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第77話 身内(? )だけのスペシャル食事会


 芽依の座るテーブルの前にはとても可愛らしい雪の結晶の形をした1口サイズのお菓子が入った箱が置いてあった。

 ブランシェットからのプレゼントで、口に入れるとシュワシュワと溶ける甘味菓子のようだ。

 セイシルリードからの連盟らしく、今後もよろしくと言って帰って行った。


「すごい可愛い!」


 箱を開けると6つお菓子が入っている。

 後で楽しみに取っておこうと箱庭にしまい込むと、別の箱が隣から渡された。


「…………わぁ」


 黒いケースの側面に宝石が飾られていて、パカリと上の蓋が開くケースだった。

 中には8つ2段になったチョコレートボンボンが入っている。


「!!チョコレート!?」


 この世界では見たことがなかったチョコレート。

 自分の欲しいものは作っていたのでお店に行く機会がなかったのだが、お店にチョコレートは普通に売っている。

 それを知らない芽依の驚きは凄まじく、椅子を蹴倒し立ち上がってケースを両手でしっかりと持った。


「なんだ、メイはチョコレートは嫌いだったか?」


「だいっすき!わぁ、嬉しい……しかも!お……お酒様では……」


「お前の好きそうな物を選んだがどうだ?」


「嬉しいです!」


「そうか」


 満足そうに目を伏せ口端を上げるセルジオにギルベルトは目を見開いた。

 こんな穏やかな表情をするセルジオを初めて見たからだ。


「不思議だ、移民の民であるのがいまだに信じられん」


「国から通達が行かなかったか?」


「ああ、来たが……それを信じるヤツはまだ居ないからな。我が領は変わらん」


「すぐには変わらない、か」


 巨人の多いギルベルトの領、ガイウス領は小さな領土で街が2つある。

 その2つ共に巨人は住んでいて、保護を受けている移民の民とその伴侶は無理を言ってひとつの街に住み着いて貰った。

 狭いがゆえに顔を付き合わせる機会が多いのだが、こちらでもその対応は昔のままらしい。

 芽依が現れたことにより国の中枢に芽依の話が行き、全ての領にその話が回るまであまり時間は要しなかった。

 それは、第1王子が自ら芽依を1度見ているからだ。

 カテリーデンの客に紛れ芽依を見に来た第1王子と、その側近たちは笑顔で接客する芽依に大層驚いた。

 人間人外者に分け隔てなく対応し、一緒にいるメディトークには自らしがみつく。

 たまたま居たメロディア達ふたりと、フェンネルとはいい関係を気付きお互いの物を物々交換している様子もある。

 それで信じた国の中枢から通達された移民の民への取扱説明書だったが、それを実行する人間も人外者も今の所いないのだ。


「聞いてはいたが、驚きの方が強いな」


「まだうちに居るメイを抜いた16組の中でそれが出来ているのは1組だけなのだ。まだまだ先は長いな」


「1組だけでも、それが出来ているのが凄いことだ」


 そんな二人の会話を黙って聞いていた芽依は、ふと静かなシャルドネと目が合った。

 ふわりと微笑む美しい森の妖精は優雅に食事を取っている。

 最近会わなかったシャルドネに久々に会ってホクホクとしていると、隣から冷たい眼差し。

 そういえば仲悪かったなぁ……と遠い目をした。


 こうしてたわいもない話をしつつ食事を進めている。

 普段会わないからこそ最近の話をしたり、新しい移民の民の変化を話したり。

 話題は盛りだくさんだ。


「ほら」


「あ、ありがとうございます」


 渡されたのはポットパイ。小さな器に入ったビーフシチューをパイで包んでいる。

 上からサクッとパイを崩してシチューに浸し食べると味も染みてとても美味しいのだ。


「んんー!蕩ける、お肉もホロホロ!」


 そう食べていると、いつの間にかギルベルトの後ろに立つ緑の人外者に気付いた。

 最初は座っていたはずなのに、何故か今は立っている。


「………………あの、座らないんですか?」


「お気遣い頂いてありがとうございます、大丈夫です」


「ああ、見ての通りコイツは奴隷だから、気にせんでくれ。悪いなこんな場所で一緒の席につかせて」


「いや、私達は気にしないよ」


「本当に心が広いな」


「………………………………………………は?」


 カラン……と持っていたスプーンが床に落ちた。

 その音に気付いたのか全員が芽依を見ると、目がこぼれんばかりに見開いている。


「………………奴隷?」


「ああ、君は奴隷と一緒の席に着くのは嫌だったか、悪かったな」


「そうなのか?……メイ、彼は確かに奴隷だが犯罪奴隷という訳じゃなくてだな……」


 アリステアがフォローするように言うが、問題はそこではないのだ。

 奴隷という存在を始めて見た事自体がもう驚きなのだ。


「奴隷!?」


「………………申し訳ありません、ご不快でしたか」


「いや!奴隷!?」


「何回言うんだ」


「…………………………だって、こんなフェアリーなキラキラしい世界に奴隷が居るなんて……いや、残忍な所もあるから可笑しくないの?」


「もしかして、奴隷がいるの知りませんでしたか?」


「知らなかったです!驚きです!」


 眉を寄せて悩む芽依を、微笑んだままシャルドネが聞いた。

 芽依はジッと緑の人外者を見る。

 セルジオ達のような大人の男と言うよりとちらかというとフェンネルのような中性的な美しさをもつこの人外者。

 そしてギルベルトを見てハッとした。


「………………ま、まさか、せいてきな、いやんなどれい……」


「労働奴隷だ!!気持ち悪い間違いをするんじゃない!!」


「………………すんません」


「お前な……」


「だって、奴隷のイメージが働く人と、いやんな奴隷さんだったから……そっかぁ」


「奴隷に興味があるのか?」


「ないっす」


 チラチラ奴隷と言われた人外者を見ながら答える芽依だったが、椅子に座り直し新しく渡されたスプーンでポットパイを食べ始めた頃にはもう夢中だった。

 ただ、身近に居ない奴隷と言われる存在が気になっただけで興味はないのだ。


「………………おかしな奴だな」


「至って普通ですよ…………あ、アリステア様、明日にでもお話したい事がありました」


「ん?わかった、時間を作っておこう」


「ありがとうございます!」


 えへへと笑ってポットパイを食べきった後、取り出したアリステアとセルジオ、シャルドネのケーキ。

 ブランシェットの物と形が違うが上から雪が降るのは同じだった。

 3人は目を見開きその出来の良さを見つめる。


「私のは……メディトークか?」


「はい、メディさんに会わせてもらった感謝です。メディさんが居るのって私にとって凄く幸せな事なので。そして、私を保護してくれたアリステア様への感謝です」


 雪が降る小さなドーム状のケースの中にはショートケーキがあり、その上に佇むメディトークの形の砂糖菓子は、一定時間になったら動き現れるアリステア形砂糖菓子と、向かい合いのだ。

 見方によっては、アリステアがメディトークを撫でるように手を伸ばしているように見える。


「…………凄いな、食べるのが勿体ない」


「食べてください、暫定食の日なんですから」


「そうだな、頂こう」


「……………………………………」


 ふふ、と笑ってケースを外すと雪は止み、ケーキに溶けていった。

 これで調度良い甘さのケーキになるのだ。

 今年のカナンクル用に売り出されたケーキキットの新発売で、数量限定品をメディトークと選んで購入したのだ。

 ケーキの材料と、魔術が敷いてあるケースのセットでカナンクルの日限定と契約されている。

 中のケーキは補正が掛かっていて想像通りに出来上がるのだが、カナンクルの日が過ぎた瞬間、元の実力のケーキに姿が変わる為保存が効かず、必ずカナンクルの日に食べなくてはいけない代物なのだ。


「………………ほぉ、俺とお前か」


「セルジオさんはもう、これ以外思いつかなかったです」


 生チョコケーキの上に室内にいる芽依とセルジオ。まったり座りお酒を飲む芽依と、斜め前でワインを片手に本を読むセルジオがそこに居て、いつかのお酒タイムが再現されていた。

 2人のまったりタイムがあることを初めて知ったアリステアは驚き、シャルドネは目を細める。


「…………私は薔薇、ですか」


 シャルドネに渡したのはフルーツが間にたっぷり挟んだクリームケーキの上に真っ赤な薔薇の砂糖菓子が6つ飾られている。


「なぜ、薔薇なのですか?」


「んーと、ですね。シャルドネさんとはあまりお話する機会がなかったので、私の居た場所の花言葉をプレゼントしようかと」


 えへ、と笑って頬をかいた芽依に首を傾げる。


「花言葉、ですか。こちらとは違うのでしょうか。意味を教えて貰えますか?」


「あなたを知りたい……と言う意味にしたかったのですけど、調度良いのを覚えてなくて……お互いに知り合い…………分かちあって愛していきましょ……痛っ!」


「馬鹿か!お前は!!」


「だって!良いのがなかったんですよ!だから、知り合いたいねって意味で……」


「カナンクルは恋の祝福もあると言っただろう!しかもミサの後だぞ!」


「え!?そこにもかかるの!?」


「カナンクルのミサはシーフォルムの魔術と来た人間や人外者の複数人からの魔術の重なりからくる強力な祝福なのだ。軽い気持ちで愛に関する物を送るのはあまりいい事では無いぞ」


「あ、あわわわわ!そうだったのですね!?そんなつもりは!!ごめんなさい不快な思いをさせてしまって」


「いえ、とても光栄ですよ。喜んで頂かせて貰いますね」


「シャルドネ!」


「なんですかセルジオ、食事の席で立つのは行儀が悪いですよ……貴方が貰えないものだったから腹が立っているのですか?残念でしたね…………おや、甘さがとても私好みです」


 2人がケーキでピリピリしだし、芽依はシャルドネのケーキを回収するべきかと迷っていると、ケーキの用意がないギルベルト達を見る。

 芽依は箱庭を出しデコレーションされたキャロットケーキを選んで2つ出した。


「良かったらどうぞ、カナンクルですし暫定食の日ですから。ケーキ、嫌いじゃなかったら」


「…………いいのか?」


「私も、ですか?」


「はい、良かったら。カナンクルは出会いを祝う日でもあるんですよね?」


 えへ、と笑った芽依にギルベルトは微笑んだ。

 巨人とのハーフで芽依よりも大きくブランシェット大好きなマザコンと言うよろしくなさそうな人ではあるが、人好きのする綺麗な顔をしている。

 やはりこの世界の人たちは皆綺麗な外見をしているんだなとしみじみと思った。



 こうして、芽依の初めてのカナンクルが終わった。

 全員からお菓子のプレゼントを貰った芽依はホクホクだ。

 メディトークからも進められたケーキだったが、どうやらカナンクルでのプレゼントは基本的残らない物の方がいいらしい。

 ミサに出た人や人外者は特にそのプレゼントに祝福が宿しやすくなり、渡した相手との繋がりが強くなるそうだ。

 気を付けなくてはいけないことがまだまだ沢山あるようで、芽依は日々勉強だなぁと今は前の世界よりも好きになり掛けているこの世界を思って暖かな布団に潜り込んだ。








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