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第86話 約束の大切さ


「約束は勿論守るもので、それは大前提なんですけど皆さんが言う約束はほぼ契約みたいな物じゃないですか。ほぼ、というか契約ですよね。あの年頃の子はそんな重い契約を結ぶ機会は無くて、約束って言ったら明日遊ぼう、いいよー。ごめん、体調悪くなったわまた今度、わかったよー。くらいの軽いものなんですよ」


「……………………」


「それに、あの年齢で結婚ってあんまり考えません。遊び優先、彼氏優先。勿論学業も優先」


「そんな、あっさりしているものなのか」


「そうですね、大事な事は社会に出て仕事をして初めて知ることの方が多いです。約束や契約の重さや、それの向き合い方は客観的に見てあの子よりユキヒラさんの方が紳士的に対応してるのが、社会に出ている大人としての対応を知っているからじゃないですかね。後は伴侶への配慮や大切に思う気持ちの差でしょうか」


 芽依の無表情に全員が顔を見合わせる。

 ちょっと俯きがちに話す芽依の肩にセルジオは優しく触れて視線を向けさせると、ヘラリと笑った。


「あと、伴侶としてあの妖精?精霊?」


「精霊だな」


「ん、精霊さんを見ていないし、あの子ノーマルっぽいからまず恋愛対象で見れないんじゃないですか?」


「それ、それなのよ。なぜ伴侶として見れないというアウローラと契約をしたのかしら」


「メディさんやブランシェットさんには話してるんですけど、私達の恋愛対象は基本的に異性です。だから、あの精霊さんを伴侶として契約したんじゃなくて、あの子別の理由があって契約したんじゃないですか?……あ」


「ん?どうした?」


 芽依は1つ気付いたことがあった。

 斜め下を見て何かを考えている様子の芽依を全員が見ているが、芽依はあえてそちらを見なかった。

 嫌な事が頭に浮かんだのだ。

 以前、移民の民の話を聞いた時に言っていたではないか。


「………………聞きたいこと、いいですか?」


「ああ、なんだ?」


「花嫁、または花婿を見つけて契約を持ちかけた時、断られたらどうなります?」


「諦める者もいるが、基本的にはどうにか頷かせるヤツらが多いな。最初はお前達の意志を汲むようにみせて契約をしてしまう」


 当然の様に言うセルジオに芽依はテーブルに額を打ち付けた。

 この領内にいる17組の移民の民とその伴侶。

 その中の8組が同性だった。

 この世界では契約の上で成り立っていて、その契約内容を芽依は知らないが、伴侶として了承するかわりに何かを求めたのではないか。

 17人中8組の同性婚は多い気がしたのだ。


「…………………………あああぁぁぁ、もう何だかめんどくさくなってきた」


「お、おい?」


 額をテーブルに打ち付けたので、セルジオが芽依の顔を除き込み額の確認をしようとした時、ガバリと顔を上げた。

 少し俯き気味に芽依は大きく息を吸う。


「最初に会った時、1番大事な伴侶になる契約をもちかけられて、これを拒否されたとしてもほぼ強制的に契約させられてこちらの世界に連れてこられる。それは同性を自分の恋愛対象として見れなくても関係なくて……で、たぶん、その契約の対価として何かを願ったかしたんじゃないのですかね。でも、伴侶となる人外者はこの契約で、自分は愛する花嫁もしくは花婿を手に入れたと思って他との接触は完全拒否……ハッキリ言って、クソ野郎です。そもそも拒否権がない状態で伴侶として契約したのにもクソもないですよ」


「……………………メ、メイ?」


「今居る同性の伴侶といる移民の民のどれだけの人が恋愛対象として相手を好きでこちらに来たのか……全員じゃないと思いますよ。そもそも、出会った瞬間から生涯寄り添う約束を短時間にして世界を物理的に飛び越えてくる決断を簡単に決めれるわけが無いじゃないですか」


 マシンガンのように誰の言葉も挟ませずに言う芽依に、最初は何を言っているんだ?と全員が困惑した。

 しかし、その内容がほぼ無理やり連れて来られて好きな事を抑制されているという内容に顔を青ざめさせる。


「この世界の人にとって当たり前に行われていた花嫁花婿探しですけど、私達にしては拒否権なしの拉致と捉えられても仕方ない事してますよ。私の場合は違いますけど、せめて今居る移民の民の人達のフォローは手厚くした方がいいと思う。そりゃ伴侶の話を聞きたくない人も居るだろうし、相手を好きになれないから離れたい離婚したい、って思う人も居るんじゃないですか?」


 はぁ、と息を吐き出して言う芽依の言葉をアリステアは考え込み、セルジオは黙って芽依を見つめている。

 シャルドネも何かを考える様子があるし、ブランシェットは更に顔色を変えた。


「…………では、伴侶となった後に愛を育む事は難しいのかしら」


「それ、前も言ってましたよね。私達の場合逆なんですよ」


「逆?」


「恋を知って相手と気持ちを通わせ、愛に変わってから人生を寄り添う約束をして結婚するんです。一目惚れしました、結婚しましょうではないんですよ。結婚までにお互いを知る時間を大切に使うんです。相手を知って生涯寄り添えるとお互いが認識して初めて結婚するんです。それまでの時間の中でお別れする場合も、性格や様々な要因で結婚後も離婚する夫婦だっていますけどね」


「……………………………………信じられん」


 セルジオがポツリと呟いた。

 芽依は黙ってセルジオを見ると考え込んでいる様子で、この世界での結婚観があまりにも掛け離れている事を理解する必要がありそうだ。


「私達とは余り変わらないのだな……そうか、そうだったのか」


 アリステアは頷き理解したと呟く。

 そして顔を上げて話し出した。


 この世界での人間の結婚の仕方は芽依と変わらないようだ。

 恋愛をして後に結婚。政略結婚もある。

 時には離婚する場合もあるが、基本的には添い遂げる芽依達と大差ないようだ。

 しかし、人外者はこれに当てはまらない。

 人外者にはそれぞれ惹かれ合う何かがあるらしい。

 それは1目見ればわかるもので、初対面で結婚を決めるのも少なくないのだとか。

 現にブランシェットとセイシルリードもそうやって結婚し、その後愛を深めていったという。

 ただ単に恋愛ごっこをしたい人や、体を重ねたいという利害の一致で寄り添う場合もあるが、じきに解消するため結婚までには至らない。

 子をなす必要が有るのと無いのとの差が、人外者に必ずしも結婚をしなくてはいけないという概念を薄くさせてるのかもしれない。

 しかし、移民の民を伴侶にしたい人外者は一定数いて、そんな者達が世界を覗き込み惹かれる相手を見つけた時どうしても連れ帰り伴侶としたい欲が溢れ出すのだと言う。


「…………綺麗な人外者に惹かれて頷く人も居そうだから全員が全員後悔はしてないと思います、ユキヒラさんみたいなお互い一目惚れなケースもあるだろうし。でも、もう少し話を聞いてどういう経緯でとか調べた方がいいかもしれないですよ。私達には一目で生涯寄り添う人を見抜ける目は持ってませんから、不安な人きっといると思う」


「ああ、わかった。いつも知りえない移民の民の情報や心情を教えてくれてありがとう、助かる」


「いいですよ、同郷の人が過ごしやすい方がいいですから」 


「…………では、あの1番新しい花嫁もアウローラを伴侶としてでは無く、そんな気持ちもない状態でこちらに来たと言うことかしら」


「あの子じゃないのでわかりませんが、おそらく」


「……………………そう、でもそれは困ったわね……」


「そうですね、これでは契約違反となります。この事については我々の保護も関与しない範囲となりますから彼女に何かあってもこちらではどうする事もできませんね」


「…………え?なに?」


 ブランシェットとシャルドネが話し出した事に芽依は首を傾げる。

 この契約には芽依も驚く違反者への処罰が設けられていたのだった。


「契約違反については、伴侶が移民の民への不当な対応を許可する事となっている」


「不当な対応……?」


「……………………喰うんだ、移民の民を」


 ガタン!と音を立てて立ち上がる芽依をセルジオは静かに見上げている。


「移民の民を相手にした伴侶となる契約は、自分の半分を相手にやる契約でもある。その契約は魂に刻まれ多少体の内部を書き換え、あちらとこちらを繋ぐ扉を通れる体にかわる。それは俺たちにとっても軽々しくしてはいけない約束で契約だ。それを反故にするなら、与えた半身を取り返さなくては駄目なんだ」


「……………………そんな」


「確かにお前達の話をあまり聞かず契約したアウローラや他の人外者が悪いんだろうがな、こちらとしてもその恩恵を相手に渡してきた。そして、契約は魂に紐付けられているから簡単に切る事も出来ないんだ。契約を解除する事は出来ず相手の魂ごと飲み込み力を取り戻すしかなくなる」


 セルジオのここで言う喰うとは、味わい力を上げるためではなく、己の力を取り戻す為の行為で力が上がることはないそうだ。

 単純にイメージとして髪からつま先まで丸呑みをする感じらしい。



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