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第76話 身内(? )だけのスペシャル食事会


 ミサを終えたその夜、芽依は部屋の湯船でゆっくりと体を温めていた。

 ミサでは普段カテリーデンでしか会わない人とも会い、知らない人との交流も出来た。

 あの素晴らしき少年とも話が出来、まさかのハグや、助けてあげる発言まで貰えて芽依は有頂天だ。

 ぶどう狩りまで言い、セルジオに怒られるくらいに少年に振り切っていた。

 それくらいあの少年は芽依にとって魅力的なのだった。


「………………はぁ、楽しかった!」


 ザバッ!とお風呂から出た芽依は、いつもと同じように用意されている服に着替えた。

 いつもなら就寝用の衣類に変えるのだが、今回は遅ればせながら身内だけでのカナンクルパーティをするのだ。


 フワフワとした薄いサーモンピンクのスカートは大人可愛いもので裾から10cm程スリットが入っていた。

 上は生成色のセーターで、肩からVの字でぶわりとフリルが入っている。

 フリルの下側の色は黒で生成色1色のセーターはメリハリのあるデザインになっていた。


「今日も可愛い」


 くるりと髪をあげてヘアクリップでとめた。

 大きな蝶の飾りが纏めた髪を覆い隠すように付いていて、スカートよりも濃いピンクの羽には小さな宝石がついていてキラキラと輝いている。

 こういった小物も1式用意されている為、全身コーディネートをしてくれるセルジオには頭が上がらなかった。

 しかも、可愛らしく豪華なヘアアクセサリーも不器用な芽依がひとりで簡単に出来るものしか用意されていない。

 良く芽依を見ていてくれる証拠だろう。



「さあ、行きますか」


 室内履きのような柔らかな靴はミサでずっと立っていた足を労わってくれて、まるで素足で歩いているかのような楽さだった。

 フワフワとした感覚でいつもの食事をする場に向かうと、そこには既にアリステアとセルジオ、ブランシェットにシャルドネ、そして何故かギルベルトと、緑の髪の人外者もいた。


「……………………お?」


「悪いな、どうしても参加したいと言ってきて」


「はぁ……」


 頷きいつものように椅子を引いたセルジオの隣に座ると、ブランシェットが向かいでニコニコとしている。


「あれ、ブランシェットさん大丈夫ですか?」


「セイシルリードの事かしら?いつも少しだけ顔を出してから帰るから大丈夫よ、ありがとう」


「ううう……ブランシェット……」


「いい加減諦めろギルベルト」


 はぁ、と息を吐き出して言ったアリステアにギルベルトは巨体を揺らして泣きそうに机をダンッと叩こうとしてシャルドネに止められている。

 テーブルには芽依の庭から取れた野菜や肉で作った料理が並んでいて、ミサで食べた軽食の補いをする。

 酒はワインもあるがリーグレアも並んでいて芽依を喜ばせた。


「さあ、食べようか」


 アリステアの一言で食事が開始した。

 この世界では食事の前の挨拶もお祈りもない。

 目上の者が食べ始めてから食事は開始される。


「………………相変わらず凄いな、この食材の豊富さ」


「ちょっと張り切りすぎて作りすぎちゃったんですよね、腐らせる前に何とかしないとなんですよ」


「まあ、どれくらい作ったのかしら?」


「えーっと………………これ……」


 箱庭を開いて野菜の個数を見せると全員が口を閉じた。


「いっっったぁぁあ!!」


「限度を覚えろ!なんだこの訳分からん量は!!」


「…………食糧難……の、はず……」


「肉とかは問題無い量ですね」


「お肉担当はメディさんなんですぅぅぅ」


 腐らせる程の量を蓄えている芽依は、これをどうするか迷っていた。

 冬だしと思って作りまくっていたら量が有り得なくなっていたのだ。

 安売りをするべきか、どうするべきか。

 そう考えてるうちに、全ての野菜が豊作プリプリモリモリになっていたのだ。


「そんなにすごい作ったのか?」


 アリステアも覗き込むと目を見開きその量に愕然とした。


「…………どうしたらこんなに作れるのだ」


「えぇぇ、普通に……多分他の人と変わりないですよ。やっぱり恩恵じゃないですかね?……アリステア様、領の備蓄に使ってもらえたりしませんか」


「あ、ああ、それはとても助かるが……いいのか?」


「腐らせるより全然いいです!でも、生野菜の備蓄ってどうやってるんですか?やっぱり魔術?」


「そうだな、時間停止を掛けている建物にそれぞれ食材を入れ保管しているのだ。」


「すごい量になりますね」


「ああ、だから備蓄場所は別に広く作り専用にしているのだ。いつ何が起きるか分からないからな国も他の領もそれぞれ十分な量を備蓄している」


「………………ふむ、じゃあ今は備蓄量増やす必要無い感じですか?」


「いや、提供してくれるならとても助かる。冬に足りず備蓄を出すことがあるのだ。飢饉が来たら備蓄量を十分に用意しても足りないこともある。小さな子や高齢の者がやはり困るのだ」


 カナンクルでのお祝いの席で、思ったよりも暗い話になってしまった!と思ったら、ギルベルトが手を挙げた。


「…………悪い、その余った食材を我が領にも提供頂けないか。あまり収穫量が上がらず冬を超えるのが難しい者がでそうでな」


 困ったように言うギルベルト。

 領主としての手腕は素晴らしいが、如何せん庭は完全管轄外である。

 そして領民の半分が巨人なのである為その食事量はアリステア達の5倍以上食べる。

 毎年食材はカツカツなのだ。


「ああ、そうだなそっちも大変だったな」


「出来たら毎年このカナンクルで食材を頂ければ助かる」


「図々しいな」


「…………………………すみませんセルジオ様。ですが、我が領でも切実な悩みでして」


 セルジオはこの時期のギルベルトの訪問はただの迷惑としか考えられず、更に芽依への食材提供を言ってきた事にジロリと睨みつけた。


「た、確かに……足りなさそう……」


 真剣な話をしながらもギルベルトは食べる手を止めず、既に3分の1が無くなっていた。

 それにブランシェットはピシリと額に青筋を浮かべ、ビンタをして椅子から吹き飛ばした。


「皆がいる席ですよ。あなた一人の食事ではありませんからね」


「す、すまんブランシェット……」


 床に座り込み目元を染めたギルベルトが頬に手を当ててキラキラした目でブランシェットを見た。

 あー……この人もしかして、これで喜ぶ趣味があるのでは……


「と!とりあえず!ひもじいのは困るから私は良いけど…………ちら」


 セルジオをチラリと確認すると、セルジオは腕を組み目を瞑っていた。明らかに不機嫌である。


「も、勿論ドラムストの困らない程度でいいし、少しでもいいんだ!」


「少し、芽依と相談させてくれ。こちらとしても備蓄を増やすのは大事だからな」


「ああ、わかった」


 ほっとしたように頷いてまた食べ出すギルベルト。

 たしかにこれだけ食べるなら備蓄も沢山必要だろう。


「…………アリステア、私そろそろお暇をするわ」


「ああ、セイシルリードをまたせても悪いしな」


「わかっていますから怒ったりしませんわよ。お嬢さんケーキをありがとう」


「はい、セイシルリードさんに宜しくお伝え下さい」


 帰るのは残念だが、旦那さんが待っているのだ。引き止めるのも困るだろう。

 ふわりと笑って部屋を出ていったブランシェットにギルベルトは、あ…………と呟き手を伸ばしたが振り返ること無く帰って行った。


「……………………いい加減諦めたらどうですか?」 


「そう簡単に諦めれたら苦労はせん!」 


「まあ、そうですね」


 ふふ、と笑ってワインを飲むシャルドネを睨みつけるギルベルトだが、そんな視線をものともせずにいる。

 困ったように見るアリステアはもう今年のカナンクルも終わりだなと息を吐き出した。




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