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第104話 死の村 リンデリント


 今から500年前、リンデリントという村があった。

 その村は小さいながらも木材加工に特化した職人が多く住む村で、全国からその木材加工を学びたい人や商人が忙しなく出入りする豊かで賑やかな村だった。

 大きな国の中の一つの村で、その木材加工も国を繁栄させる一つの材料でもある。

 それくらいとても細やかで繊細な匠の技を皆に売るのだ。

 主に家財1式、食器から家具に至るまで。

 更には水回りや、ガスを使うコンロまで特殊加工された木材で作られそれの出来は本当に素晴らしいものだ。

 王家に献上品として出すことも良くあったという。


「………………なあ聞いたか?」


「なんだ?」 


「移民の民が無差別に殺されてるって話」


「ああ!!聞いた聞いた!多分人外者だよな……」


 同じ工房で働く2人の男が木を削りながら話をする。


「すでに全国に多発してるらしいじゃねぇか。」


「犯人は誰なんだ?」


「そんなん知らねぇよ!」


「だよなぁ」


 最近巷を賑わすのは全国的に増えだした移民の民を殺す誰か。

 場所は関係なく、移民の民を場合によっては伴侶である人外者も殺して歩いているから、多分人外者の犯行だろうと思われてきた。

 何かの仕事の一環なのか、それともただの憂さ晴らしか気分で殺しているのかわからないが、人外者がする事だからと納得する者も多い。


 しかし、それだけでないのが今回の事件だ。

 無差別に行われるこの移民の民狩りは周りに被害が出ているのだ。

 巨大都市では街の3分の1が吹き飛んだり、移民の民の周囲にいた領主すら殺される事もある。


 ここリンデリントでは、木工職人を増やす為に周りから見習いや新人を多く受け持ち、村が狭くなって来ていた。

 そろそろ増築が必要だと国に申請を出しているのだが、その見習いの中には国から派遣された移民の民も多くいるのだ。

 この国は他の国より多く移民の民を呼ぶ人外者がいて、その人外者と保護された移民の民はこの木材加工を選ぶ人が多い。

 精密で美しい木材加工に惹かれる人が多くいたからだ。


 しかし、逆を言えば移民の民を多く囲いこんだ戦力の欠けらも無いこの村は格好の餌食だったのだ。



「………………ここだろうか」


 肩まで切りそろえた真っ白な髪に淡い色使いの花が描かれている背の高い男性。

 キラキラと輝く羽を閃かせてこの村にやってきた。

 あまりにもこの村に不釣り合いな美しい姿にその人外者を見た村の人は生気が抜かれたように動きを止めた。

 しかし、その美しさには残忍な影を落としていて、光のない瞳で周りを見ている。


「…………綺麗な妖精さんどうしたの?どんなご用事?」


 まだ8歳くらいだろうか、女の子がその妖精に話しかけると、その妖精はしゃがみこみ女の子と目を合わせた。


「…………綺麗な木工加工だから、買いに来たんだ。売ってる場所を教えてくれるかな?」


 首を傾げる妖精は、その動きに合わせて髪が揺れ綺麗な花が形を崩す。


「うん!いいよ!!」


 女の子に案内されて行ったのはこの村で1番大きな店だった。

 場所を区切り作者別にして展示販売をしているのだ。

 ここで見て、大きな物やオーダーメイドを頼むことも可能である。

 妖精は、その商品をちらりと見るだけで店員を眺めた。

 場違いな程に美しいその妖精は目立っていて、店まで来る間にも噂をされて店に来る村人も多くいる。

 その人達も一緒に確認していく妖精、一体何を探しているのだろう?と不審がっている時妖精は口を開いた。


「…………………………君の伴侶は……冬牡丹?」


「はい………………!……え?冬牡丹?」


 ポワンと妖精を見ていた移民の民が真っ赤な顔で反射的に返事を返した。

 その瞬間、妖精は一瞬でその移民の民の首を跳ねる。

 店内に飾られる木工作品や店員、見に来ていた村人に返り血がかかり、静まり返ったこの場が阿鼻叫喚に変わる。


「うわぁぁぁぁぁ!!リンカァァァ!!」


 精霊が走り寄り、移民の民を抱き上げるのを見て妖精は呟く。


「………………なんだ、違うのかぁ」


 駆け寄った人外者を見ても、妖精の表情は一切変わらない。

 この場にもう移民の民はいないと判断した妖精は入口を塞ぐ村人を一閃して場所を開けさせ歩いていった。

 返り血すら浴びない美しい妖精は風を受けながら周りを見る。


「………………ここは移民の民が多いんだね……当たりかな、いるかなぁ…………冬牡丹を裏切ったあの子。あの子を連れ出した人間……みぃんな、死んじゃえばいいのに」


 あは……と狂ったように笑ったその妖精の守護結界により村人や商人はこの村から出れない状況だった。

 小さな村とはいえ、丸ごと閉じ込める魔術にその後戦闘をする為の力も残すこの妖精は紛れもなく強かった。

 ゆらりゆらりと歩き、ふわりと散る花が妖精から降る。

 地面に着く瞬間に溶けて消えるその様子を見た人外者が目を見開いた。


「………………まさか、花雪の妖精か?」


「…………………………………………今は違うよ」


 歪んだ笑みを浮かべて笑うその妖精ははるか昔からいる穏やかな妖精で、雪の中に咲く美しい花から生まれた妖精だった。

 美しさと優しさに全振りしたようなその妖精が狂ったように笑い殺していく姿を、この村にいる人外者は信じられないと見つめていた。


 なによりも優しい妖精だったのだ。

 そこらへんに咲く雑草が踏み潰されているのを見てハラハラと涙を流す、そんな心の綺麗な妖精だったのだ。

 花雪の妖精を直接知らない人間だって、その優しい存在を知る人は多い。

 だからこそ、こんな無差別に殺していく花雪に人外者や村人が酷く驚いたのだ。


「…………まさか、信じられない」


 移民の民を狙い、それを防ごうとする伴侶は村人を見ていたが花雪の心は動かなかった。

 いちいち聞いて回ったのだ。

 冬牡丹の伴侶か、相手を愛しているのか。

 そのどんな言葉もどんな返事も花雪の正解ではなかったようでみな等しく殺されていく。

 美しい家屋も壊され、隠れた移民の民を引きずり出しまるで見世物のように次々と殺された。

 ほとんどの家を確認した花雪は、昼時もあり湯気のたつ料理が並んでいた。

 これから食事なのだろう、普段は笑って食卓を囲むはずのこの場所に人が座ることはもうない。


 逃げようとする移民の民、守る伴侶や村を守ろうと武器を持つ村人に逃げたい商人。

 そんな人たちを花雪は冷たい眼差しで、しかし笑って見ているのだ。


 こうして、小さな村の中に沢山の人を抱え込み伝統芸術を作り続けたリンデリントは村ごと消失する事になる。

 誰も残らなかった。

 小さな子供1人だって、死にたくないと叫んだ移民の民も誰1人生き残らなかった。

 まるで灰でも降っているかのようなサラサラとした瓦礫が室内に積もりまるで埃のよう。

 全ての建物は崩れているのに、世界に知らしめた伝統芸術である家財などは美しく残されていた。


 その木工作品は今も市場に高値で売られ大事に扱われている。

 国管理のものが多く、市場に流れるコップ1つが高価なものとして取引されるのだ。

 それも、年々減少していて希少価値は上がるばかりだ。


 花雪は、誰も居なくなった村を眺めてから身体中から花を散らした。

 すると、髪に付着されていた花は消え失せ肩までの髪を手で払う。

 そして、静かに村を離れた。


「………………探し出してまだ半年……早く見つからないかなぁ」




 村が無くなって半日、少年ことニアが村に来た時にはすでに死体すらない無人の村となっていた。

 埃のような瓦礫が室内にあり、冷めた食事がさらに時間を経過しているように感じるが、まだ半日なのだ。


「………………間に合わなかった。今回は村ごとかぁ」


 ニアは瓦礫に片足を上げて呟くと、無人だったはずの家屋が開く音がして振り向く。

 そこには1人の移民の民がいた。


「で、お姉さんはだれ?どうしてこんな死の村なんかに居るの?」


 こんな形で出会う事に後々ニアも芽依も、そして花雪も驚愕する事になる。










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