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第98話 閑話 クリスマスショートストーリー


こちらはクリスマス用の特別ショートストーリーとなります。






 この世界のクリスマスはカナンクルという。

 一年に一回……正確には前夜を含めた2回の等価交換を必要としない日であって、愛情や幸福といった恩恵や祝福を受けやすい日である。


 そんな1日を芽依は忙しなく過ごしていた。

 カテリーデンでの販売やミサなど予定は盛り沢山で、さらにプレゼントとして用意した様々なケーキなど。

 自分で決めて用意し、さらにアリステアやセルジオ達4人分はケーキキットを買って手作りするやり込みぶりである。


「そうだ、フェンネルさんや少年には会えるかな……あの2人意外と出没してくれるから会えそうだよね……やっぱりケーキだよね。少年にぶどうのケーキは外せないし」


 ブツブツと何かを言いながらぶどうのケーキを紙にデザイン。

 そしてワクワクと2人分のケーキを作り満足して就寝した。

 明日はいい日になりますように。


 そうして布団に潜った芽依。

 うとうとしだしてもう深い眠りにつく、そう思った瞬間芽依は飛び起きた。


「………………やっば……メディさんの……用意してない」


 ヘルキャットの分すら用意したのに、1番お世話になっているメディトークへのプレゼントが何も無い。

 芽依は愕然と目を見開いた。

 暗がりの中、目を見開いた真っ白なワンピースのパジャマを着た女性。ホラーか。


「……………………え、ヤバい。一緒に準備してたからバレないようにって後回しにしてたのがアダになった……メディさんにはケーキだけじゃなくて何か別にプレゼントしようとしてたのに……」


 そうして芽依がとった行動は振り切っていた。

 目を見開いたまま、秘蔵の酒をしまっている棚をゆっくりと見る。

 そして、モコモコのスリッパに素足を差し込み立ち上がった芽依は、中から高級な酒1本出した。

 ゴロンとしたシルエットのワインレッドのボトルはつや消しされていて、高級感がある。

 金と銀のラベルに墨で書いたような黒々とした達筆な字で龍と1文字かかれている。

 カテリーデンで以前試供品でもらった酒があまりにも美味しく、メディトークにバレないように5本買い箱庭に突っ込んだのだ。

 この時試食提供を初めて皆が真似してくれた事を物凄く感謝した出来事の一つだ。


「………………これをこうして、こうしてやって……」


 へへ……と笑った芽依は、ラッピングしたそれを箱庭にしまってニヤニヤとしながら眠りについたのだった。



 そして、カナンクル前夜。

 カテリーデンが終わり、帰宅した芽依は本日と明日限定で売られるリーグレアを大量購入してホクホクとしていた。

 たとえメディトークに買いすぎだと怒られても、自重しない!とドヤ顔で言い切った芽依にメディトークが呆れていたが、それが私ですからと胸を張るしかない。



『…………そんなに買って飲みきれんのかぁ?』


「その心配はいらないくらい綺麗に飲みきる自信があるけど……メディさん一緒にのもうよ」 


『………………まぁ、いいけどよ』


「偶然にもフェンネルさんのくれたリーグレアとかぶったりしてなかったし……はっ!これが幸運の恩恵か!」


『なわけあるか』


 眠るフェンネルが床にゴロリと転がり美しい髪が畳に散らばっている。

 既に落ちたフェンネルはむにゃむにゃと口を動かしていて、それすらこの美貌のアクセントにしかならないのだから堪らないものだ。

 顔にかかる髪を避けてあげて、箱庭から蟻さんの人形を出しフェンネルの胸元に置くとそれをギュッと抱きしめ、芽依は呼吸困難になるくらい笑った。


『……お前、なんでそんなん持ってるんだよ』


「メディさんにそっくりだったから……即決……して、買ったぶふっ!」


『………………笑ってやるなよ』


「いやもう!可愛すぎでしょ!」


『お前なぁ……』


 ぐっふぅ……と笑う芽依を小突くメディトーク。

 しかし、黒光りする逞しい足から繰り出される小突きは小突きではなく、ばたん!と畳に倒れた。


『……あ?大丈夫か?』


「も、問題なし!」


『鼻血出して問題なしもねぇだろ!早く拭け!起きる前に!』


「………………あい」


 ティッシュを顔を押し付けられ芽依は大人しく鼻を抑える。

 ものの数秒で止まった鼻血にため息を吐き出してから、箱庭から出したのはあの酒だ。


「………………メディさん、はいプレゼント」


『あ?もうケーキ貰ったぞ…………こりゃ、お前……いつの間に買いやがった』


 ジロリと見られたがあはは、と笑って誤魔化した芽依はコップを差し出す。

 ガラスを削って花の模様が入ったコップで、飲み物を注ぐと花が開くのだ。

 可愛らしいコップはメディトークが用意していて、このイケ蟻センスも抜群かと慄いたものだ。


「ほら!1杯いこう!」


『……せっかく貰ったしな』


「………………よしよし」


 瓶をメディトークから奪い取り、見られないようにサッと開けた芽依はすぐさまグラスに半分くらい注いだ。

 芳醇な香が漂い度数の高い酒が入ったクラスは淡く青に染まり花がゆっくりと開いていった。


 美しいグラスを持ったメディトークはゆっくりとグラスを回して香りを楽しんでから口に入れた。


「………………どう?」


『……美味いな……なんだクセになる……こんな味だったか……?』


「芽依ちゃん特性のおーさーけー」


『…………………………お前、まさか』


「…………ちょっと入りすぎちゃったんだけど。寝ぼけてたから」


『テメェ!血入れやがったな!!何考えてやがる!!酔ってやがんのか!!』


「喜ばれなかった!」


「血!?メイちゃんの!?」


『テメェは寝てろ!!』


「がふぅぅ」


「わあぁぁ!フェンネルさぁん!!」


 芽依の血に反応してムクっ!と起き上がったフェンネルの頭をメディトークがガスっ!と畳に埋め意識を飛ばした。

 わぁ!!と叫んだ芽依を引っ張り膝を付き合わさせてお説教が開始する。

 巨大なメディトークを前に座る芽依は米粒くらいな小ささだろう。

 延々と怒られる芽依は次第に足が痺れるが少し足を崩そうとでもしたら、怒りの蟻の睨みが炸裂してくる。

 ひぃ!!と背筋を伸ばして座り直しお説教は続行。

 フェンネルが起きた1時間後まで地獄の説教は続くのだった。



「…………………………ごめんなさい、ちょっとのスパイス感覚で……」


『スパイスで血ィ混ぜんじゃねぇ!喰われたいのかテメェ!!』


「ごめんなさいぃ!!」



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