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第81話 怒りのメディさんと庭経営の相談


 まるで地震が来ているかのような、ゴゴゴゴ……と音がなりそうなイメージのメディトーク。

 腰に腕をおき仁王立ちするメディトークの前に土下座する芽依と一緒に座るハストゥーレ。


『……で?』


 その一言が怒り狂ってるとよく分かる。

 あまり見られない、というかありえない伴侶以外の幻獣に頭を下げる花嫁。

 その姿に正座をしているハストゥーレは呆然と芽依を見下ろしていた。


「はっ……この庭から1年に1回食材提供をする代わりにハストゥーレさんがお家にやってきました!」


「対価で奴隷を寄越したか……しかし、お前を手放すとはな」


 移動先に必ず連れて行くほど信頼されていたハストゥーレ。

 しかし、奴隷とはこうもあっさり切り捨てられる存在なのだと改めて理解した芽依。


『今回は領主が入っていて決め兼ねるのはわかるがな、できるだけ相談、確認をしろ』


「あい」


『ちゃんと分かってんのか、脳みそ入ってんのかコラ』


「あっ……頭揺らさないで」


 2本の足で潰さないように優しく芽依の頭を挟み左右に揺らす。

 優しくしてはいるが、そこは大きさの差もあるのだ。ブンブンとゆれている。


「………………」


 今まで奴隷は自ら発言権はあまり用いていない。

 あの領主館での会話は最低限ギルベルトから許可されていたものだが、新しく主人となった芽依からの許可がない為ハストゥーレは驚き色々聞きたいところだがそれも許可を待つ必要があった。


『まあよ、奴隷の受け入れはわかったが、どう扱うんだ?庭の手伝いか?』


 すでに何か考えているんだろうなとメディトークは扱いについて聞くと、ぱっ!と笑みを浮かべて足を崩した。


「あ、それなんだけどね、とりあえずハストゥーレさんとの契約内容をちょっと弄った。えっと、基本的には普通の雇用形態にしようと思って。自分の意志尊重、意見や提案大歓迎。働いた分の賃金を渡すんだけどどれくらいが丁度いい金額か分からないからそれは応相談。メディさんと」


『俺とかよ。しかし、思い切ったことしやがったな。破格の待遇じゃねぇか』


「職場環境はより良い方がいいに決まっているからね!」


『まあ、そりゃそうだ……とりあえず、地面に座るんじゃなく椅子に座れや』


「本当だ。ハストゥーレさん行こう」


 真っ白な絹の手袋を付けている芽依の手に掴まれ引っ張られ立ち上がったハストゥーレは、自分よりも随分と背丈の小さな子に目を見開く。


「……………………」


 手を繋いだままグングンと引っ張られるハストゥーレは生まれてこの方こんな扱いを受けたことはない。

 なんの理由も無くただ手を繋ぐ芽依に気付かれない程度に眉を寄せ顔を強ばらせた。


「はい、座って下さい」


 自分が座る場所の隣の椅子を引いてハストゥーレに促すと、命令と受け取り素直に座った。


『どれから決めんだ』


「お金」


『いきなりそこかよ』


 クッ……と笑うメディトークに、お金大事!と高らかに言う。


『まあよ、給料として支払うなら別に構わねぇが金使った事あんのか?』


「え?」


「…………いえ、私所有の金銭は持った事がありません」


『だよな』


「え!?ない!?」


 バッ!とハストゥーレを見るが、美しい緑色のまつ毛が震え芽依を見つめ返す。


「……………………うっわ、可愛い。綺麗な妖精だと思ったら可愛いも含まれる贅沢な逸品だった」


『お前なぁ……一般的に奴隷に金銭を渡すことはねぇ』


「……じゃあ、欲しいのとか生活必需品とかはどうしてたの?」


「衣服等は支給されますので……」


「支給品だったぁぁぁ」


 テーブルに顔をバン……と当て頭を抱える姿をハストゥーレは眺めていた。

 表情の乏しいこの妖精から見ても初めての反応を示す芽依に困惑しているのがメディトークから見てもわかる。

 芽依がこんな反応をしてはいるが、この世界の奴隷とは労働する物扱いなのだ。

 物に金は渡さない、それもこの世界の常識。

 むしろこの芽依の提案に疑問も持たず直ぐに対応するメディトークの頭の柔らかさの方が異常では無いだろうか。


『おい、こいつはこんなヤツだ。今までの生活とまるで変わるが、それにすぐ慣れろとは言わねぇからよ、なんかありゃ相談しろ。遠慮なく言やぁいいコイツでも良いし、俺でも構わねぇ』 


「いっけめーん」


『お前は少し黙ってろや』


 顔を上げた芽依の頬をブニッと潰し唇がタコのように前に出る。

 そんな2人の様子にハストゥーレはただただ驚いていた。

 あの領主館での2人の様子を見ていたが、本当に普段からこんな関係性なのかと呆然としてしまう。


「賃金だけど、普通の人ってひと月どれくらい?」


『そうだな職種にもよるが…………』


 2人が真剣に話しているのは本当に奴隷である自分の事なのだろうか、と困惑していると月払いの金額がドンドンと上がっているでは無いか。


『足りねぇか?これでも街で働くヤツの2ヶ月弱だぞ?』


「だって、初めてこっちに来たから買いたいものだって出るだろうし、自分で買い物を楽しむ事も覚えて欲しいから、だからもう一声!」


『……仕方ねぇな、大体2ヶ月半分だ。これ以上は上げねぇぞ』


 やったー!と喜ぶ芽依が主人の筈なのに、本当に何かを決める時にメディトークと相談している。

 ギルベルトには無かった姿に、今後ここでの新しい生活に少しだけ興味が湧いた。


「ハストゥーレさん!お給料が決まりましたよ!足りるかな、足りるかな……ねぇメディさんど………………どれい……の方に色々買うのは主人の役目?」


『クッ……奴隷って嫌そうに言うな。そうだな、金を渡さないから最低限は主人が用意する』


 あまりにも顔を歪ませながら奴隷と言う芽依に面白そうに笑うメディトーク。

 質問に肯定すると芽依は目を輝かせ満面の笑みを浮かべる。


「メディさん、明日買い物行こう!ね?買い物!」


『明日だぁ?急だな……ああ、ハストゥーレのか?』


「うん、なんだっけ、所有の証?とやらも買わないといけないんでしょ?」


『ああ、それはすぐにでも必要だな。特にハストゥーレは優良だ、攫われかねねぇぞ。庭から出さねぇなら別だがな』


 真面目な顔で言われ芽依はヒッ!と声を上げた。


「監禁ダメ、絶対!お外大事!早めに買わないとだね…………お買い物ぉ、へへ」


『楽しそうじゃねぇか』


「楽しみ!だって、クリスマスケーキキット目的で買い物しただけで、後はした事ない!」


 楽しみだね!と笑ってハストゥーレを見ると、無表情のまま芽依を見返すのみ。

 ん?と首を傾げると、メディトークから意外な言葉が返ってきた。


『さっきから話さねぇけどよ、発言の許可は出したのか?出さねぇと話さねぇぞ』


「は、発言の許可ぁぁ!?自由に話してよぉぉぉ!そんな許可とか待たなくて良いから好きにして!!我慢禁止!」


「…………ご主人様、これからよろしくお願い致します。どんな事でも誠心誠意尽くしますのでなんなりとお申し付けください」


 ドサァ

 椅子から落ち顔を両手で抑える芽依は小さく呟いた。


「……………………これはこれで新たな扉が開きそう……」


『今のは主人となったヤツへの最初の挨拶だからな。お前、ハストゥーレに変なことすんじゃねぇぞ』


「私を変態みたいに言わないで!」




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