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第82話 奴隷として生まれたから


 ハストゥーレは奴隷の両親によって生まれた、生まれながらの奴隷である。

 人間として生まれたハストゥーレは、同じく奴隷として住む場所で自然派生した生まれながらの奴隷の羽を喰わされ、無理やり森の妖精に作り替えられた変異妖精である。

 首には白く輝く奴隷紋があり、奴隷の位の中でも最上位を表す。

 この最上位クラスは簡単に出来るものではなく厳選された1部のみに許されるものだった。

 白は自然に出来るものでは無い、白は作り出される物。

 その見た目や能力が高く、理想の奴隷として教育を受け白のレベルに到達した者のみに与えられる称号のようなもの。

 全ては奴隷商の金儲けと、客の見栄の為の存在である。

 奴隷育成に金はなるべく掛けたくない、しかし育成にはなるべく小さな時からしたい。

 ならばと、拒否権のない奴隷達から子を産ませ後に白の奴隷紋を頂く子の育成に乗り出したのだ。

 勿論奴隷が簡単に自分の意思で子を産むことは禁じられていて、乱暴されたり相手がご主人様の場合もあるが、それは白の奴隷紋にはならない。


 当時から品質の良い奴隷を買いたい客は五万といたのだが、元は一般人である。

 あくまで奴隷紋によって無理矢理否定できない状態にされているだけで、心から服従している人などいないだろう。

 だからこそ、客に寄り添いその希望を要求する代わりに、新しく作りあげた新種の奴隷、白の奴隷紋が誕生し高い金銭で販売された。


 一般から落ちて奴隷となるには大きくわけて労働奴隷、犯罪奴隷、そして性奴隷がある。

 この振り分けには犯した罪によって決められるのだが、多くは労働奴隷として主人となる人の仕事を手伝ったり肉体労働をする事が多い。

 1番多く振り分けられるのは、通常生活している領民が些細な事で奴隷落ちする場合、此処に含まれていて、主に金銭トラブルや度重なる店などへの迷惑行為。

 そして、人外者の村や街ごと襲撃され奴隷に落とされる場合もここに入る。

 ハストゥーレの両親も、この労働奴隷だった。


 犯罪奴隷は殺人や暴力といった奴隷になってからも取り扱いに注意が必要な奴隷は契約時に注意喚起される。

 あまりに危険視される場合は、奴隷紋に様々な制約を施され主人に危害を加えられないようにしているが、主人の家族や他人は含まれていないので、追加金を出す事で範囲を広げられるよう工夫がされていた。

 性奴隷は、元々花街で暮らす女性が多い。

その他、お金が足りず奴隷として売りに来た人が労働奴隷より価格の高い性奴隷として売り出される場合。また、見てくれの良い女性は店側から打診を受ける場合もある。

 奴隷はその犯罪歴によって刑期があり、それを過ぎると一般人に戻る事が出来るのだが、店側からの希望で労働奴隷から性奴隷になる場合は刑期を短くしてもらえる措置がある為悩む女性も多いらしい。


 この様に奴隷は種類別され、位分けされる。


犯罪奴隷は黒

性奴隷は赤

労働奴隷は下から黄色、緑、橙、灰、白。


 これが首に輝く奴隷紋の識別になるのだ。


 そんな周りに奴隷がいて、生まれながらに奴隷商の商品として育つ白にはあまり自我が芽生えない。

 主人に従順に言われた事に対し微笑んで是と答える存在でなければならないからだ。

 なにより他と違うのは、周りの奴隷に刑期があるのに対し白の奴隷に刑期は存在しない。一生奴隷なのだ。

 品質良く一生働く白の奴隷は高値で売れる。

 だからこそ、沢山存在する奴隷商は白を少しでも多く作るのだ。

 一生物の白の奴隷、それは一攫千金と変わらない。



「だから、メディさんこれから欲しいの沢山出てきて買うのが増えたら足りなくなるよ」


『ならその時言えば良いだろうが』


「ハストゥーレさんは言えないに1票」


『…………まあ、わからねぇでもないがな』


 自分は道具で、主人に不況を買うような馬鹿な事はするなと幼い頃から教えられてきたハストゥーレは、この状況に困惑していた。

 自分の主人とその同業者が自分に対して支払う賃金の金額について熱く答弁している。

 生まれた時から奴隷として、商品として生活してきたハストゥーレに自分の欲しい物など無く、勿論贅沢などもしたことが無い。


 ハストゥーレは、話し込む2人に気付かれないように自分の手を見つめた。

 あの時、手袋で包まれた小さな手がハストゥーレの大きな手をなんの迷いも無く握り締めた。

 そのまま引っ張りメディトークの後を追う主人に着いていくのだが、生まれてこの方誰かに手を繋がれることも手を引かれることも初めてでかなり動揺したのだ。

 無表情を維持するのは主人の不況を買わないため、笑うのは返事をする時のみ。

 なのに、あの時笑いそうになった。

 ギュッと力を込め表情筋に笑うなと叱咤する。


 自分は主人の物なのだがら、笑う必要はない。

 また、あの温かな手で包んで欲しいなど身の程を弁えない考えなどあってはならない。

 ギュッと手を握りこむと、その上に小さな手が乗せられた。


「どうした?具合悪い?大丈夫?」


『なんだ、どうした?』


 2人の心配そうな眼差しが向けられる。

 覗き込むように見られ思わず背をそらすが2人は構わずハストゥーレを見ている。


「…………なんでも、ありません」


「本当?なんかあったら言ってね」


『無理すんじゃねーぞ』


 ここは今まで感じた事が無いくらいに生温くハストゥーレの心を優しく撫でた。

 奴隷として生まれたハストゥーレの、初めて感じた違和感の名前はまだ知らない。


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