではないのよ。ただ、それが高位である可能性が限りなく低いのですが」


 ということは、少なくとも芽依の知る人間の寿命とは違うのだろう。

 80歳~90歳、時には100歳程の芽依の知る寿命からは遥かに長そうだ。

 現にアリステアの口調では500年前のリンデリントを実際に知っているような口ぶりだったではないか。


「………………長寿、そうなんですね」


「なにを不思議そうにしている、お前もだろう」


「……………………は?」


「移民の民は伴侶の力を半分貰い恩恵を受けている。その時点で伴侶と同じかそれ以下の寿命に伸びているぞ」


「…………………………私、伴侶知りないですけど……」


「…………………………お前の伴侶は本当に誰なんだろうな」


 例えば中位である場合と、高位以上である場合とでその寿命は大きく変わる。

 更に、芽依はセルジオや最近ではニアの恩恵である羽根も持たされている。

 近くにはメディトークがいて、メディトークから恩恵は受けていないが、アリステア経由で庇護は受けている。

 芽依の生存率は分からないが、寿命だけで考えたらかなり長いのではないだろうか。


「……………………えぇ」


「なんだ不満か?」


「私、85歳で大往生な人生設計だった」


「残念だったな」


 ハッと鼻で笑ったセルジオにむむ……と眉を寄せる。

 いきなり寿命が果てしなく長くなると言われても、わぁ!やったー!とはならないだろう。


「…………そろそろ続きを話していいか?」


「あ!すみません!」


「リンデリントの事だが、埃が被っていたと言ってたな。移民狩りが起きた後必ずあるものなのだが、リンデリントの場合は少し他と違っていてな」


「違う……」


 リンデリントは小さな村ではあるが、当時から全国に知れ渡るくらいに有名な木工制作が数多くあった。

 継承者がおらず、現在それを再現する技術がない為、リンデリントで作成された物は今も大切に保管されている。


  だが、リンデリント襲撃から推定ではあるが半日~1日後に盗賊や野党が現れ家屋に残された家具家財、水道やガス関係の物、街中にある物から店のものまで根こそぎ奪われていた。

 その半分ほどは当時のリンデリントの国の王が討伐をさせて貴重な品を丁寧に保管したらしいが、既に破損されていて水道やガス等使用出来るものは数個しかないようだ。


 リンデリント襲撃から無人の状態は半日から1日にかけて。

 その間に落ちた芽依はある意味奇跡だったのだ。


「他の移民狩りよりも不明点が多く目撃情報がない。そして工芸品を含むこの職人の作る作品にはある種の祝福が付与されるため貴重品なのだ。だから、今でもあの時の情報を集める者は多い。情報提供に協力して欲しい」


 頭を下げるアリステアに芽依はにっこりと笑った。


「理由はわかりました。私自身分からないことの方が多い為満足のいく回答が出来るかわかりませんが……」


「ああ、ありがとう……これで不明点の多い死の村と呼ばれたリンデリントの情報がわかればいいのだが」


 ふっ……と笑ったアリステアの質問はそれほど難しいものでは無かった。

 当時の様子や、時間、空の色など体感出来るものから、誰かいたか、死体はあったか等の現場検証なども含まれる。


「……………………そうか、芽依が見た時にはほぼ家屋は崩れ瓦礫の状態だったのだな」


「小さな村だったのでほぼ全部見ましたが、どの家も屋根や壁などが崩れて修復は難しそうな様子でした。家の中も5センチから10センチ程の埃が被っていましたね……食事の準備がされた食器などが各ご家庭にありましたが、全て埃が被っていたのでかなりの年月が過ぎているのかと思ったのですが…………そうか、半日から1日だったんだ」


 感慨深く呟くと、全員が微妙な顔をしながら飲み物を飲んでみたり身だしなみを少し整えたりと感傷気味であった。

 もしかしたら、長生きのアリステア達には馴染みの職人がいたのかもしれない。


「家屋については修復は不可能だった、作れる職人が1人も残って居なかったからな。残念だが、まるで違う製法で作られた家屋を残す事は出来なかった」


「あの家屋は特殊なのですよね、魔術を掛けずとも保温や冷却、香の魔術と同等の効果を現れるのです。その分脆く強化をかけても破損しやすかったので村以外では建築が出来ず……今では幻となってしまいましたわ」


「そういえば、国の調査兵団がリンデリントに向かった時、不自然に村長の自宅だけが無くなっていたのが当時から疑問視されてきましたが、貴方がリンデリントに落ちた時は村長の自宅はどうでしたか?」


 芽依は数秒思考を停止した。

 それは、芽依とにあが会話をした場所で気に入ったと話した家ではないだろうか。

 そして、昨日渡された村長宅そっくりのミニチュアを今の話を聞いてどう判断するべきだろうか。

 ニアはメディトークにでも渡してと話していたが……。


 明らかに汗をかき出した芽依を見てセルジオは眉を跳ね上げさせる。

 何か隠しているな、と確信したのだろう。


「……………………メイ?」


 低く甘い声が響き芽依を呼ぶ。

 ビクンと反応した芽依はセルジオを見てからへらりと笑ってみたが誤魔化せる雰囲気でも無さそうだ。


「………………リンデリントで少年と会った時、座って話せる様にと村長さんの家に入りました」


「…………埃があっただろう」


「少年が片付けてくれました」


「アイツが……?そうか」


 悩む素振りを見せたセルジオに芽依はセルジオをじっと見ると、疑問に答えてくれる。


「あの埃には魔術を少しずつ剥がす作用があるからある程度の力がある人間や人外者以外処理が出来ないんだ。それを出来るという事は、それなりの実力者という訳だ…………所でなんの話しをした?」


「…………えーっと、いきなり現れたから誰?って話になって私が一方的に知っていたから未来から来たのかも?って話になりました」


「それだけか?」


「……そう、ですね」


「腕はどうした、切られていただろう」


「 ……村にいきなり現れたから不審者だと思われました。移民の民だとわかってそれは解決しました」


 セルジオは芽依の腕を掴み自分に引き寄せた。

 耳元に顔を寄せて囁いてくる為、息が耳に掛かり体がビクリと跳ねる。


「…………喰われてないだろうな」


「た……たぶん?」


 舐められた事は言わないでおこうと胸の中にしまい込み頷くと怪訝な眼差しで見られたが、むしろそんなセルジオにアリステアは首を傾げる。

 人間と人外者の隔たりを此処で感じ、遥か昔から恩恵や庇護を与える相手であっても言えない内容があるのだと、改めてこの世界の不思議に触れる。

 個人的な感情で伝えていい事では無いのだろう。


「………………特別な話はしなかったです。私が帰るまで一緒に居てくれただけです」


 過去のニアが芽依を殺そうとした事、それを未来のニアに託し芽依の運命を分けた事をこの日芽依は決して話はしなかった。














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